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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第3章

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32:森の薬草

 スライムと言えば確かにゼリー状だけど、体内に取り込んだものを消化する怖い魔物だと思っていた。

 クラウスは頷いた。


「一部のスライムは食える。核を炎の魔法で素早く焼いて殺せば、体は消化機能を失って残るんだ。冒険者の中には、砂糖をまぶして食う奴もいる」


「なるほどー!」


 工業的に作ることは無理でも、この世界には不思議食材があふれている。探せば色んなものがありそうだ。


「今度試してみます」


「ああ。出来上がったら試食させてくれ」


 クラウスはぶれないな。

 フィンとミアも興味深そうに話を聞いていた。


「マシュマロ、食べてみたい」


「甘いおかし、大好き」


『吾輩は菓子より肉や魚が良い』


 口々にそんなことを言っておしゃべりしているうちに、夜は更けていった。





 翌朝。クラウスとラテが交代で不寝番をしてくれたおかげで、私と子供たちはぐっすりと眠ることができた。


「よし。テントは解体しないで、そのまま格納してみよう」


 地面に固定する杭だけ外して、倉庫に入れる。何の問題もなく格納された。


「これで次からはスピード設置できちゃうね!」


「おぉー! ぱちぱち」


 私がVサインをすると、フィンとミアは手を叩いてくれた。

 ケバブサンドで手軽に朝食を済ませて、帰ることにした。


「あ。あそこに薬草があるよ」


 帰り道の森の中、フィンが指さした。近づいてみると、確かにナタリーに教えてもらった薬草である。

 野生のニラにそっくりな見た目で、匂いも似ていた。名前は確か、そのものズバリの「森ニラ」。

 滋養強壮と疲労回復、解毒効果のある薬草だ。


「ちょうどいい。採っていこう」


 手を伸ばしかけた私に、クラウスが言う。


「待て。森ニラは、イヌサフランという毒草によく似ている。見分けはつくか?」


「え……」


 私が思わず手を引っ込めると、彼は続けた。


「冒険者の中にも、森ニラとイヌサフランを間違えて食って腹を壊したり、最悪死ぬ奴がたまにいる」


「死ぬの!?」


 かなり強い毒性だ。これはやめておいた方が無難かも。

 私が迷っていると、ミアが森ニラを引っこ抜いた。くんくんと匂いを嗅いでいる。


「食べられそうな気がする」


「え? 分かるの?」


「たぶん……」


 ミアは辺りをきょろきょろと見回すと、少し離れた場所に生えていた森ニラに近づいた。やはり匂いを嗅いでいる。


「こっちは、食べたらだめなにおいがする」


「……」


 ミアは味覚と嗅覚がとても鋭い子だ。割れ鍋亭に来てまもなく、ケバブ用のヨーグルトソースの配合を匂いで見破っていた。

 私は両方の森ニラ(?)を手に取って、匂いを嗅いでみた。


「違い、ぜんぜん分からない」


 どちらもさほど強くない、ニラみたいな匂いがするだけだ。フィンとクラウスも首を振った。

 唯一ラテだけが、ミアが「食べられない」と言った方の草の前で鼻にしわを寄せる。


『確かに、この草は苦い匂いがする。だが、ごくわずかだ。言われなければ気付けたか分からん』


「ミアが正しそうね」


 私は頷いた。


「森ニラを持って帰ろう。念のため、イヌサフランっぽい方も少しだけ持っていって、ナタリーに見分けてもらおう」


 私たちは森ニラを集めて倉庫に放り込んだ。イヌサフランも少量採取して、赤い紐を結んでおく。これならば間違えることはない。


「あっちにラズベリーがあるよ」


 ミアが手を振った。

 ラズベリーはまだ花が咲いておらず、実もついていない。だが葉っぱには喉の痛みを和らげる効果がある。

 春の新芽が出ていたので、葉っぱをむしって持っていくことにした。


 こうして薬草をゲットした私たちは、今度こそ王都に帰還したのだった。





 王都に帰り着く頃には、すっかり夕方になっていた。

 相変わらず城門は閑散としていて、警備兵たちも顔色が悪い。


「シスター、おかえり。いい食材は採れたかい?」


 馴染みの兵士が話しかけてきたので、私はにんまりと笑ってみせた。


「ばっちりですよ。美味しくって力の出るお料理を作るから、風邪なんか吹き飛ばしちゃいましょう!」


「はは、それはいいね……ゲホ、ゲホッ」


 彼も罹患中らしく、顔色が悪い。私は「お大事に」と伝えて足早に割れ鍋亭へ戻った。

 もう時間が遅くなってしまったので、施療院には寄らずに先にシジミ貝の砂抜きをすることにする。


 厨房でバケツいっぱいの貝を出す。時間停止の絶対倉庫だが、取り出したシジミ貝は別に死んだりしていない。上下の貝がらの隙間から舌を少し覗かせて、生きている様子が分かる。


「このままだと砂がじゃりじゃりだから、砂抜きをするよ」


 まず、さらに大きな別のバケツを用意した。

 シジミは軽く水洗いする。次にざるを取り出し、バケツに乗せた。ざるにはシジミ貝を入れて、貝にかぶる程度の塩水を満たした。


「普通のお水じゃなくて、塩水なの?」


 フィンが不思議そうに首を傾げる。


「そうよ。塩水だと、浸透圧の関係で旨味が逃げないの」


「しんとーあつ???」


「あ、えーっと。浸透圧っていうのは、半透膜という特別な膜を水が通って、薄い液から濃い液の方へ移動しようとするときに生じる圧力のこと」


「よくわかんない」


 フィンはますます首を傾げた。うん、私の説明下手くそだわ。


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