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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第3章

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29:魔物、出番なし

「わあっ!」


 逃げようとしたフィンが、水と泥に足を取られて転んでしまった。

 巨大シジミが触手(?)をムチのようにしならせて、フィンを狙う。


「危ないっ!」


 私はとっさに彼を抱きしめて、巨大シジミに背を向けた。

 その横を何かが疾風のように走り抜けていく。目の端に映るのは、銀色のひとすじ。クラウスだ。

 彼は水面を非常な早さで駆け抜けて、瞬時に巨大シジミに肉薄した。


 一閃。

 目にも留まらぬ速さで繰り出された一撃が、巨大な魔物を両断する。中身ごと貝がらの継ぎ目を切り飛ばされたシジミ貝は、大きな水しぶきを上げて水中に沈んだ。

 巨大シジミの方に集まっていった普通のシジミたちが、また浅瀬の方に逃げてくる。


 湖の主だっただろう魔物は、一撃で絶命したのである。


「これで静かになった。続けてくれ」


 いつの間にか湖畔に戻ったクラウスは、返り血どころか水濡れのあともない。

 フィンとミアはあんぐりと口を開いて見とれている。

 私も、改めて彼の凄さを実感した。





 それ以降は魔物が出ることもなく、私たちはシジミ貝採りを再開した。

 着替えもちゃんと持ってきているので、ずぶ濡れになってしまったフィンを着替えさせる。


 ところでラテいわく、この小さいシジミ貝もごく弱い魔物なんだそうだ。

 魔物と普通の動物の違いは、体の大きさに対してどのくらい魔力を持っているかで決まる。シジミ貝は魔物と動物の境目、やや魔物、くらいなんだとか。

 飛び跳ねるアグレッシブさは魔物ならではの動きらしい。まあ、それだけ元気いっぱいなら栄養もたっぷりだろう。


 なお、巨大シジミ貝の残骸もしっかりと絶対倉庫に格納してみた。


『そんなものが食えるのか?』


 ラテは不審そうだが、私はにっこりと笑った。


「だってこれ、どう見てもシジミ貝が巨大化したやつでしょ。ちょっと大味だとしても、お得よ。見てよこのでっかい貝柱。干物にしたり、焼いて食べたり、夢が広がるわ」


「身は美味そうだったから、なるべく傷つけないように急所を斬った」


 と、クラウス。この人もなかなか筋金入りの食いしん坊である。

 普通のシジミ貝はバケツ十個分にいっぱいになったので、とりあえず良しとする。まだまだ大丈夫だと思うが、一度に採りすぎて環境を変えるのも良くないし。


 夢中でシジミ貝採りをしていたおかげで、辺りはすっかり夕暮れになっている。


「フィン、ミア。そろそろ切り上げてお休みにしようね」


「はぁーい」


 バケツいっぱいのシジミ貝を倉庫に格納しようとして、ふと私は思った。


(私の絶対倉庫って、生き物は入れられるんだっけ?)


 普通の小倉庫や中倉庫には、生き物は入れられないとされている。実際、能力が進化する前の小倉庫には入れられなかった。

 でもねえ。良く考えれば矛盾しているのだ。

 だって、たとえ生きた動物や魚ではなくても、物には微生物が付着しているでしょ。だいたい、ラテが作ったこうじも倉庫に入っている。


「ものは試しよ。格納っと」


 シジミ貝のバケツを格納すると、何の問題もなく入った。


「ありゃ。いけちゃった」


『どうした?』


 ラテが不思議そうにしているので、事情を説明する。


『なるほど……。おぬしの倉庫が規格外なのか、はたまた何か条件があるのか』


「不思議よね。例えば、私自身は格納できるのかしら? 試してみよう」


『おい、待て!』


 ――格納!


 能力を使った途端、バチンと静電気みたいな痛みと音が走って、私は尻もちをついた。


「いたた……。私自身は無理みたい」


『馬鹿者! 万が一、おぬしが倉庫に入ってしまったらどうするのだ。倉庫の中では時間が止まるのだろう? おぬし自身が停止して、出てこられなくなるぞ』


「あっ」


 考えてみれば当たり前の可能性に行き着いて、私は身震いした。

 倉庫の出し入れは私だけが行える。その私が時間停止した場合、当然……。


「こわ……。今度から慎重にする……」


『当然だ。この愚か者が!』


 ラテがバシッと猫パンチをかましてくる。爪が出ていて普通に痛い。かなり怒っているようだ。


「ごめん。もっと気をつける」


 私が平謝りをしていると、ふとクラウスの視線に気づいた。

 あああ、しまった。彼の目の前で堂々とラテと会話をしてしまった。フィンとミアにはラテの正体を話してあるけど、クラウスには秘密にしていたのだ。

 となると当然、私は猫とお話するやべー女になってしまう。


「あのですね、これは違うんです」


 必死に言い訳をしようとするが、クラウスは表情を変えないで言った。


「ルシル。前から思っていたのだが、お前は……猫さんとお話ができるのか?」


「はい?」


 予想の斜め下からやってきた質問に、私の目が点になった。


「俺は猫が好きだ。ラテを撫でたいと思っているのだが、いつも避けられてしまう。猫とお話ができるコツがあるなら、教えてくれ」


「……」


 なにこれ。

 私が返答に困っていると、ラテが呆れた声で(念話だけど)言った。


『もういいわ。クラウスよ、吾輩は猫ではなく偉大な魔獣である。撫でる時は魚の一匹でも貢ぐように』


「……! なんだと、喋れる猫さんだったのか」


 ある意味動じていない。なんかすごい。

 私は軽率な行いを反省しつつ、クラウスとラテのやり取りに脱力するのだった。




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