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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第3章

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28:北の湖

「さあ、出発!」


 春の日の朝、私たちは王都を出た。

 必要なものは全て絶対倉庫に放り込んでいるので、みんな手ぶらである。とっても楽ちん。

 例外はクラウスで、いつでも抜けるようにと剣を腰に佩いたままでいた。


「シスター、遠出かい? 気をつけてな」


「はい。警備兵のみなさんも、風邪、お大事に」


 城門の兵士たちも風邪を引いている人が多くて、大変そうだった。

 城門は通常なら商人や旅人で賑わっているのだが、人の行き来が半減している。やはりこれは少しでも早く、おかゆを作って貢献せねばなるまい。


 北の湖までは簡素ながらも街道が通っている。

 私たちは歩きやすい道を歩いていった。

 よく晴れた日で、春の陽気が気持ちいい。

 開けた平原は、北の湖が近づくと少しずつ森になっていく。

 途中で何度か小さい魔物と出くわしたが、戦う以前にみんなクラウスを見て逃げていった。威圧力が高い。


 お昼を過ぎて少しした頃、私たちは北の湖に到着した。


「わあ……!」


 ミアが声を上げる。

 森に囲まれた湖はそれなりの広さで、青々とした水をたたえていた。


「つめたっ!」


 フィンが湖のほとりまで走っていって、手を差し入れている。

 もう春になったけれど、水はまだまだ冷たい。夏ならば素足で問題ないだろうが、こんなこともあろうかと、防水性能のある革のブーツを用意してある。


「まずはお弁当を食べちゃおうね」


 私が倉庫からお弁当箱を取り出す。布の包を解いてふたを開けると、「うわぁ~!」とフィンとミアが歓声を上げた。

 彩りもきれいに詰め込まれたお弁当は、まるでおもちゃ箱のようでもある。


「おいしい! この玉子焼き、甘くてふわふわ」


「このお肉、外はカリカリなのに、中はじゅわっとジューシーだよ!」


 双子が夢中で頬張る横で、クラウスも無言でフォークにおかずを突き刺している。

 彼は特に唐揚げが気に入ったようだ。一口食べるたびに、青い瞳をわずかに見開いている。

 さらにはタコさんウィンナーに手を伸ばした。まじまじと見つめている。

 タコさんウィンナーもS級冒険者に見つめられて、心なしか頬を染めている。

 クラウスは何度かためらった後、ようやくぱくりと口に入れた。うんうんと頷いている。


「クラウスさん。そんなに見ることありましたか?」


 私が聞くと、彼は少し黙った後に答えた。とても真面目な表情だった。


「見た目が可愛くて、食べるのがもったいなかった」


「あ、はい」


 なんだこれ。ギャップ男子か? それとも強度の天然……?


「タコさんかわいーよね」


 ミアはそう言いながら、ぱくぱく食べている。この子の方がよっぽどたくましい。


『うむ。この唐揚げとやらは、なかなかのものだな』


 ラテも唐揚げが気に入って、美味しそうに食べている。


「おにぎりも食べてね。炭水化物を食べておかないと、エネルギーが出ないから」


 私がみんなにおにぎりを差し出すと、不思議そうにしながらも受け取ってもらえた。


「ん、おいしい! 塩味だけのも美味しいけど、しょうゆ味も香ばしいね」


 フィンが笑顔で二つ目のおにぎりを頬張っている。


「醤油味は焼きおにぎりよ。お醤油ベースのタレをつけて、焼いてるの」


「中にチーズ入ってるよ」


「焼きおにぎりにはチーズが合うと思うんだよねえ。ほら、とろーり」


 そんなことをわいわいと話しながら、お弁当を食べた。

 青い空の下で、みんなで食べるお弁当。高級な料理ではないけれど、幸せで美味しい味がした。


「さあ、食べたら、お待ちかねのシジミ採りよ!」


 私は倉庫からバケツを取り出して、高々と掲げてみせた。





 シジミ貝は湖の浅瀬の泥によく住んでいるはずだ。

 私たちはそれぞれブーツを履いて、バケツとざるを手に持った。


「泥にざるを入れて、貝をすくってみてね」


「はーい!」


 フィンとミアが元気よく返事をして、さっそくざるを泥に突っ込んでいる。


「あっ。いたよ!」


 フィンが声を上げる。ざるを水で洗っていくと、小さな黒い貝がいくつも現れた。


(大きさといい、形といい。シジミ貝で間違いなさそう)


 新人冒険者君が試食してくれたので、毒がないのも実証済み。ありがとう、新人君。


「貝がらばっかり……」


 ミアがしゅんとしている。

 彼女のざるは、空の貝がらがたくさん入っていた。


「気長に探してみてね。あ、これは身が入っているよ」


 ミアのざるから閉じた貝を一つ取り出すと、彼女はぱっと笑った。


「ほんとだ。いっぱい探すね!」


「ミア、競争しようよ!」


 バケツ片手にフィンが手を振っている。二人ともとても楽しそうだ。

 貝がらは泥に戻して、生きている貝だけをバケツに入れていく。ここはシジミ貝の群生地らしく、少しの時間でたくさんのシジミ貝が採れた。


「ラテー! あなたもシジミ採り、しない?」


『せんわ。何が楽しくてわざわざ水に入らねばならん』


「あぁ、猫は水が嫌いだもんね」


『我輩は猫ではない! 偉大な魔獣だ』


 などとお約束のやり取りをしながら、楽しくシジミ採りを続ける。

 クラウスも水に入らず、辺りを警戒していた。護衛の役目をしっかり果たしてくれている。


 やがて私と双子のバケツがいっぱいになったので、一度休憩をすることにする。

 絶対倉庫があるから、もう少し確保してもいいかな?


 などと思った時。

 足元の泥が何やらもぞもぞと動き始めた。

 なんぞ……? ここは湖で、潮の満ち引きがあるわけでもないのに。


 と思ったら、泥からシジミ貝がぴょんぴょんと飛び出してきた!


「えっ、何!?」


 シジミ貝ってこんなアグレッシブな生き物だったの? 初耳なんですけど。

 唖然とする私の目の前で、シジミ貝たちは泥を飛び出して湖の奥へ走って(?)いく。

 するとゴゴゴゴ……と不気味な地鳴りがして、バッシャーン! 湖の奥に大きな水しぶきが立った。


「うわあっ!? 何あれ!」


 水を割って現れたのは、小さな家ほどもある巨大なシジミ貝だった!

 でかすぎる。あそこまで大きければ味も大味で美味しくないかもしれない。

 あ、でも、ダシの取りがいはあるかな?


『ルシル、下がれ! 貝の魔物だ!』


 ラテの鋭い念話が飛んできた。


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