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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第3章

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27:お弁当

「はい! 最高のおかゆ、作ってみせますね!」


「ああ。契約成立だ」


 握手する。彼の手は剣タコだらけで固くて、ごつごつしていた。頼もしい手だ。


「ちなみにクラウスさんって、冒険者ランクは何ですか?」


「S級だ」


 彼は黄金色に輝く冒険者証を取り出してみせた。角度によって色が違って見える、不思議な金属だ。あれは金ではなく、オリハルコンだと思う。


 おいおい……。S級って、この国でも数人しかいない超上級者じゃん。

 なんでそんな人が割れ鍋亭みたいな宿屋未満の場所に滞在してるのよ。

 まあ、そのうち聞いてみよう。


 こうして私は、凄腕剣士とやる気のない偉大な魔獣のオーバーキル戦力を引き連れて、湖まで遠出することにしたのだった。





 北の湖までは王都から徒歩で半日少々の距離。

 フィンとミアがいるから歩くのはゆっくりで、湖でシジミ取りをする時間も要る。私は一泊二日で日程を組んだ。


「えーと、そうなると。当日のお昼と夕食、次の日の朝と昼のお弁当がいるね」


 夜はキャンプ飯にしたい。

 残りの分はお弁当がいいかな。


「よーし、それなら。張り切って日本風のお弁当を作っちゃおう!」


 出発は明日になる。私は今日のうちに市場へ走って、必要な食材を買ってきた。

 お弁当と言えばおにぎりなので、お米も買う。麦に比べると割高だが、そのくらいの余裕はあるのだ。

 一通りの材料を揃えて、私は割れ鍋亭に帰った。


「フィン、ミア、ラテ。明日は朝から出発するから、早寝してね」


「はーい!」


 双子を寝かしつけて、私もさっさとベッドに入る。

 さて、明日は私も早起きしなければ。


 そうして目覚めた翌朝は、まだ日の出前。薄暗い中で眠い目をこすりながら、私はお弁当作りを始めた。

 まず作るのは、卵焼き。

 この日が来るだろうと見越して、四角い卵焼き器は鍛冶屋の親父さんに頼んで作ってもらっていた。


 卵を割り溶いて、ラテが作ってくれたお醤油とみりんを入れる。子供たちのために甘さもプラスしよう。

 ストックのハチミツを取り出して、加えた。


 厨房に甘くて香ばしい匂いが漂えば、寝ぼけまなこのフィンとミアが起きてきた。


「ルシル、なんか、甘くていい匂いがする」


「うん。おいしそう……」


 不思議そうにしている双子の前で、私は半焼けの卵を軽くかき混ぜ、くるりと巻いていった。

 せっかくだから厚焼き卵にしよう。

 巻いてできたスペースに、再び卵液を流し込む。巻いた卵の下にも行き渡らせる。

 これを何度も繰り返して、美しい層になった玉子焼きが完成した。


「わあ! きれいな黄色」


 目を輝かせるミアの横で、私は次の準備に取り掛かった。

 絶対倉庫から鶏肉を取り出す。既に一口大に切って、おろしショウガとニンニク、醤油を合わせたタレに漬け込んだ後に格納しておいたものだ。

 しっかりと味が染み込んだ鶏肉に、片栗粉代わりのでんぷんをまぶして、熱した油の鍋の中へ入れる。


 パチパチ、ジュワーッ……と食欲をそそる音が厨房に響いた。

 鶏肉は一度軽く揚げて、取り出す。少しだけ冷めたらもう一度油に入れて、今度は箸で上下を返しながら数分。

 こうやって二度揚げした方が、じっくり熱が通ってカリッとジューシーになるんだよね。


『いい匂いがするが』


 ラテがやってきて油の鍋の隣りにある唐揚げをつまみ食いしようとしたので、ぺしっと前足を叩いてやった。


「これはお昼のお弁当用。あと、鍋に近づきすぎないでね。危ないから」


 言いながら最後の秘密兵器を取り出した。

 それはミニウィンナー。

 お弁当に入れるような径の細いウィンナーは、この世界には存在しない。

 だが、魔物の「プチシープ」というやつがいる。小さい羊のような見た目をした魔物で、こいつの腸を利用して特製の腸詰めを作ったのだ。

 魔物の腸が使えるか心配だったけど、草食性で長い腸を持っていたので、問題なかった。

 腸詰めに詰めるミンチ肉と、プチシープの腸をよく洗ったものを燻製小屋に持っていって、ソーセージにしてもらったのである。


 燻製屋のおじさんには、「なんでわざわざ、こんなちっこいソーセージを作るんだよ」と笑われたけど、なんのその。

 お弁当には欠かせないこれのためさ!


 ミニソーセージの片側に切れ込みを入れる。タコの足は八本だけど、まあ、切れ込みは六本でいいだろう。


「フィン、ミア、見ててね。魔法をかけちゃうよ」


 熱したフライパンで転がせば、切込みを入れた足がくるんと丸まった。可愛らしい「タコさん」の出来上がり!


「わあ!? ソーセージがタコさんになった!」


 フィンがびっくりして背伸びして覗き込んでいる。ミアも次々と出来上がるタコさんに興味しんしんだ。

 双子が喜ぶ姿に、私はにっこりと微笑んだ。

 完成した厚焼き玉子、唐揚げ、タコさんウィンナー、それから彩りのサラダや蒸し野菜を木製の大きなお弁当箱に隙間なく詰める。

 市場で買ったお米を炊いて、おにぎりも作った。海苔がないのが残念だ。


 最後に私は、きれいなピンク色の布でお弁当を包んだ。

 絶対倉庫に入れておけば、料理は出来立てのまま保管できる。お弁当に詰める必要も布で包む必要も、本当はない。

 でも、こういうのは気分だからね。ごはんは楽しく食べるのも大事。


「よし! 湖の遠征お弁当、完成!」


 私はお弁当の包みを大事に抱えた。


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