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神に祈るより肉を焼け。追放シスターの屋台改革!  作者: 灰猫さんきち
第6章

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105/110

105:懐かしの割れ鍋亭

 翌朝。馬車停まりまで行くと、バーバラを始めとしたたくさんの人々が待ち受けていた。


「あれっ? みなさん、どうしたんですか?」


「ルシルの見送りだよ」


 バーバラがにやりと笑う。


「もう帰っちまうなんざ、寂しいが。まぁ仕方ねえよな」


「また来いよ!」


「待ってるからな!」


 漁師たちが口々に言う。


「ギルや。あんた、あたしのこと忘れるんじゃあないよ。たまに遊びに来ないと承知しないよ」


 見ればアマンダ婆さんが、孫娘の押す車椅子に座って笑っている。

 ギルは彼女の手を取って一礼した。


「もちろん。この町には仕入れでまた来ます。その時は王都のお土産を持ってきますよ」


 そう言ってウィンクなどしている。相変わらずマメな奴である。


「バーバラさんにもお土産を持ってくるよ。何がいい? そのきれいな赤い髪に似合う髪飾りとか?」


「なっ……! い、いらねえよそんなもん!」


 ばちーん。

 真っ赤になったバーバラはギルを張り倒した。

 クラウスが「やめておけばいいのに……」と微妙な顔で抱き起こしてやっていた。


「と、とにかくだ! あんたらのおかげでこの町は救われた。いくら礼を言っても足りねえ。また来たら、盛大にもてなしてやるからな。約束するぜ!」


「ありがとう! 嬉しいわ」


 私は笑って、バーバラや漁師たちと握手する。ごつごつとした働き者の手ばかりだ。

 一通りのお別れの挨拶が済んで、私たちは馬車に乗り込む。


「しゅっぱーつ!」


 行きと同じように、フィンが御者台の隣で声を上げた。

 ガタゴトと車輪を鳴らして馬車が動き出す。


「ルシル、またな!」


 バーバラが大声で叫んだ。


「ええ、またね!」


 振り返って手を振る。

 港町シートンマスの人々は、ずいぶん長いこと馬車を見送ってくれた。

 やがて町は遠ざかり、遠くに海が見えるばかりになる。もう潮の香りはしない。


(色んなことがあったけど。思い出がたくさんできた)


 代官バルダスの行いは許せなかった。

 おかげで海の汚染が進んで、海と川の生き物たちがたくさん命を落とした。

 失われた命は戻らない。だがこれから、よりよい世の中を目指すことはできる。


 倉庫の中には、たっぷりと仕入れた海の幸が格納されている。

 まだ少し残っているクラーケンの足が、今でも魔力のゆらぎを放っていた。


 こうして私たちの港町での冒険は、終わりを告げた。





 数日の旅路を経て、王都に帰り着いた。

 城門はいつもと変わらない様子で、警備兵が出迎えてくれる。


「やあ、シスター。思ったより長旅だったね?」


「ただいまです。ええ、その代わりにしっかり仕入れをしてきましたから」


 そんな挨拶を交わした後に、王都の中に入った。

 王都も変わった様子はない。真夏の熱気の中、多くの人々が行き交っている。


 やがて割れ鍋亭の前に着いた。

 私たちが馬車から降りると、御者は一礼して馬車の馬を巡らせ、去っていった。あれはアルフォンスの馬車なので、王城に帰るのだろう。


「ただいま、みんな!」


 お店は営業中で、多くのお客が入っていた。

 裏口から中に入って声を上げれば、雇い人と孤児院の子たちが一斉に振り向く。


「おかえりなさい、ルシル!」


「ギルと、フィンとミアも!」


「ついでにクラウスさんも」


 忙しい時間だからみんな手を止められないけど、口々に歓迎してくれた。


「私たちがいない間はどうだった? 何か面倒は起こらなかった?」


 私も厨房に入りながら聞く。

 出発してから今日帰ってくるまで、結局三週間以上も店を留守にしてしまった。


「大丈夫です。お店は繁盛していたし、警備兵の兵糧丸もきちんと納品しました」


「ただ、やっぱり旅するキッチンの屋台が出ないと、寂しがるお客が多かったですね。場所柄、ここの店に来るのが難しい人も多くて。ルシルさんがいつ帰ってくるのかと、何度も聞かれましたよ」


 雇い人たちが代わる代わる言う。

 私は頷いた。


「よっし! じゃあ、旅するキッチンは明日から再開しますね」


 今回の仕入れの最大の目玉は、昆布だ。これがあればダシの幅がぐっと広がる。

 シーフードラーメンのスープはほぼ完成している。港町と帰って来る道中で工夫したのだ。

 あとは麺だけど、これも港町で試作した。

 もうちょっと工夫の余地はあるが、とりあえずお店に出せる完成度になっている。


 私たちは協力して料理を作り、忙しいお昼の時間を乗り切った。


「みんな! 早速だけど、新作料理を試食してね。まかないよ」


 昆布ダシのスープの鍋を倉庫から取り出す。

 既に作ってあった麺も出して、大きな鍋で茹でた。麺は手揉みで縮れをつけた、少し太めの麺だ。

 茹でたエビと魚の切り身、ハマグリを載せて、完成!


 暑い夏の熱気がこもる厨房。みんなで汗をかきながら、ハフハフと食べる。


「おぉ……。スープが黄金色だ。美しい」


 雇い人の一人がスプーンにスープをすくってため息をついた。


「この麺というのは、どうやって食べるのかしら?」


 雇い人唯一の女性が四苦八苦している。

 箸で、と言いたいところだが、この国に箸はない。私はフォークを配った。


「フォークで少しずつすくって、ずずーっと豪快にすすりましょう」


「了解!」


 ずずー、ずずーっとあちこちから麺をすする音がする。前世の海外じゃあマナー違反だけど、これはラーメン。すすってナンボである。


「んー! 麺にスープが絡まって、麺のシコシコ感とスープの旨味が同時に味わえる!」


「ダシの味がいい。麺にも、つけあわせのエビにもばっちり合ってる」


「この旨味が、ルシルさんが港町で仕入れてきた味なんですね」


 ハフハフ、ズズーッ。汗をかきかき食べ終わる頃には、みんな満足の笑顔になっていた。


「いやぁ最近、暑くて夏バテ気味だったのですが。元気がチャージされたようです」


 夏は水分と塩分補給が大事だものね。

 明日から早速、ラーメンを屋台で出すことにした。


 アステリア王都に麺文化が爆誕した日だった。



+++

これにて港町シートンマス編は終わりになります。閑話を一つ挟みまして、次の章に入ります。

次章は第一部の最後の章。ちょっと短めですが、ヴェロニカとの因縁に完全に決着がつきます。


読んでくださってありがとうございます。

少しでも「面白そう」「続きが気になる」と思いましたら、ブックマークや評価ポイントを入れてもらえるととても嬉しいです。

評価は下の☆マーク(☆5つが満点)です。よろしくお願いします。

既にくださっているかたは、本当にありがとうございます。


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