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異世界恋愛

その婚約破棄、ちょっと待ったあぁ!〜婚約破棄はざまぁで幕を閉じなきゃね〜

作者: 早川冬哉

「フィーネ・フォン・オーウェンス、貴様との婚約を破棄する」


 レオノール・フォン・カタリネス第二王子は、進級祝いの夜会で婚約破棄を宣言した。


「何故ですか殿下……どうして」


 透き通るような銀色の長髪を靡かせ、首を振る公爵令嬢フィーネ。その紫色の瞳には、涙が滲んでいた。


「どうして、だと? 僕は知っているぞ。貴様が今までどれほどアメリアに嫌がらせしてきたのかをな!」


「そうです。私、もう我慢できなくて……」


 レオノールの横で顔を覆ったのは、男爵令嬢のアメリア。彼女の茶色の髪を撫でながら、レオノールはその赤い瞳に勝利を確信した笑みを浮かべる。


「フィーネ、貴様は何度もアメリアの教材を破いたな。それだけじゃない。廊下ですれ違うたびにアメリア突き飛ばし、時には人目を忍んで暴行を加えていたそうじゃないか」


 レオノールが次々と吐く冤罪に、会場のあちこちからどよめきが起きた。


「レオノール殿下。どうかわたくしの話を聞いて頂けませんか。わたくしはそんなこと……」


 フィーネの訴えを遮り、アメリアが涙を零しながらフィーネを指差す。


「酷いわ! あれだけのことをしておいて……私、今日までずっと、学園生活が地獄のようでしたわ」


 俯いたアメリア。──だがその口元は卑しく歪んでいた。


「そのような陰湿なことをする女、第二王子であるこの僕の婚約者として認められるわけがないだろう。さっさと僕たちの前から消えろ!」


 会場に訪れた沈黙が、フィーネに襲いかかる。


(どうしてこうなったの? わたくしは殿下のために学び、尽くしてきたというのに……)


 艶やかな唇を噛み締め、拳を握りしめたフィーネは、ワナワナと震え出した。


「承知致しました……わたくしはこれで失礼致し……」


 バタンッ!


「その婚約破棄、ちょっと待ったあぁ!」


 勢いよく扉を開けて会場に飛び込んできた赤髪の女生徒が、フィーネの言葉を切った。


「レナ・ユーク……? 子爵令嬢ごときが割って入れるような話ではないぞ!」


 レオノールの赤い瞳に睨みつけられるのもお構いなしに、レナはフィーネの横を通り過ぎる。


「大丈夫です。あとはわたしに任せてください!」


「えっ……?」


 レナはフィーネに囁くと、レオノールとアメリアからフィーネを守るように立ちはだかる。レナは茶色の瞳で、呆気に取られて心に渦巻く感情がどこかへ飛んでいったフィーネを見やる。


 そして、ポケットから何かを取り出すと、レオノールに向けて突き出した。


「それは……王家の紋章、なのか? 何故貴様ごときが持っている?」


「わたしは、国王様によって婚約破棄監査委員会の会長に任命されたレナ・ユークです。そして、婚約破棄の正当性を調査、検証する時においては、わたしは国王様と同等の権限を行使することを許されているのです」


「「「はぁっ?」」」


 レオノールにアメリア、フィーネ、そして会場にいた他の生徒たちも皆、わけがわからないという目でレナを見る。その視線に気付いたレナは、王家の紋章を弄りながら説明を始めた。


「婚約破棄監査委員会──これは昨今、あまりにも婚約破棄が多く、そのほとんどが捏造された冤罪によるものだったため、不当な婚約破棄をさせないために国王様自ら設立された委員会です」


 レナは周囲を見回し、まだあまり納得されていないとわかると説明を続けた。


「今後、婚約破棄が行われる際には当委員会がその背景事情を調査し、婚約破棄理由の正当性を吟味します。そして理由が正当でなかった場合、法令に従い国王様名義で処罰を与える委員会なのです」


 唖然とするレオノールとアメリアを置き去りに、レナは手に持っていた調査書を突き出す。


「単刀直入に申し上げます。……当委員会は今回の婚約破棄、不当なものであると判断いたしました!」


「ふざけるな! フィーネはアメリアに嫌がらせをしていたんだぞ。それで婚約破棄をする理由には十分だろう!」


 我に返り、余裕をなくしたレオノールが、金色の髪を振り乱しながら抗議する。


「…………」


 その横で、アメリアは冷や汗を流し始めたが、レオノールは気づいていない。そんな二人に対し、レナはあくまで事務的に言葉を返す。


「確かに、フィーネ様が本当にそのようなことをしていたのであれば、この婚約破棄は正当だと言えたでしょう」


 しかし、とレナは調査資料を読み上げる。


「調査の結果、フィーネ様にはアメリア様にちょっかいを出すことは不可能でした。これは、フィーネ様の付き人や学園の生徒への聞き込み、足跡探知魔法による結果により証明されています」


「はっ? ……アメリア、君はフィーネに嫌がらせを受けていたのではなかったのか?」


 レオノールは調査書を受け取り、その丁寧さと隙のなさから、調査書の内容が正しいと思えてきた。そして、愕然とアメリアを見やる。


「これはぁ……そのぉ……」


 言い淀んだアメリアが、急に入り口に向かって走り出した。


 ドテンッ!


「ぎゃっ……イタいわよ! 離しなさいよ!」


 レナはアメリアに足をかけて転ばせると、うつ伏せになったアメリアを押さえつけた。


「アメリアおまえ……なんでこんな嘘ついたんだ! 公爵家の人間に対する侮辱罪だぞ!」


「だってぇ……」


 アメリアに怒鳴りつけるレオノール。その彼を咎める威厳のある声が、会場に響く。


「それはおまえも同じだレオノール! なんて浅はかなことを……」


「父上……これは違います! これは、その……」


「もうよい!」


 やれやれと首を振り、豪快にため息を吐いたカタリネス国王は、レナに視線を送る。レナはアメリアを国王の護衛に引き渡すと、踵を揃えて乾いた音を立てた。


「はい。それでは、結論を申し上げます。当委員会はこの度の婚約破棄、不当なものと判断致します!」


 レナの判決に、会場からは賛同の拍手が巻き起こる。パチパチと乾いた音が鳴り響くなか、フィーネは胸を撫で下ろす。対してレオノールとアメリアは、魂が抜けたかのように力無くうなだれた。


「それにしても見事な手腕だったよレナ君」


 国王は自慢の白鬚をなぞりながらレナを見やる。その目線に応えるように、レナは平たい胸を張った。


「いやぁ、当然ですよこのくらい! ……それで、約束の……」


「レナさん!」


 スラリとした長身のフィーネが、膝をついてレナの背に抱きつく。


「本当にありがとう。わたくしがまだここに居られるのは貴女のおかげよ」


「あはは……。なんだか照れくさいなぁ」


 照れ隠しに首をかくレナは、初仕事の感触に満足したようだった。


***


 それから、レオノール王子は二年間の謹慎と多額の賠償責任を負い、アメリアは一家ともども爵位を剥奪され、賠償責任を負った。アメリアの家は賠償金の支払いで私財が無くなったため、今は土仕事に勤しんでいるらしい。


 フィーネは国王の計らいで、今はカタリネス王国の第一王子と婚約を結んだらしく、フィーネ本人も第一王子の人間性に心打たれ、充実した日々を送っているらしい。


「何はともあれ、これで一件落着だよねっ!」


「ああ、次も頼むぞ! レナ君」


 弾んだ足取りで王城の廊下を歩くレナの手には、今回の件の報償金──日本円にして約五千万円──が握られていた。


 いや、お金って大事じゃん……。

***

誤字「『役』五千万円」→「『約』五千万円」修正しました。

失礼しました。

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***


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