水 -みずをくるくる、おもいをこめて-
料理に美味しい気持ちを込めましょう
食事は生きるための基本です(o´∀`)b
『水』 -みずをくるくる、おもいをこめて-
☆☆☆☆☆
「おいしくなーれ、おいしくなーれ♪」
おたまを右回りで回して、料理に想いを込めていく。
美味しい料理になるように♪
「おいしくなーれ♪ おいしくなーれ♪」
美味しく食べて、幸せな気持ちになってもらえるように。
しゃもじを右回りで回しながら、幸せを込めてゆく。
「美味しい!」
「でしょっ♪」
わたしは得意満面な顔でテーブルに両肘を付きながら、
わたしの作った料理を喜んで食べる彼を、幸せな気持ちで見ている。
「俺の作ったのと全然違う! 何か秘訣があんでしょ?」
箸に乗せたご飯を放り込み、スプーンで料理をかき込み頬張りながら、
しあわせそうな表情で話しかけてきた。
「あるよー♪
しあわせを込めるの。君においしく食べてもらえるようにって♪」
「なんだよそれ」
彼は笑いながら、美味しそうにご飯を食べ続けていて、
わたしはその姿を、幸せな気持ちでずっと見ていた。
-☆☆-
「おいしくなあれ、おいしくなってね」
料理をかき回しながら、彼への想いを込めてゆく。
うん、美味しく出来た♪
でも、最近の彼は帰りが遅い。
「わたしの温かいご飯、食べて欲しいな」
最近、わたしはひとりごとが多くなったみたい。
「うん、美味しいよ♪」
「でしょ」
君はそう言って食べてくれるけれど、
以前よりも、箸が止まることが多くなった。
家へ帰るのは前よりずっと遅いのにね。
「残してもいいよ。
温め直したから美味しくないでしょ」
「ごめん、でも全部食べるよ」
そう言って無理して食べる彼を見ながら、
わたしは笑顔の影でそっとため息をつく。
-☆★☆-
「美味しくなあれ、美味しくなあれ」
右回りで料理をかき回す。
彼に食べてもらえるように……
「うん、美味しい」
そうつぶやきながら味見する。
彼が食べなくなった料理を……
「帰るのが遅くなるから、ご飯は要らないよ」
彼はそう言って、夕飯の準備は必要ないと告げる。
このところずっと毎日だ……
もやもやする。
本当に仕事忙しいのかしら……
-★★★-
「美味しくなあれ美味しくなあれ」
気持ちを込めて料理を作る。
「できた……」
味見をする。
でもあまり美味しくない気がする。
掻き回したの右回りだったかしら?
「右回りで作ると美味しくなるって教わったのに……」
どちらでもいい。
彼は今日帰ってこないのだから。
「仕事が忙しいんだ!」
家へと帰るのは日が昇った後。
洗濯物を置き、替えの服を持って、ご飯も食べずにそそくさと出て行く。
そんな毎日が続いている……
近所の住人の囁きが聞こえてくる。
彼には外に女がいるって……
もう気づいてたこと。
だいぶ前から判ってた。
見ないようにしてただけ……
今も気持ちを込めている。
料理と水へと彼への気持ちを込めながら……
「おいしくなあれおいしくなあれ」
そう呟いて心を込めて……
-★★★★-
「美味しくなあれ美味しくなあれ♪」
笑いながら、左回りに料理を掻き回して、
旋律を口ずさんで笑みを浮かべる。
「ちょっと味が濃くなり過ぎたかな?」
彼への気持ちをずっと毎日込めていた水を足して、濃くなった味を薄めながら料理を煮詰め直してゆく。
「今日は帰る。
大事な話があるんだ」
「いいわ、待ってる。
でも、夕食前にきてね。久しぶりのきみと一緒の食事がしたいから……」
言葉の外に、最後のという、彼への気持ちを乗せる。
きっと伝わると思って、その核心を込めて……
「……わかった」
もうすぐ彼が来る。
きっと最後の晩餐となる、彼との食事を並べながら、
彼と暮らし始めた、初めのときを思い出して、幸せな気持ちになる♪
「ひさしぶりね……
お話は食事をしてから、そのあとにしてくれるよね」
「ああ」
にこりともしない彼の顔、
まるで別人のよう。
「美味しいよ♪」
それでも、彼はわたしのご飯を食べて、
ほころんだように笑みを浮かべて喜んだ。
「良かった♪
作りたてのご飯なの。美味しいと言ってくれてとても嬉しいわ」
美味しげに食べる彼を見ながら、嬉しくなったわたしも、彼と一緒に食事を口にする。
「おかわりもあるから。たくさん食べてね♪」
-★☆☆★-
その後のこと、
彼の浮気相手の女が、わたしが彼に毒を盛ったと訴えたとかで警察が捜査にのために来たけれど、そんな事実は無かったし、証拠となるものも見つからなかった。
女の訴えは、被害妄想の妄言だと退けられたらしいけど、そんなことはどうでもいい。
わたしは彼のために、美味しい料理を作って出しただけ。
彼との最後の晩餐とならないように、
彼と一緒に居られるようにと、
幸せな気持ちをたくさん込めて、
美味しい料理を作ったのだ。
もちろん毒などは入れていない。
でも、アレが悪かったのかしら。
不安なときの想い。彼への想いをたくさん込めた水を料理に使ったこと。
帰ってこない彼への、
悲しさや、憤りや、
怨みや、殺意にも思える気持ち、
そんな想いをたくさん込めた水。
料理を食べ終えてから、体調を崩して、救急車で病院搬送されたわたしたち。
回復してからのわたしは、警察から幾度も事情聴取を受けた。
今の我が家はとても静かだ。
解放されてから、しばらく付きまとっていたあの女は、接触禁止の判決が下されてからは、もう近づいて来なくなった。
わたしたちには平穏な日々が訪れた。
-水と食事は生活の基本なんだよ♪-
あの人のおかげかな……
わたしに料理を教えてくれた人は、とても感受性が強くて、
人の強い感情に耐えられないために、人前に出ることが出来なかった。
-料理はね、幸せをたくさん込めると美味しくなるのよ♪-
そう言って、冷蔵庫の果実水を出して、
「この水を飲んで味見して、
それからこの水に悲しみとか怒りの気持ちを向けて、もう一度水を味わってみて。
私は離れてるから」
と言って、あの人はとなりの部屋へと遠ざかったのだった。
「不味い!?」
「そうでしょ♪」
あの人がそう言って得意げに笑ったのを、今も憶えている。
-料理の基本は、心を込めること-
わたしはきっと、正しいことが出来たのだろう。
テーブルに両肘を付きながら、あの頃の思い出に浸って、
その上にある、彼の入った白い箱を見つめる。
彼は今もここにいる。
ずっとわたしと一緒に……
どういう理屈か判りませんが、右回りで料理をかき回しながら作ると、美味しい料理が出来るそうです。
そして想いを込めると料理の味が変わるそうですね。
水に込める気持ち。
むかし面識のあった霊能者が、込める気持ちが料理を美味しくも不味くもすると言っていました……
時折語る、自分が創作の師匠だと思ってた人はやはり霊能のある人でしたが、
掻き回し方で料理の美味しさが変わると教えてくれたのはその人でした。
想いを込めて、右回しでかき回しながら作ると良いと……
二人のことをおもいだして、
それとは逆の、違う使い方で書いてみました♪(^人^)
読んでいただきまして、どうもありがとうございました♪(●´ω`●)