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12-6

休日投稿です

松柴はカナタに答えを求めた。自然と会場内の視線がカナタに集まる。

カナタは投獄中満足な物を与えられず力も入らない状態ではあるが、ここは思い切り力を入れ声を発した。


「それは俺が斬った獅童の手です。間違いありません。断面を比べればわかると思います!」


そう言い切ったカナタの言葉に思わずだろう、獅童は自らの右手を隠すようにしてしまった。


「これは断面を比べる必要もないようだな」


黙って成り行きを見ていた進行役の議員は獅童を見て重々しく言った。


「さらに付け加えさせてもらいますと、この手からはまだDNAも取れますし、しっかりと感染してます。これは剣崎さんの言っている事を証明できると考えます」


とどめに喰代博士がそう付け加えた。途端に陪審の議員たちが騒めき出した。それは本当の事であれば獅童は、引いてはそれを後押ししている長野が、議会に対して虚偽の報告をしたことになり査問会どころではなくなる。


「はあ……とりあえずその手を調べさせてもらって、確認をする時間が必要でしょう。その間、獅童隊員は禁固とします。」


進行役の議員はため息をついてそう言うと、警備隊員に目で合図して獅童を抱え上げさせて、連行しようとした。獅童は縋るような目で長野を見たが、長野と目が合うことは無かった。長野の目は松柴に向いていたからだ。


獅童は助けが得られない事を悟ると、みっともなくあがいていたが警備隊に引き立てられ会場を後にした。


「やれやれ、みっともないな」


長野はそう呟いた。それは廊下の向こうから聞こえてくる獅童の言い訳がましい声に対しての事だろう。そしてしばし目を伏せると立ち上がり、会場を出ようとする。


「おっと待ちな。アンタにも用があるよ」


そんな長野に松柴が声をかけた。同時に長野の近くにいた警備隊員が出入口を固める。


「なんのつもりだ?私には何の罪も適用されないが?獅童(アレ)に頼まれ後押しはしたが、私も騙されていたのだ。」


「そう言ったら逃げれると思ったら大間違いだよ」


そう言われ、出入口を固める大野隊長と松柴を交互に見ていたが、黙って席に戻った。しかしその表情にはまだ余裕が見える。


「分かった、用とやらを聞こうじゃありませんか。この私に何の用があるのか、忙しい私を煩わせるのだ。それなりのものなんでしょうな」


腹の中ではそんな物はないとでも思っているのだろう。


「じゃあ、質問させてもらうよ。この査問会が始まるまでの間、剣崎隊員の消息が不明だったのはどういう事かい?」


「知りませんな。獅童が勝手にやっていた事まで、私が知るはずがないでしょう」


「そうかい……じゃ次だ。査問会が始まった当初、剣崎隊員の様子が明らかにおかしかった。その時に喰代博士が飲ませたのは感染者達に噛まれた際に入ってくる感染物質を一時的に無効化するものだが……良く効いたみたいだねぇ」


「…………それも知りませんな。獅童が何かしたのでしょう。個人的に思うところがあるようでしたし」


松柴が質問することに対して、長野は知らない、獅童がやったと一貫して言う。もはや逃れられないであろう獅童を切り捨て、何もかも押し付けるつもりらしい。


「あんたが№3のある組織とつながりがあるのはもうわかっている。そこで実験されていたこともね。その内容と今回の事が妙に符合するんだが?」


「………………」


とうとう長野は口をつぐんでしまう。これ以上は何も言うつもりはないということか。


「ちなみに№3のある組織はもう壊滅しているよ。そこでアンタの名前が次々と出て来た。アンタが感染者を解剖して感染物質を取り出し、軍事利用しようとしていた事は証拠もある。カナタに飲ませたのはその過程で生まれたクスリだね。」


そこまで言うと、橘が横からスッと資料を差し出す。


「ここの資料によると、アンタ№3の組織と一緒になって感染者を捕まえて解剖して、それに飽き足らず非感染者をさらって来て意図的に感染させて実験に使っていたそうじゃないか。」


「あっ!」


それを聞いたカナタが声をあげた。美浜集落に行くときに出会った略奪者たち。花音を捕まえていたあいつらは誰かに渡すのだと言っていた。まさかこんな所で繋がってくるなんて……


「ついでに言ってしまえば都市に帰還した十一番隊を襲ったのもそいつの仲間さ。すこし暴力団っぽい集団だったろう?№3には古くからある組なんかの組織が多い。長野と手を組んでいるのもそう言った連中さ。うちの史佳と翠蓮、白蓮が行ってつぶしてしまったがね」


そう言って松柴はかっかっと笑っている。


「ふふふ……」


しかしそんな話を聞いてなお余裕を崩さないどころか、こらえきれないといった感じで長野は笑いだす。


「つぶしただと?そんなわけがないだろう!貴様たちが思っているほどやわな組織じゃないんだよ!」


そう言うと長野は立ち上がり、右手を大きく上げてどこかに向けてハンドサインを送った。


「松柴さん!」 ガシャン!


とっさに危険を感じたカナタが松柴の前に立つ。それと同時に窓を破って何かが会場に飛び込んできた。

それは筒状の形をした、金属製の物質だった。すでに薄く煙をだしている。それと同時に、大野隊長が叫んだ。


「フラッシュバン!」


叫ぶと同時に長野に向かって飛び掛かった大野隊長だったが、その前に何者かが立ちふさがるのが見えた。

しかし、それを確認することはできなかった。

激しい光と音。それらが会場にいるすべての人を襲った。目を開けてなどいられず、激しい音のせいで耳も聞こえなくなってしまい、平衡感覚までおかしくなってしまったようだ。無意識に手で耳を塞ぐが、耳鳴りのような音が響いている。


時間と共にそれらは収まってきたが、十秒ほどの時間を与えてしまった。ようやく目と耳が使える様になった頃には長野の姿はなく、大野隊長は元いた場所で倒れていた。


「大野隊長!」


それを見た白蓮が駆け寄る。するとどこからか女の声が聞こえて来た。


「長野さんはもろていくで。そこのおっさん、何も見えんくせにウチに触ろうとしたからな、つい刺してもうたわ。悪気はあらへんねんで。ごめんな!」


それだけ言うと、声はきこえなくなった。だが、カナタにはその声が聞き覚えのある声のような気がしていた。しかし、どこで聞いた声か思い出す余裕などなかった。会場の中は惨憺たる有様だったからだ。

そこかしこに人が倒れていて、苦しそうな声をあげている。

戦場を経験している者が警戒していてさえ、数秒うごけなくなったほどの衝撃だ。無警戒に食らった者はたまったものではないだろう。


後から聞いた話によると、さっきのはフラッシュバンやスタングレネードといわれる手りゅう弾の一種で非殺傷武器として激しい音と閃光で一時的に無力化させるものらしい。軍の作戦行動時や、警察機関が人質を救出する際に使用する物で非殺傷といっても、後で難聴になったりすることもあるくらいの威力がある。


「幸いけが人はいない様です。長野には逃げられましたが……」


部下に支えられながら大野隊長が松柴にそう報告していた。押さえた腹の部分には赤い染みが広がっている。


「けが人がいない?どこ見ていってんだい!アタシの目の前にいるじゃないか。さっさと治療してきな!」


松柴に怒鳴られるように言われた大野隊長は首をすくませ、苦笑いすると部下に何か指示を出し、治療のために退出した。


こうして、カナタの査問会はバタバタのうちに閉会を迎えた。当然無実である事も認められて無罪放免である。いろいろな事が起きすぎて、どこから考えればいいかもわからなくなっているが、カナタの体調を気遣った松柴の指示によりしばらくは休養を取るようにと命令が十一番隊に伝えられた。



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