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12-4

続けて休日投稿だぁ!

中に入るまでにかなり時間がかかってしまったが、無事に議会堂に入る事が出来た。案内板に従って部屋に入ると、そこにはもう長野をはじめとする議員らは着席していて、ゆず達が着席した頃に獅童も長野の所に姿を見せた。

何かしっ責を受けている様子で、スバル達はいい気味だと声を潜めて笑った。


「定刻になったので査問会を始めたいと思う!今回査問を受けるのは守備隊第十一番隊隊長の剣崎カナタ。訴えは六番隊隊長獅童オウキ。内容は剣崎カナタにより謂れにない暴行を受けた。その際に武器も使用し片腕を欠損した。これに相違はないか?」


進行役が淡々と訴えの内容を述べ、最後に獅童に確認した。


「間違いありません。あいつは何もしていない僕にいきなり斬りかかってきて、この手を見てください!」


そこまで言うと獅童は腕の包帯も解いて、まだ赤い傷跡を周りから良く見える様に上げた。


「剣崎は僕の事を一方的に恨んでいたようで、これも普段から僕が色んな人、主に女性ですが。ちやほやされるのをうらやんでいたものと……」


「獅童隊員!余計な発言は控えたまえ」


調子に乗って話そうとした獅童を進行役が窘めた。


獅童は少し悔しそうな顔をしているが、重ねて長野に何か言われて、少ししゅんとしている。


「では、当該被告の剣崎隊員をつれてきたまえ」


進行役がそう告げると、出入口らしきドアの両脇に立っていた屈強な警備隊員が姿を消し、数分としないうちにカナタを抱えるようにして連れて来た。

その姿を見て、スバル達は息を飲んだ。ほんの二週間見ないうちにカナタは頬はこけてげっそりと痩せ、虚ろな目でまぶしそうに周りを見ている。見ているが、それもただぼんやりと視線をむけているだけといった感じだ。


ゆずや、その隣に座っているヒナタなどは言葉も出ない様子だ。今も思わず腰を半分浮かせてカナタを見つめている。そんなゆず達の様子を見て、長野は満足そうな笑みを浮かべ、獅童はカナタをみてせせら笑っている。

あまりなカナタの様子に、長野以外の他の議員の中には首を傾げたり眉をひそめたりする者もいたが、声に出すことはしない。


そんな周りの様子もゆずとヒナタには見えていなかった。


「カナタ君……」 「お兄ちゃん……」


二人の視線はただカナタに注がれている。一体何があったら、この短期間にあそこまでになってしまうのだろうか……


「では……剣崎隊員に問う。ここにいる獅童隊員に対して怨恨を基とする感情を持ち暴力を振るい、武器を使い致傷するに至った事は間違いないか」


進行役が書かれてあることを読み上げるように淡々と言葉を並べる。ここからがこの査問会の本番と言っていいのに長野や獅童の様子からは余裕さえ見られる。


「剣崎隊員!」


進行役が言った事に対して、カナタはぼーっとしていて返事もしない。まるで自分には関係ない事かのように顔色一つ変えない。


(姉さんの話では暗闇の独房に閉じ込めていたそうですが、これは何か精神的に痛めつけてますね)


白蓮はカナタを見て、何らかの精神にダメージを負わせるような事をされていると思った。明らかに自分を失っている。肝心のカナタがこんな状態であるのに査問会が行われること自体おかしいだろう。

これも長野が何か手を回しているに違いない。その長野は、自分たちの勝ちは揺るがないと思っているようで、まるで何か出し物でも眺めているような雰囲気を出している。


「おい剣崎君、何か答えたまえよ。聞かれているだろう!君ははいとだけ言っていればいいんだ。こんな簡単な事はないだろう」


「獅童隊員!勝手な発言は控えなさい!これ以上勝手に発言するようであれば退廷を命じるぞ」


進行役の議員にそう言われ、鼻白んだ様子の獅童は鼻を鳴らして椅子に勢いよく座りそっぽを向いてしまう。


「…………はい」


そんな中、室内に消え入りそうな細い声が聞こえた。聞きなれているゆず達でさえ一瞬誰が発した声か分からないほどだった。


「……剣崎隊員。それは何に対しての「はい」か。」


「…………はい」


「…………」


進行役はいぶかし気な顔をしてカナタを見る。普通ならここで中断されるだろう。明らかにまともに返答できる様子ではないのだ。しかし……


「本人も反省して多くを語りたくないのだろう。ここは武士の情けでさっさと罪を確定してやった方が彼のためではないか?」


これまで黙って面白そうに見ていた長野が、そんな事を言ってきた。


「いや、しかし……この状態では……」


「だから早く終わりにしてやれと言っているんだ。私の言う事が聞こえないのか?」


進行役に対して居丈高に言う長野に、他の数人の議員たちは色めき立ったが、長野に睨まれると口を閉ざしそれ以上騒ぎたてたりはしなかった。


「これはおかしい!」


ここにきてとうとう我慢できなくなったゆずがその場に立ち上がり、そう叫んだ。


「カナタ君は明らかに変だ。きっと何か変な物飲まされたか何かされてる。」


「おい!進行役くん。僕の時は止めておいて、あいつを黙って喋らせる気か?黙らせないか!」


 異常を訴え叫ぶゆずに対して、獅童は進行役に文句をつけだした。進行役の議員もおかしいとは思っているのだが、ことなかれ主義の弊害か、率先して声をあげようとはしないのだ。


「あー。んんっ!そこの君。勝手に発言をしない事。退廷したくないだろ?」


そう言われて、スバル達が何とかゆずを座らせるが、気丈なゆずにしては珍しくヒナタの胸に顔をうずめて泣き出してしまう。


そんなゆずの背中をさすりながらヒナタも我慢の限界が近かった。後少し、獅童や長野が何かを言っていたら……あるいは議会場の中に血の雨が降っていたかもしれない。

それが幸か不幸か、勢いよく扉を開けて入って来た人物により意識を持っていかれた。


開いた扉は入り口側ではなく、奥の議員席側。そこから出入りできる人物はごく限られている。


「遅れてしまってすまないね。ここからはアタシも参加させてもらうよ!」


小さい体のどこからと思うくらい勢いよくそう言いながら、中央の席に座った№4代表の松柴小百合その人だ。


それを見た獅童は、思わず腰を浮かせて松柴を見た。その顔は信じられないと言った表情がありありと浮かんでいる。


「ふん!小悪党が。動揺が顔に出てるよ……何幽霊でも見たような顔をしてんだい。あたしが議会に出席して何かおかしいかい?」


獅童を見て、ポツリと呟いた松柴が、その後は何食わぬ顔でそう言うと獅童は口をパクパクさせていたが、力が抜ける様に椅子に座った。長野は獅童ほど感情を表に出していないが驚きはしているようだ。


「まったく、やってくれるよ。おかげでとんぼ返りさ。年寄りをこき使ってくれた礼はさせてもらうよ」


その長野を直視して、松柴はそう言ってのけた。それは長野が手を回した事を知っているというアピールであり、また宣戦布告でもあった。


「あたしゃ、小細工は嫌いだ。一気にいくよ。史佳!」


松柴が声をかけると、橘が水の入ったコップと髪の包みを持って入って来た。その隣に何食わぬ顔で翠蓮もいる。


「そこの剣崎隊員は私は前から良く知っている。いつもの彼ではないね。疲れているようだから薬の服用を許可してもらいたい。倒れられても困るだろう?」


進行役に向かってそう言うと、否やは言わさぬちばかりに橘は返事を待つことなくカナタに歩み寄った。それを見た獅童はあからさまに過剰に反応して立ち上がって長野を見ている。


「座れ獅童」


静かにしかし反論を許さない迫力を込めて長野が言うと、渋々ながら獅童は黙って座る。それは彼らがカナタに何かした事を裏付けるものでもあるのだが、長野の余裕は崩れていない。きっと何をしても大丈夫という自信があるのだろう。


「さあ、カナタさんこれを飲んでください。喰代博士特製のお薬です。頭がはっきりしますよ」


そう言って橘は反応を示さないカナタの口に薬を持っていき、水を飲ませて服用させる。それを知っている者であったら。普通は飲む事を拒絶するだろう。なにしろあの喰代博士特製などどいえば、間違いなく感染者由来の成分が入っていると思わせるであろうから。

しかし、今のカナタは何の抵抗をすることもなく、為されるがまま薬を飲んだ。そして、その薬の効果はすぐに表れはじめるのだった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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