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12-3

少し遅れました(ーー;)

凍り付くような視線と声で白蓮は獅童を見下ろしている。さすがの獅童もそれをポジティブに受け取る事は出来なかったようだ。


怒りのためか、歯をガチガチと鳴らしながら獅童は白蓮を睨み返す。


「何を……誰に向かって……このくそ女」


「あらあら、お美しいといったのはどなたでしたぁ~?リップサービスですか、そうですか」


 白蓮の冷たい視線にまわりの空気すら凍り付いたかのような錯覚さえ覚えた。だが、その雰囲気を破ったのは、騒ぎを聞きつけてやって来た警備隊の声だった。


「待て待て、双方そのままだ!議会堂の真ん前で騒ぎを起こすとは一体どういう了見だ!」


怒号をあげながら警備隊を率いてやってくると隊員を少し前で控えさせて、先頭にいた40前後の男が近寄って来た。


「警備隊第一管区隊長の大野だ。これ以上騒ぎを起こすと拘束せねばならんが?」


そう言って獅童たちを見る。その威圧感や、きちんと整列して待つ部下たちを見るとちゃんとした部隊に見える。


「こ、こいつらを捕まえろ!見ろ、僕を殴ったんだぞ!」


流れ出る鼻血を止めようとしながら、ゆず達の方を指す。しかし、ゆずはダイゴが背中に隠し、白蓮は何事もなかったように両手を前で組んで、姿勢よく立っている。目を閉じてすました顔で、まるで指示を待つメイドか何かの様だ。


そちらをちらっと見た大野は獅童に向きなおって、一睨みする。


「私には、そちらが挑発していたように見えたが?」


そう言うと、まるで心外であると言わんばかりに獅童が騒ぎ出した。


「挑発だって!?とんでもない。僕がそんなことするわけがないだろう!そいつらが優しく話しかけてやってる僕に逆上して殴りかかってきたんだ。わけのわからない事いっていないで早くそいつらを捕まえたまえ!」


まるで命令するような口調で獅童がわめく。

それをじっと見ていた大野が口を開いた。


「だまれ!!」


その声量と迫力に獅童は思わず肩をすぼめて縮こまった。獅童だけではない、その後ろにいた六番隊の者や、入り口に立っている警備隊の隊員たちまで飛び上がらんばかりに驚き、背筋を伸ばした。


「我ら警備隊は独立した機関であり、外部からの命令を受けるものではない!我々に命令することができるのは、おのれの正義感と信条のみである!」


骨の芯まで響くような怒号が辺りに響き渡る。その声に驚いたのか、離している内容に気になる所があったのか、白蓮が少し驚いたような顔をして大野を見ていた。


そんな大野は門の両脇に立つ警備隊員の方を睨みつける。それだけでその隊員たちは顔を青ざめさせている。


「それで?彼らが中に入れない理由をもう一度聞かせてもらおう」


肩を怒らせてそう言う大野に、二人の隊員はお互いの顔を見るばかりで答えようとしない。しかしもう一度強めに聞かれた事でようやく話し始める。


「その、十一番隊の者を入場させるなという指示が来ていまして……」


「ほう。私は聞いていないが。それはどこからの指示だ?指令書は?」


そう言われ、しぶしぶ懐から書類を出すと恐る恐る大野に差し出した。大野はそれを奪い取ると中身に目を通した。


「……私にはそんな指示が書いてあるようには見えないのだが?最近の指令書は暗号でも仕込んでいるのかな?」


言葉は冗談っぽく言っているが、顔と雰囲気は冗談らしさなどかけらも感じられない。問い詰められている警備隊員たちはもはや卒倒するのではないかと思うくらい震えあがっている。


「いえ、その……何と言いますか……」


言いよどむ隊員に、大野の一喝が飛んだ。


「報告は簡潔にまとめて、わかりやすくはっきりとせんか!!」


「はい!上からの指示です!口頭での伝達でありました!」


目の前で言われ、本当に吹き飛ぶのではないかと錯覚するくらい一喝され、隊員は直立不動になり返答をした。


「上からとはどこからだ!」


「はっ!私たちの直属の上司からです!上司は長野そうと……長野さんより言われたと言っておりました!」


「では、警備隊ではなく部外者からの指示というわけだな?」


「はい!」


もはや隠し立てはできないと悟ったか、門番役の警備隊員は全てを話してしまった。


「よし!貴様らには反省の色ありとして特別訓練を課するのみとする。沙汰があるまで謹慎!」


「「はっ!!」」


まるで軍隊か何かのような勢で、二人の警備隊員はきれいな敬礼を返すと、駆け足でどこかへ行ってしまった。

それを見ながら獅童は口をパクパクとさせているばかりだ。もう黄色い声も聞こえてこない。


「本来なら貴様も営巣にでもぶち込んでやるところだが、査問会の出席者であるからそれはできん!こいつを控室まで連れて行ってやれ!抵抗するようなら鎮圧して構わん。非殺傷武器であれば使用も許可する。連れていけ!」


大野がそう言うと、後ろに控えていた集団から数人が出てきて、獅童を抱えると議会堂の中へ連行して行った。



「さて、十一番隊の諸君!」


「はい!」


急に矛先が向いたことで驚いたのか、スバルもダイゴも姿勢を正し、大きく返事をする。

それくらい強烈な印象を植え付けた大野だったが、いくつか例外はあるようだ。


「おっちゃん、すごい!今時こんな人がいる。感動した」


なぜかゆずが偉そうにそう評している。もう少し背があったら方でも叩いてそうな雰囲気すら漂わせている。


「お、おい。ゆず!やめろ。失礼だろ!」


これにはスバル達が青くなり、やめさせようとするが、それより先に動いた者がいる。


「ゆずさんのおっしゃり通りですねぇ。お名前を伺っても?」


ゆずの隣に並び、白蓮が話しかけ始めた。十一番隊において、何をしだすかわからないトップである。スバルの顔色は青を通り越して白くなっていく。


「む、名前?私は大野巌と言います。こたびはわが警備隊の者も不手際があり……」


名乗り、不手際を詫びようとしている大野にかぶせる様に白蓮が話しを続ける。


「巖……いわお様ですか。質実剛健といった感じでよい名前ですね。あの……失礼ですがご結婚は?」


いきなりそんな事を聞きだした白蓮に大野も言葉に詰まったが、それよりもスバルは息が詰まりそうだった。


「ちょ!ちょっと白蓮さん?何を言って……さ、査問会、査問会を見に来たんでしょ。もう入っていいですよね?」


スバルは白蓮の腕を掴むと、大野にそう訊ねた。


「お、う、うむ。構わない。どうぞいきなさい」


大野がそう言うとぐいぐいと引っ張って中に入ろうとする。しかしそのスバルの手をゆずが叩いた。


「この無粋もの、唐変木。人の事を邪魔するから彼女もできない。」


「う、うっ」


的確に心の傷を射抜いてくるゆずの言葉にスバルは白蓮の腕を離し、自分の胸を抑え始める。

白蓮は特段慌てる事もなく、しずしずと大野の元まで歩いて行くと、優雅に一礼した。


「ついご無礼を……いきなり踏み込んだお話をしてしまいました。どうかご容赦を」


まるでどこかの貴婦人のように優雅に話し出した白蓮を見て、大野はどう対応していいか分からなくなっているようだ。あ、お、うむ、と言葉になっていない。


「本日は所要のためにこれ以上ご尊顔を拝すことはかないませんが、いづれご縁があったらゆっくりお話をさせて頂きたいものです。それではごきげんよう」


最後まで優雅にそう言うと白蓮はその場を後にする。そして歩きながら呟いた。


「ご縁があったら……縁は確実に掴み取りに行きませんとね!」


そう言ってにっこりと笑うのを見て、スバル達は盛大に顔を引きつらせていた。




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