11-9
休日投稿2/2だ!
「はい。薬箱!これでいいんだよね?」
ゆずとカケルが話していると、後ろからそう言われ、振り返るとそこには薬箱を持ったヒナタの姿があった。
「えっ!取ってきてくれたの?ていうかもう行って来たの?一人で?」
かけるがゆずにどう上がって来たか説明している間に、ヒナタは三階に行って薬箱を取ってきたようだ。それにカケルは驚いている。
口を開けたまま二人の顔を交互に見て、信じられないと言った様子だ。カケルにしてみたらかなりの覚悟で感染者のいる階に行こうとしていたのだから、当然と言えば当然なのだろう。
ヒナタから薬箱を受け取り、中を確かめて目的の物があったのか顔を輝かせている。
「ほんとにありがとう!お姉ちゃんたち。早くこれもっていかないと。下にお医者さんもいるんだ、これがないとゾンビになっちゃうかもしれないっていうから……」
カケルのその言葉に、ゆずとヒナタが眉を顰める。
「ちょっと待って……その人って、あのゾンビみたいな人に噛まれたりしたの?」
ヒナタがそう聞いてみた。もし噛まれているのなら、今頃下の階は……。
「僕は見てないけど、下の階段を塞ごうとして、重そうなものを移動するときにケガしたって言ってたと思う。」
カケルはそう言うが、感染者に噛まれたり傷を負わされたものは感染の恐怖とその場所を追い出される恐怖から自己申告はまずしない。それはこれまでも何度もあり、それが原因で番地が全滅した事はいくらでもある。
これがあるから、都市の出入りには厳しいチェックが入るようになったのだから。
「と、とにかく行こうか。早く持って行ってあげないとね。それにしてもよくお医者さんがいたね」
ヒナタがそう語りかけながら、カケルの手を取り下へ降りる階段に向かった。その後ろで、ゆずはハンドガンをいつでも撃てるように準備をしていた。
もし、その人が感染者由来の傷を負っているのなら、このような密閉された空間では爆弾になりかねない。例えば自衛隊の駐屯地などが陥落したのは、ほぼそれが原因だったと言われている。傷を負った仲間を基地の中に連れ帰り、治療途中で発症。そのまま全体に広がり、たいした抵抗もできずに基地が落ちる。
訓練された部隊がいて、武器も豊富にあるのに早い時期に全滅してしまっていたのを、誰もが不思議に思っていたのだが、原因は八歩許可が下りなかったのと、かつての仲間を攻撃することができなかったためだと言われている。発症した時点で生きているのか死んでいるのか今でも意見が分かれているくらいなのだ。
カケルが何か言いたそうな顔をしながら、部屋の角の方を指さした。
「え、え~と、あそこが階段だよ。でも……」
「あ、あそこだね。カケル君は一応下がってて。お姉さんが先に行くから。」
そう言ってカケルを抜いて慎重に階段を下りていく。が、すぐに戻って来た。
「……通れなかった。椅子とか棚とか積み上げられてて」
憮然とした表情で。
「そう言えばカケルは階段が使えないからパイプシャフトなんて通りにくいとこを通ってきたのか」
ぽんと手を打ちながらゆずは言い、カケルは気まずそうな顔をしている。
「ほかに行ける通路は……ないよね。あったらそこを通ってるもんね」
「うん……パイプのとこ以外はもう外から周るしか……でも外から入る所はあいつらがたくさんいるよ?」
心配そうな顔になったカケルがそう言うが、ゆず達の顔には自信が浮かんでいる。
「だいじょぶ。お姉さんたちは強いから。カケル君は後ろから付いてきてくれるだけでいいから。」
ヒナタはそう言うが、カケルの顔は優れない。これまでに噛まれてしまった人をたくさん見ているからだろう。
そう話して、戻ろうとした時だった。
「そこに誰かいるのかい?」
下の階、バリケードの向こうから女の人がそう聞いてきた。
「一緒にいる人かな?」
カケルに確認すると頷いた。階段付近で話したりしていたから聞こえたのだろう。
「誰かい居るんだろ、カケルかい?」
女性が続けて聞いてくる。その声から心配しているのがうかがえる。
「うん、そうだよ」
カケルを促すと、そう返事をした。カケルの声がしたことでほっとしたのか、女性の声から緊迫した雰囲気が和らいだ。
「良かった、無事で……あんな無茶して。あいつらにやられたらどうするんだい。早く戻ってきな」
女性はそう言うが、戻り切れなくなったことをカケルは言いづらそうにしているので、代わりにヒナタが返事をした。
「すいません、カケル君戻る事が出来なくなっちゃったみたいです。昇る事は出来たけどそこを降りるのが難しいみたいで……」
ヒナタがそう言うと、向こうで女性が息を飲むのがわかった。そして再び警戒した声で返事が返ってくる。
「そうですか。ところであなたはどなたですか?」
「あ、私は№4の守備隊の者です。けして怪しい者ではありません。」
そう言うが、声から警戒した様子は変わらない。仮に怪しい者だったとしても自分から怪しい者ですとは言わない。
「№4って?カケルは無事なんだろうね?」
変わらず固い雰囲気で、女性は聞いてくる。そこで、怪しまれている事にようやく気付いたのか慌ててカケルが声を出した。
「僕は無事だよ!あいつらいたけど、このお姉さんたちに助けてもらったんだ!」
カケルがそう言うと、「よかった……」と安心した声が小さく聞こえた。ずいぶんと心配をかけていたらしい。
「無事ならいいんだよ。すいません、一緒にいる方」
やはり安心したのか、さっきと違う険の取れた口調になっている。しかし想像もしていなかった事を言い出した。
「不躾とは承知の上でお願いします。どうかその子を連れて安全な所まで逃げて頂けないでしょうか。」
下にいる女性は、ヒナタ達に向かってそんな事を言った。ヒナタは驚き、思わずゆずと顔を見合わせた後そっとカケルの様子を見た。
いきなりの事にカケルもおどろいたのだろう、あんぐりと口を開けていたが我に返るとバリケードギリギリの所まで行って興奮気味に言い出した。
「なんでだよ!なんでそんな事言うんだよ。薬箱だって取ってきてもらったんだ、今度からは勝手に言ったりしないからさ。そんな……真知子おばちゃん、追い出したりしないでよ!」
バリケードとして重ねて積んである椅子の脚を揺らしながらカケルは言うが、椅子も女性の考えも揺らがなかった。
「そんなんじゃないさ。カケルいいかい?もうここはダメだ。逃げる時に派手に動いたからね……ここにいるってばれちゃって扉の所から動かないんだよ。そんでどうにか開けようとしている。今も叩いてるんだが、どんどんその力が強くなってきてる。もうそう長くはもたないだろう。カケルだけでもここから出てくれててむしろ良かったのかもね」
「そんな!」
そう言ったきりカケルは絶句してしまった。何か言おうとしているのだが驚きすぎて言葉にならないのだろう。
そんなカケルの肩に優しく手を置いたヒナタはカケルに替わって話を続けた。
「ええと真知子、さんでいいですか?感染者がドアの外にいるんですね?戦える人はいませんか?力は強いですが動きは遅いです、落ち着いて対処すればなんとかなりませんか?」
ヒナタは冷静にそう言うが、帰って来たのは力のない答えだった。
「いや、そいつは無理だね。男では早い段階でここを出ようとしてやられちまったし、残ってるのは私みたいなおばさんばかりさ。うまくやれるとは思えないね。」
「何か刃物か、鋭い物で首の後ろを斬るか深く突き刺せば動かなくなるんです!諦めないでください!」
なんとか立ち向かわせようとヒナタは言葉を尽くすが、もう心も折れてしまっているのか前向きな返事は帰ってこない。
「ヒナタ、こうなったらぐずぐずしてられない。一度出て外から一階に乗り込む。」
ここで話していても無駄と思ったのか、 ゆずがそう言うと激しい反応が返ってきた。
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