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11-8

休日の投稿1/2

「生活していた……?」


 とりあえず見落としなどが無いように、一応部屋を確認していた時だ。それまで特に何も言わなかったゆずが初めて手を止めて考え出した。


 そこは湯沸室。食器棚と流し台があるところにゆず立っている。


「どうしたの、ゆずちゃん。何かあった?」


 先を確認してきたヒナタが、何やら考えているゆずに近寄る。そういえば自分もここで何か違和感を感じたな、と思う出しながら。


「多分ここの人は最近までここを使っていたんだと思う。食器がきれいすぎる。使っていたと見て言いと思う」


「ああ、なるほど!私も何か気になったんだよね。そっかそっか、そだね確かにきれいだもんね」


 言いながら手近にあったお皿を取って眺めてみる。放置されていたにしては汚れていないのだ。埃をかぶっている事もない。


 「外から見た部屋とこの階まで使って生活していたんだ。電気も水も使えるしね。ご飯だけなんとかすれば……」


 「それはなんとなく想像がついてる。」


 お皿を戻しながら言うヒナタに、ゆずは自信ありげにそう言った。


 「ゆずちゃんすごい!私なんかここスルーしてたもん」


 すこし落ち込む様子をみせるヒナタを適材適所だと慰めながら部屋を出る二人だった。



 「いるね……」


 今度は二人で階段を下りていく。すると踊り場の所から下を見ていたヒナタはそう言った。


「それは生きてる人?」


「ん~、そこまでは……何か音がするだけだし」


 音がするのは確かだが見える範囲にはいないとの事だ。


 外から見た感じだと、位置的には中二階になる。ここまでに他に階段などはなかったから直接一階には降りれないようになっているんだろう。


 顔を見合わせて、ゆっくりと階段をおりる。ヒナタはいつでも抜ける様に柄に手をかけ、ゆずはハンドガンを抜いてスライドを引いた。


 階段を降りるとすぐに感染者に気づかれ、こちらへと向かって来ようとしているのが見える。

 その数は三体。思っていたより少ない事に安心して、ヒナタに任せてゆずは一歩下がった。必要なら撃つができるなら避けたい。音で呼び寄せてしまうからだ。


 ヒナタもそれは理解しているので、何も言わずとも前に出てすらりと刀を抜く。右手に桜花、左手に梅雪を握ったヒナタにとって、通常の感染者など物の数ではない。一気に大量に来られない限り危なげなくさばける自信もある。


 一番手前にいた感染者を桜花で一太刀。くるりと回ると次の感染者の首の後ろを梅雪で撫でる様に斬り、その後一気に間合いを詰めて正面からあご下を串刺しにした。

 すべて弱点である延髄の部分を斬っている。


 それを見ていたゆずは見事な動きに見惚れるほどだった。舞うように動いたかと思えば矢のような動きで突く。いつもより余裕があるようにさえ見えた。


「ヒナタまた強くなった?動きが何か違う」


 納刀したヒナタに近づいてゆずが言う。それにヒナタは照れるように笑うと、桜花に手を触れる。


「そんな事ないんだけど、そう見えたならこれのおかげかな。短刀は白蓮さんに習った動きだけど、この桜花を使う時はこれまで練習してきた動きになるから、良いとこ取りしてるのかも」


 嬉しそうにヒナタは言うが、普通はそんな簡単にできる事でないはずだ。別々に系統の武器に替わるだけでもやりにくいのに、そこにもともとの動きを織り交ぜる。剣技に関してゆずは素人だが、そんなゆずにも理解できる事はヒナタが天才だという事だ。

 良いとこ取りと言うが、普通ならどっちの動きもできなくなってしまうだろう。


「負けられない」


 ポツリと呟いた。それは誰の耳にも入る事はないほど小さな呟きだったが、ゆずのなかではとても大事な物だった。

 信頼のおける友人であり仲間であることは間違いない。自分と共通することの多いヒナタだからこそ隣に並び立つ存在でいなければならない。

 ゆずとて、それまで使った事もない銃器を満足するレベルで扱えるようになるまでにはかなりの訓練を要した。適性があったところで努力なしには大成しない。

 しかし、今のヒナタを見ているとまだまだ頑張らなければ。と思う。



「どったの?ゆずちゃん」


 考え込んでいると、いつのまにか戻って来ていたヒナタがゆずの顔をのぞき込んでいた。


「ん、なんでもない。私が頑張ればいい話」


 そう言うと、首をかしげるひなたを促して付近の様子を見る。中央に大きな機械があり、その周りが歩けるスペースになっている。

 その機械の奥の方にはガラス張りの壁と扉があり、中にはいくつも机が並んでいる。


「きっとその中に上司とかがいて作業を見ていたんだよ。そして作業が遅いと怒られるの」


 ガラスの奥を覗きながらヒナタがテレビか何かで似たようなものを見たのか、そんな事を言っている。

 つられてゆずが見た時、さっと動く影が見えた気がした。


「……?ヒナタ、誰かいるかもしれない。」


「……この中?」


 それまではのんびりした様子で色んな所を見ていたヒナタもゆずの言葉で、さっと切り替え警戒する。ヒナタの言葉に頷いたゆずと目で合図しあって、扉の部分をそっと押した。


「誰かいるなら出て来る!こちらに攻撃の意思はない。もし敵対行動をとるなら容赦しない」


 扉から体を入れてそう声をかけると、奥の方でがさっと音がした。やはり誰かいるようだ。ハンドガンを構えてゆっくりと部屋の中に入る。ヒナタも梅雪を抜いていつでも対応できるような姿勢をとって後に続く。


「待って!撃たないで」


 そう言って奥の机の影から出て来たのは、少年だった。花音と同じくらいの男の子が一人で何をしているのか。


「私たちは№都市の守備隊。ここで何してる?」


 警戒しながらゆずが言うと、男の子は手をあげたまま震えて泣き出しそうになっている。


「ゆずちゃん、脅したら可哀そうだよ。大丈夫だよ、私たちは何か取ったり誰かを傷つけに来たわけじゃないから。ここで何をしてたのかな?」


 梅雪も納刀して、ヒナタがにこやかにそう語りかけている。子供といえど、害意と凶器を持っていれば大人だって殺せるのだ。ゆずは警戒したままヒナタの影になるように動いた。


「あ、あの……僕ここに住んでて……ゾンビたちがいるから出られなくて……どんどんいられる場所も狭くなっちゃって……今はみんな下にいるんだけど具合が悪い人がいて、上の階に薬があるって……」


 しどろもどろになりながらも必死に男の子はそう説明した。


「この階のゾンビは倒しちゃったけど、ほかにもいる?」


 ヒナタが言うと、疑わしそうな目で見ている。にわかには信じられないんだろう。


「このお姉さんは鬼みたいに強い。無敵」


「ちょ、ゆずじゃん?言い方!鬼はないでしょ!?」


 フォロー?したゆずにヒナタが食って掛かっていると、それをぽかんと見る少年。二人を交互に見る目からわずかに警戒心が薄くなったように見える。


「ほんとに?ほんとに倒したの?大人の人だってやられちゃったのに!」


 そう言って立ち上がった少年は、ガラスのドアの所まで行き感染者が倒れているのを見て飛び上がって喜んでいる。


「すげえ!すげえよお姉ちゃんたち!助けに来てくれたの?ここから出れるの?」


 振り返ると、矢継ぎ早に聞いてきた。その目は期待に満ちている。それに顔を見合わせると、ゆずがゆっくり少年の元に行き、しゃがんで語り掛けた。


「落ち着いて。確かに私たちは助けに来た。でもうまく助けられるかは状況次第。君たちの協力も必要。できる?」


 落ち着かせるように一言一言をゆっくり力強く言うと、少年は真剣な顔になり頷いた。


「うん、なんでもするよ?何でも言って?」


 その言葉に満足げに頷くと、今の状況や生存者の数、怪我をしている者がいないかなどをゆっくり聞いた。


「じゃあ上の階に薬箱があるんだね?」


 確認するヒナタに少年は頷いた。少年はカケルと言うらしい。下に避難しているのはこの工場に勤めていたパートの従業員たち十名ほど。パニックが起こった時正社員の間には情報がすぐに伝わり、逃げ出したのだがパートの従業員たちにはうまく伝わらず、逃げそびれてしまったらしい。


 ところが先に逃げようとした正社員たちは入り口の所まで来ていた感染者に捕まりほとんどがやられてしまったそうだ。それをようやく逃げようとしたパートの人たちが遠くから見て、慌てて入ってこれないようにバリケードを作って対応したそうだ。

 それでもやられた正社員たちまで立ち上がり襲ってくるのに耐えきれず、バリケードも破られたが、今いる部屋にある防火扉を閉めてそこに立て籠もっているらしい。


「ほんの今朝まではここも使えてたんだ。それなのに、窓から誰かが見えたからって大声出すから三階からゾンビが降りてきて……普段僕には大声出すなって言うくせに。」


 そう言ってカケルは口をとがらせている。その見えた誰かであるゆず達は何とも言い難い気持ちになったが、とりあえず伏せて話を先に進めた。


「それで慌てて下の階で通れないようにしたと。その時にケガをした人がいるから薬を取りに行こうとしたって事でいい?」


 確認するようにヒナタが言うと、カケルは頷いた。下の階とここの中二階との階段はもう塞がれてしまっているそうだ。カケルがどうしてここにいるかというと、配管を上の階に通すためにあるパイプシャフトの中を通っているパイプを昇って上がったが、パイプシャフトから外に出てみるとこの階だった。しかも感染者がいるので音を立てるのも怖くなり隠れていたのだと言う。


「下に降りればよかったんじゃ?」


 ゆずがそう言うと。カケルは黙ってパイプシャフトの所にゆずを連れて行って中を見せた。中は暗く、何本も配管が通っているがまっすぐで手をかける所もない。しかも上からのぞくと結構高さがある。


「うん確かにここを降りろと言われても断る。逆に良く昇って来た」


「昇るときは一生懸命で……下も見えなかったし」


 ゆずが感心していると、カケルは少しバツが悪そうにそう言うのだった。

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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