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10-4

休日ゲリラ更新!

「私も同行させていただきます」


 翠蓮と白蓮が相手の事を探る事が決まり話が進むかと思われた時、また別の方向から声が上がった。


「足を引っ張るようなことはしません。どうか……」


 言い出したのは、なんと橘だった。カナタ達の中で、できる女性であることは認知されていた。しかしこんな作戦に名乗りを上げるイメージは全くなかったので、皆驚きを隠せないでいた。


「あの……私たちは、かなり特殊な出自でして。幼少より訓練を受けています。主人のために暗殺すら行うような一族の者なのです。なので……その、言いにくのですが」


 翠蓮が言葉通り言いにくそうな顔をしている。言葉にしてはいないが足手まといになるという事だろう。


「存じております。華僑の一員で古くから龍一族に仕えている蓮の一派出身という事は。」


 表情も変えずそう答えた橘に、翠蓮は言葉に詰まった。華僑や龍一族という言葉は探れば比較的簡単に出て来るだろうが、その龍一族に影で使える蓮の一派という言葉は相当入り込まないと出てこないはずだ。


「なるほど……ずいぶんきちんと調べておいでのようですな。それにしては簡単に都市に入る事を許されましたな」


 そこまで調べられていると思わなかったのか、警戒する姉妹をかばうように龍が出て来た。


「カナタ様たちは会長が気にかけておられますので……それに、会長の故郷である美浜集落にあなた方が住み始めた頃から少しずつ探っておりました。ですがそれはあなた方も同じかと……」


 橘は翠蓮と白蓮にそう言った。


「確かに……そうですね。主人に近づくものはとりあえず洗うのが習性のようなものですしね」


 驚きから立ち直った翠蓮が苦笑気味に答えた。


「え……橘さんって、何者なの?」


 予想していない流れに、スバルが半ば放心したような顔で聞いている。そう言えば橘さんも狙っていたな……とダイゴが遠い目になっている。


「それは……もうしわけありません。余計な事と思い話しておりませんでしたが、分かりやすく言うと忍びの一族の生き残り、の様な物とでも思っていただければ」


 にっこりと笑って言う橘の目は決して笑っていない。言いたくない事なのか、秘密の事なのか……これは深く聞いていい事ではないと思ったダイゴはスバルにくぎを刺そうとしたが、それよりはやくスバルが反応してしまう。


「スゲー!忍者なの?橘さん忍者の一族なの?マジか!あっ、大丈夫っす、誰にも言わないから。これでも口は堅いんで!」


 そう言って親指を立てるスバルに、予想していた反応と違ったのか橘はクスリと笑う。


「たいした者ではありませんよ。ただ古い一族というだけです。でもそうですね、良く思わない方もおりますので、あまり大きな声で言わないでもらえると助かります」


 微笑んだままスバルに対して橘はそう言ったが、その時の目は本心から笑っているようにダイゴには見えた。


 翠蓮達にも安心させるためか、橘さんは自分の出自を語った。なんでも歴史の中に埋もれてしまうような小さな一族でそれ故に見逃され細々と生き続けて、近代化が進み議員や大きな企業からの案件を受け、相手の情報を集める仕事をしていたという。ある案件でヒノトリとも関わったことがあり、橘が属していた方は政治闘争で負け解体され、一族も一緒に解体されたのだが、松柴幸四郎に拾われ秘書見習いとして雇われたという。


「現代社会でデジタル化が進み、そちらの方はセキュリティがしっかりしている所でもアナログなセキュリティは杜撰な所も多く、ひっそりと動いておりました。私が危険な事をするのを会長はあまり良い顔をされませんが、今回は見逃していただけるかと」


 そう橘は締めくくった。


「分かりました。私たちを調べている者の存在は何組かいて、把握していたつもりでしたがあなたの事は気付きませんでした。それだけの技術をお持ちなら問題ないかと。ご一緒に参りましょう」


 橘は翠蓮の感知からも逃れるほどの技術をもっているそうで、一緒に行く流れとなった。そしてできる女性として憧れの眼差しを向けていたスバルが、さらに熱い視線を送るようになったのは言うまでもない。

 いつになっても忍びというのは憧れるものらしい。



「それでは行ってまいります。何もない限り連絡を取る事はありません。ご心配なさらずにお待ちください。そうですね、とりあえず二週間下さい。それまでに一度経過を報告します」


 リビングを離れ、三人で何か話していた翠蓮たちは、戻ってくるとそう言った。すでに出立の準備はしているらしいのだが、それでいいのか?と言いたくなるほど軽装である。見た所武器も持っていないように見える。


「みんな腕が立つのは知ってますけど、武器も持たないで大丈夫なんですか?」


 橘と翠蓮。憧れの女性を二人とも前にしてスバルは何かと声をかけている。今もその軽装に心配になったようだ。


「あらぁ、私には心配もしてくれないんですかぁ?」


 そんな二人の後ろから顔を出した白蓮が不満げにスバルに言った。


「い、いやそういうわけじゃ……白蓮さんも心配ですよ?あたりまえじゃないっすか」


 慌てて言うスバルに、いたずらが成功したかのように面白そうにころころと白蓮は笑う。これから敵地に潜入すると言った気負いは全く見られない。


「ここからは、私たちのフィールドですから。それに……」


 そんな様子を微笑まし気な様子で見ていた橘がスバルを安心させるかのように言った瞬間。


「う……」


 どう動いたのか、どこから出したのか……三人が三人ともどこからか武器を出して、スバルの急所に突き付けていた。

 翠蓮は物理的に謎なレベルの長さのいつもの刀を眉間に。白蓮は二振りの短刀を首の両側に。そして橘は後ろから心臓の位置にクナイのような刃物を、さらに小型のハンドガンを後頭部にそれぞれ絶妙な距離と位置で突き付けている。

 そのどれか一カ所でもどうにかしようと動けば他の二カ所がやられる。そもそも一か所すら防げるかどうか……


 そのレベルを見せつけられ、スバルは口が裂けても大丈夫か?などと言えなくなってしまった。おこがましいにもほどがある。


 スバルが口をつぐむと、それぞれが武器をしまうが、みんな軽装なのにどこにしまったのかもわからない。これが忍びか……とひたすら感動するスバルだった。




「二週間……無理を言うつもりはないけど、カナタ君の方は大丈夫かな?」


 ゆずがカナタの心配を口にする。そんなゆずを励ますかのごとく、ヒナタも傍に寄り添い背中に手を添えているが、表情は同じ心配をしていそうだ。


 それには鹿島が答えた。


「今回は正規の流れの査問会になるそうです。思惑があって長野さんのほうからそうなるよう動いたみたいですが。査問会は分かりやすく言えば裁判です。カナタさんにも警備隊の方から弁護人がつくはずです。それに臨むには訴えの確認や証拠の確認、出席者の予定などで結構時間がかかります。それこそ二週間では足りないでしょう。私の経験から言うとひと月後くらいではないかと。」


 内情にくわしい鹿島が言うなら間違いないだろう。こうしてみると内情に詳しい鹿島の存在は確かに心強い。十一番隊の誰もが査問会など言葉も知らなかったし、興味もないので普通がどんなものかもわからないのだ。


「カナタさんにつくのは、裁判で言う国選弁護人のような立場の者ですが、これまでの流れを見る限りあまり信用もできないかと。やはり確固たる証拠がないとカナタさんの無罪の主張すら怪しいと思います。査問会はある程度公にされます。傍聴する人や住人の手前、決まった事を覆すのは無理と思っていいでしょう。なぜそういった手段を長野さん側がとったのかが気になりますが……恐らくそれだけ自信のある証拠か何かがあるのでしょう。やはり情報が必要です。私の立場から言えば、あまり褒められた事ではないのですが、今回は目をつぶりましょう。私はここにいない事ですし」


 住民の治安と安全を守る事を誇りとしている鹿島の立場からは、裏で動く存在は容認しづらいのだろう。それでも今回は警備隊の不祥事ということもあってか、強くは言えない。


「私は個人的に松柴代表を尊敬しています。その松柴代表が気に掛けるあなた方の事を私も興味が出てきました。剣崎君ともゆっくり話してみたいですな」


 鹿島がそう言うと、ヒナタが苦笑いした。


「それはお兄ちゃんのほうが嫌がりそう。お兄ちゃん立場のある人と話すの苦手っぽいから」


「確かに。カナタ君は何かと理由をつけて逃げようとすると思う。どうしても話したかったら後頭部に拳銃を突き付けて誘うといい。」


「ゆずちゃん、それは誘いと言うか拉致だよ……」


 そう言い合う、十一番隊のミニマムコンビの周りにようやく笑い声が聞こえだした。

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