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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
都市守備隊

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10-2

十一番隊の隊舎へみんなを案内しているゆずは、薄い表情の下で激しく怒りが渦巻いていた。目の前でカナタが、まるで罪人のように連行されるのを黙って見ている事しかできなかったのだ。できる事ならあの場で獅童の頭を撃ち抜いてしまいたいほどだったのだが、素早く状況を察知した白蓮がゆずとヒナタに自制するように言ってきたのだ。


 ここで暴れる事は結果的にカナタの立場を悪くするだけだ、と。

 ゆずは都市の守備隊に一応所属はしているが、カナタがいるからという理由だけなので内情を詳しくは知らない。でも警備隊がどこにも誰にも属さない中立の部隊である事は知っている。

 六番隊が動いているならまだしも、警備隊が動いているのであれば相手はそれなりの理由をつけているはずだ。たとえそれが今後、誤解であると判明するにしてもここで暴れて警備隊の邪魔をするのは敵に利する行為であることはゆずにもわかる事だった。


「ゆずちゃん……だいじょぶ?」


 平静を装っているつもりではあるが、できていないのかヒナタが心配そうに声をかけて来る。しかし当のヒナタも怒りを隠せていない。それにすこし笑って、気持ちがちょっとだけ軽くなるのを感じた。


「うん、ありがとヒナタ。ヒナタこそ大丈夫?」


 逆に心配されて、ヒナタは苦笑している。ヒナタも自覚はしている。もし今チンピラにでも絡まれようものなら、二人とも手加減できる気が全くしない。


「二人とも、よく我慢したね。僕も文句を言いそうだったよ。打ち合わせしていてよかったね」


 ダイゴが、ゆずとヒナタを気遣いながらそう言った。ここに戻ってくるまでにいろんなシチュエーションでの対応を話し合っていたのだ。

 ここにいる誰もが、獅童がこのまま引きがるとは思っていなかった。きっと何かしら仕掛けてくると思い、対策を話していたのだ。


「まさか警備隊を動かすとは思わなかったけどな。捕まえに来るにしても六番隊でやると思ってたし」


 スバルが意外そうに言う。それくらい警備隊を私用で動かす事はできない事とされている。


「それだけ周到に動いて嫌疑を固めたという事でしょうか。ハルカさんも拘束されているみたいですし……そうなるとカナタさんの無実を証明するにはちゃんとした証拠が必要ですね。」


 多分だが、問題になっているのはカナタが獅童を斬った事だろう。それは獅童が感染者に噛まれたからなのだが、あの様子からすると、感染は免れているようだ。それがまた腹立たしいのだが……


「とりあえず中に。藍ちゃんもしばらくここにいた方がいい。戻っても、あのハゲに成果を奪われるだけ」


 話しているうちに隊舎に着き、ゆずがいつの間にか仲良くなっている喰代博士に、そう言いながら入り口の機械にIDカードを通し、ロックを解除する。


「私としてはすぐにでも研究にかかりたいんですが……仕方ありませんね。私も途中で邪魔されたくないですからね。」


 ゆずに促されて、喰代博士はそう言いながら隊舎の中に足を踏み入れる。桐田や獅童は明確な成果を欲している。喰代博士がもつ情報や素材はかならず没収しようとしてくるはずだ。


「その通りです。それを渡してしまえばあとは遠慮なくつぶしにかかるでしょう」


 白蓮もゆずの意見に同意する。全員が隊舎の中に入り、ロックをするといくらか弛緩した空気が広がった気がした。

 本来ホームであるはずの都市の内部でこんなに緊張していなければいけないのは、やはり襲撃の可能性を考えての事だった。

 最終的に警備隊が引き取っていったが、都市のすぐ近くで襲撃をしてきた覆面達はきっと№4の誰かの手引きがあったに違いない。そうでなければもっと都市から離れている所で襲ってくるだろう。


 隊舎に戻り、共用のリビングでそれぞれは思い思いの場所に座り、本当ならリラックスできるんだろうが、今の状況と今後を考えればどうしても話題はそれになってしまう。


「たぶんあの覆面達の後に誰かいたんじゃないかな。でも三番隊が来たから出るに出れなくなった。とか」


 スバルが自分のコップにコーヒーを淹れ、飲みながら自分の考えを話した。


「そうだね。わざわざ都市の近くで襲ってきたのは、それを手引きした誰かが後ろにいたんだろうね。そうじゃないとおかしいもんね。覆面達が野良の略奪者なら都市の近くでは絶対暴れないはずだし。」


 ダイゴはちゃんと全員分の飲み物を準備しながらスバルの意見に賛成している。それを見た花音が手伝うためにダイゴの所へ行っている。


「するとやはり背後に誰かいたと。それは三番隊に顔を見られるとまずい者……間違いなく獅童か、長野の手の者でしょうね」


 ダイゴが入れたコーヒーを花音がそれぞれの所に運んでいく。受け取った白蓮は花音に礼を言って、一口飲むとそう結論づけた。


「そしたら、なんか証拠をでっちあげてるんじゃ?お兄ちゃん大丈夫ですかね」


「分からないけど警備隊が動いてるから公になる、それなりに勝算はあるんじゃないかな」


 心配するヒナタに、ダイゴが困り顔で返した。その言葉でみんなが沈んだ雰囲気になってしまう。裏で何か仕掛けてくれば、やり返せばいいからなんとかなると思っていた部分があった。でも真正面から来られるとこっちも取る手段が限られてしまうのだ。


「さらに、証人になりえるハルカさんは、拘束されているみたいですしねぇ……」


「ハルカもいないし、松柴の婆ちゃんもいないときたら、誰もカナタを弁護する奴がいないんじゃね?」


 白蓮の言葉を受け取ってスバルが続けるが、こうしてみるとカナタの味方になってくれる人物がいない状況を作られてしまっている。思っているよりもまずい状況であることに気づいてしまう。さらにとれる手段も思い当たらない事に全員の表情が沈んでしまう。


 すっかり沈黙が支配してしまったリビングに場違いな明るいメロディが響く。玄関のチャイムだ。

 その音に、そこにいる全員がハッとした表情になる。ゆずは素早く立ち上がると自分の荷物からライフルをとりだすと、玄関を狙える位置に伏せて初弾を装填。

 いつでも撃てる態勢になって近くにいたスバルに頷いて合図をした。

 もちろん都市の中で発砲するのは厳禁である。理由の如何に関わらず、何かしらの処罰を受ける事が多い。それでもカナタに後を託されたゆずは撃つことにためらいはない。そんな事よりもこれ以上獅童たちに好きにやらせるわけにはいかない。

 みんなの顔を見回した後、スバルがゆっくりと玄関に向かうと、意外な人物が名乗りを上げた。


「こんにちは橘です」


 それに一瞬安心したようにスバルはカギを開けようとしたが、思いとどまりドアスコープを覗いて確認している。


「確かに橘さんだ」


 小声でリビングにそう伝えるが、ゆずの警戒は解けない。ゆずにとっては良く知らない相手でもあるし、松柴と共にマザーの対応で出ているはずだ。


「いいか?開けるぞ?」


 一応そう伝えてスバルがカギを開け、橘をリビングに迎え入れた。橘はリビングに入ってくると、一瞬目を丸くしていたが、すぐに得心した顔になってゆずに微笑んで見せた。

 

「どうして?代表と一緒では?」


 ライフルの狙いこそ外したものの、警戒は解かないままゆずは橘に訊ねた。


「それを話すのに、一人紹介したい人物がいます。大丈夫です、彼は私が、会長も保証しています。」


 周りを見て、とりあえず反対の声は出ないのを見ると、橘は一度出て行きすぐに一人の男を連れて戻って来た。すぐそこで待っていたらしい。


男はリビングに入ると開口一番でお詫びの言葉を述べた。


「私は№4都市警備隊の総隊長の鹿島と言う。まずは我が部隊の非礼を謝りたい。申し訳なかった」


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