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9-10

最初はただの物盗りか、食うのに困った都市外に住む住民かと思って油断していた一行の気が一気に引き締まる。このタイミングで、マザーの素材が入った箱を指定するのだ、ただの物盗りではあるまい。


 獅童を動かしている長野の手下か、もしかしたら情報を掴んだ他の都市の者の可能性もある。カナタは何も言わず桜花の鯉口を切る。

 それを見た男たちが、スッと身構えるのを見て荒事に慣れているとカナタは判断した。


「全員油断するな。アレをピンポイントで狙ってくるんだ、どこかの回し者だろう。手加減はいらない。一人だけ残して後は斬り捨てるつもりで……」


 全員に聞こえるように伝える。襲撃者にも聞こえるだろうが、構うことは無い。向こうは色々と分かった上で襲ってきているのだ。当然覚悟はしているはずだ。


 それを見た襲撃者の中心のいる男が、スッと手を上げカナタ達のほうに振った。おそらくあの男がリーダーか。


「残すのはあの男だな」


 スバルが言いながら抜刀する。その横でダイゴが、戦えない者は軽トラの中に入れて施錠させている。


 じりじりと間合いを詰めて来る襲撃者たち。一触即発の距離になった時、二つの影がその前に躍り出た。


「こういった手合いはぁ、私たちの方が慣れてますぅ。ジャパニーズマフィアの皆さん、こんにちは~」


 そう言いながら、まるで友人に会ったかのように自然に近づいた白蓮さんが、ナイフを振りかざしてきた男の腕を取って関節を極め、即座に折った。折った腕の服がめくれ、派手なお絵描きがしてあるのが見える。

 カナタには全然分からなかったが、どうやらこの男たちはソッチ系の人たちのようだ。


 ゴキリという音がやけによく聞こえた。折られた男は苦痛で声が出そうになるのを耐えているようだったが、そのまま地面に引き倒され、後頭部を踏まれて顔面から地面に叩きつけられ、動かなくなった。


「白蓮、殺してはダメですよ。この後じっくりお話ししていただかないといけないのですから」


 翠蓮さんの声にそっちを見ると、襲撃者の一人が白目をむいて倒れるところだった。何をしたのかすら分からないが、翠蓮さんの呼吸にも服にも一切の乱れはない。


「彼らは根性でできてますから、中途半端な打撃とかは意味がありません。やるときは一気に徹底的にです」


 と、にこやかに恐ろしい事を仰ってる。


「ちっ!こいつら華僑か……おい!」


 リーダーらしき男が、何か指示を出した。それを見た襲撃者たちは急に狙いを変えた。おそらくこの中でもっとも弱そうに見えるゆずとヒナタに。


 カナタはすぐに助けに行こうと動いたが、役割ができているのか複数の男たちに阻まれた。見ると仲間それぞれに対して複数人で足止めを図っているようだ。


「くっ、こいつら!妙にいい動きするな」


 スバルも同じように行く手を邪魔され苛立ったようにつぶやいている。

 カナタ達が目の前の男たちに手間取っている間に、ヒナタ達を捉えに行った男たちはヒナタとゆずを取り囲んでしまった。


「あーーーーっ!」


 その時、ヒナタが突然大声をあげた。何かされたのかと慌ててみたが、まだ捕まってもいない。ヒナタは目の前の一人の男を見つめていた。

 いや、正確には男が持っている武器を見ている。


「私の鬼丸!まさかまた会えるなんて……ちょっと、それ返してください。私のなんです!」


 これには言われた男の方がたじろいでいる。男が持っているのは鉄パイプのようだが……ヒナタは感激したように鉄パイプを見ると、男に逆に襲い掛かっている。


「うっ、なんだこいつ!」


「返してよっ!」


 そう言うとヒナタは男に飛び掛かり、手首を極めて鉄パイプを奪い取った。


「鬼丸!会いに来てくれたんだね!今度は離さないから。絶対だよ」


 もはや、ヒナタは鉄パイプに頬擦りせんばかりの勢いである。そこに武器を奪われた男が手首を押さえながらも襲い掛かった。


「このガキ!」


 掴みかかってきた男をバックステップで躱すと、ヒナタは男をキッとにらみつける。


「鬼丸を奪う気なんだね。なら容赦しないよ!」


「え?いや……」


 あらぬ疑いをかけられた男は、目にも止まらぬ鉄パイプの三連撃をくらい打ち倒されてしまった。


「ふう……。やっぱりいいね」


 ここの所、短刀を使う姿ばかりみていたので、打刀……ではないが、打刀サイズの武器を使うのは久しぶりに見る。

 短刀では舞うように動くが、打刀では直線的に動く、瞬動という動きだ。気づいた時にはもう振りぬいている。


 少し離れてもそんな感じなので、目の前でやられたら瞬間移動したように感じるんじゃないか?と思わせる動きで、さらに二名の襲撃者を沈めてしまったヒナタ。


 うん、あっちは大丈夫だろう……


 一番弱そうな相手にいいようにやられ、男たちに動揺が広がる。その動揺を翠蓮さんと白蓮さんがひろげていく。

 これまで指示を出していた男も明らかに挙動不審の様子だ。

 カナタは自分の目にいる男に浅く斬りつけて、怯んだ隙ににリーダー格の男を攻撃した。


「くそっ、こいつら強いやないか……聞いてたンとちゃうぞ」


 さらに気になる事を男は呟く。きっと№4の誰かからこっちの話を聞いていたんだろう。そしてそいつはずいぶんと過小評価してくれていたようだ。

 

「投降しろ。これ以上は無意味だ。」


 カナタが一応投降を呼びかけてみるが、男はカナタを睨んだだけだ。

 周りを見ると、ほとんど片付けたか、戦っていても苦戦している者はいない。こいつらは間違った情報を与えられていたのかもしれないが、カナタ達もそれなりに死線を潜り抜けてきているのだ。

 

 襲撃者のほとんどが打ち倒され、リーダー格にカナタが向かった時、付近に複数の気配を感じた。


「そこまでだ!こちらは№4の守備隊だ、双方動くな!」


 周りを囲むようにして姿を現したのはカナタ達と同じ隊服に身を包んだ集団だった。


「三番隊?」


 刀を引いたカナタにが周りを見て呟いた。今取り囲んでいるのは間違いなく№4の三番隊だ。


「都市の近くで乱闘とはどういうつもりだ?」


 近寄って来た三番隊隊長の菅野はカナタに対して詰問するような口調で言い放つ。


「好きでやってたんじゃない。襲われたんだ、こっちは被害者だぞ」


「それを決めるのは俺たちじゃない。一緒に来てもらうぞ」


 菅野がそう言い、近くの隊員に目で合図するとカナタの両脇に隊員がつく。拘束はしないようだが不審な動きをすればすぐに取り押さえられるだろう。

 ほかのみんなも同じような状態だ。不当に扱われてたりはしないので、おとなしくしておくようにみんなにも言っておく。カナタ達を襲った男たちも、三番隊の隊員たちに抱えられて連行されていて、リーダー格の男はコソコソと何か告げていたが、隊員達は取り合わなので多少荒っぽい事を言い出したリーダー格の男は両脇をがっちり固められて連行されている。

 

「十一番隊が正規に任務で出ている事は把握している。ただ、今№4の中が不穏なんだ。勝手に部隊を動かしたり、情報や物資を私物化している者もいるみたいでな。剣崎、お前狙われてるぞ」


 連行するふりをして、カナタと並んで都市に向かって歩きながら、真面目な顔で菅野はそう言った。たしか元警官で40前くらいの年だったはずだ。銀縁の細いフレームの眼鏡をかけていて、やや神経質そうだが真面目な男。というのがカナタのもつ菅野の印象だ。これまであまり話をしたことはなかったが、どうもカナタ達の肩を持ってくれているようだ。


「都市に入ったら、たぶんお前を拘束する部隊がいる。なんか心当たりは?」


 菅野にそう言われ、一番最初に須藤の顔が頭に浮かんだ。カナタは手短に今回の任務の中で起きた事を話した。


「……そうか、長野さんが。正直なところ今№4は揺れている。長野さんの一派が松柴代表のすることに反発することが多くなってきて、下は混乱している。普通に会議で決まった事なのに出発しようとしたら横やりを入れてきたりとかな……一番隊や二番隊の所にも部下を送って掌握しようとしているとか噂もあるくらいだ。」


 №4は四国の北東、鳴門海峡を望める場所にある。都市設立の当初、本州からの出入りを制御して四国を掌握したのちに拡大していく方針をとった。だから№1を除く各都市は本州と行き来できる橋を抑える事ができる場所に建っている。


 そしてその時から、長野は淡路島まで勢力下に置きたがっていた。設立当初は人材も物資も不足していたために実現不可能とされていたのだが、ある程度都市に余裕ができはじめたくらいからまた騒ぎ始めていた。

 それは各都市と結んだ協定に反することであり、露見すれば№4だけ孤立することもありうるとして、松柴代表は動かなかった。

 それでも、淡路島を確保して明石大橋を抑えてしまえば本州側からも他の都市側からも独立した場所を手に入れられる。長野はずっとそう主張しているのだ。


 さらに長野はあらゆる手を用いて守備隊の長みたいな立場を手に入れている。正式な任官ではないが守備隊に対しての影響力はバカにできないものがある。


 そしてとうとう、別任務で動いていた一番隊と二番隊を淡路島に送ってしまったのだ。それ以来その二部隊は淡路島に拠点をおいて活動しているらしい。


「だから俺たちが現状№4の筆頭部隊さ。迷惑な話だよ……俺たちも自分の指揮下に入れたいらしく色んな手を使って懐柔しようとしてくるけど、さすがに松柴代表も警戒しているからな。でもそれよりお前たちだよ。十一番隊は松柴代表の手足みたいに思われてるだろ?」


 「いや、思われてるだろって言われても……そうなんですかとしか……」


 そんな事は初めて聞いたのだ。そりゃ最初の頃からの顔見知りだし、松柴さんの指示でしか動いたことは無いけど……

カナタは、自分たちの立場がそんな事になっていた事に普通に驚いていた。

 

 

 

 

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