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「やっと着いた……」
疲れた足を引きずりながら帰路につき、ようやく№4が見えて来たのである。
「イベント盛りだくさん過ぎんだろ……」
「ね。まさか最後の最後がこうなるなんて……」
スバルのつぶやきに、隣を歩くダイゴが返事を返す。そのダイゴは太いロープの様な物を肩にかけ、何かを引っ張ってる。よく見るとスバルも同じような事をしていた。
今回の遠征も色々な事があった。スバルが言うのも仕方ない。
その分見入りも多かったが。マザーの情報収集と言う任務は大成功と言って差し支えないだろう。色んな情報と共に、これまで入手できなかったマザーの一部を持ち帰るのに成功したのだから。
まあそれを巡ってのトラブルもあったが……
とどめが今の状況である。乗って来た軽トラックが、都市へ帰る途中の高速道路の真ん中でガス欠をおこしてしまった。
帰りは荷物も人も多くなったために燃料も多く消費したのだろう。
車を放置していくのも気が引けるし、子供や年配者もいる。そこで見つけて来たロープで引っ張ってここまできたのである。
当然ながら引っ張るのは。カナタ、スバルとダイゴの三人だ。あとは歩くか軽トラの荷台に乗っている。
マニュアル車であったからできた事だ。最初はみな遠慮して歩いていたが、ある程度勢いがつけば転がるようになっているので、人が乗っていても苦にならないと言われ、体力のない龍と花音、喰代博士は荷台に、少し無理をしてしまったのか、龍の体調がすぐれないので翠蓮も荷台で龍の世話をしている。
あとは、ハンドルとブレーキ操作のため白蓮が運転席に乗り、残りは歩いている。
このように色々とあった今回の遠征だが、カナタにとってはとても意義のある任務だった。カナタはそっと後ろを歩くヒナタを振り返った。
カナタの少し後ろを歩くヒナタは、初めて№4に来るので興味深そうに遠目に見える都市を見ている。
「ん?」
カナタの視線に気づいたヒナタが、少し首をかしげてカナタを見る。
「いや……またヒナタと一緒に歩けるのが嬉しいなって思ってさ」
カナタがそう言うとヒナタは少し照れたような顔をしながら頷いた。
「そうだね。私ちょっと諦めてたんだ。もうお兄ちゃんやお父さんお母さんにもあったらいけないんだって自分で思い込んでたし。でも今思うと、あの頃って自分が自分でなくなってたかも」
「ああ、なんか聞いたこと?読んだことか、あるかも」
カナタが思い出しながら昔読んだことのある話をした。ある家に武器を持った強盗が入ってきて家族を脅して立て籠もった。最初は武器や暴力で言う事を聞かせていたものの、長い時間共に過ごすとなぜか親しみを感じてきてしまうらしい。そうなったら従順になり、逃げる事ができるのに逃げようとしなかったり……むしろその後捕まった犯人を擁護したり、刑期を終えて刑務所から出て来た犯人と結婚した人もいるそうだ。
「だからさ、それとは違うかもだけど、そう言う環境に置かれた人は別の自分を作り出して、自分じゃない他の人が辛い目にあってるんだって思い込んでしまう事があるらしい。ヒナタもきっと別のヒナタを作ってたんだよ。そして自分を守るためにあいつの言う事をきいていたんだ。だからヒナタはあんまり気にしなくていいんだと思う。お前も被害者なんだし」
そう言うとカナタはヒナタの頭をそっと撫でる。もうそんな年ではないし、子ども扱いしているような気もするがなんとなくそうしてしまうのだ。
ヒナタはそれにちょっとだけ口を尖らせたが、思い直したのか目を閉じてなされるがままにしている。
「んー、なんかわかるかも。でも私は私がしたことから逃げるつもりはないんだ。私に何かできるわけじゃないんだけど、せめてちゃんと向き合おうって思ってる」
しばらく気持ちよさそうにしていたヒナタは目を開けてカナタをしっかりと見て言った。もう少しずるくなってもいいんだけどな。と思う。しかし次の瞬間その目にいたずらな色が宿った。
「だからね?お兄ちゃん悪いんだけど、兄妹ってことで何かあったら助けてね?こんな妹を持った兄の連帯責任という事で!」
そう言いながら笑うヒナタの頭を今度は激しめに撫でる。
「そんなの最初っからその気だよ。全部まとめて俺も一緒に背負ってやるさ。」
もー、髪が乱れる!と文句を言うヒナタの顔はほころんでいる。そして何かを言おうとしたがとどまった。
しかし一緒に歩きながら微笑ましそうにみているゆずを見ると、にっこりと笑って、カナタの後ろにまわった。
「じゃあ、さっそく」
「うん?」
カナタに向かって両腕を上げて何か求めているようだが、カナタにはピンとこなかった。
「もー!背負ってやるって言ったじゃん。ほら、早く!」
その姿勢のままぴょんぴょんと跳ねだした。
「いや、それはそういう物理的な事じゃなくてだな……」
さすがにみんなの前でケガしているわけでもない妹をおんぶするのは少し照れ臭い。のだが……
「ほらぁ、お兄ちゃんおんぶおんぶ!」
そう言いだしたのをそのままにしておくのも照れ臭い。すでに周りのみんなは微笑ましい感じでそのやり取りを見ていた。
「お兄ちゃん、私疲れた!」
「もう!わかった、わかったから。ほら……」
根負けしたカナタが、背を向けてしゃがむと嬉しそうにヒナタはその背に飛びつく。
「おわっ!もっとゆっくり……お前いくつだよ?」
「あー!女の子にそんな風に年齢聞く?信じらんない!」
そう言って、カナタの背中を両手で叩く。
「信じらんない」
さらにゆずまで便乗して追い打ちをかけてくる。
「くっ!」
こうなるとカナタに勝ち目はない。さらに……
「ん、ヒナタそれはいい。ねえお兄ちゃん私も疲れた。おんぶを求める」
「まてまて、二人は無理だ。せめてかわりばんこに……ぐえ!」
カナタの言い分など関係ないとばかりにゆずも背中に飛びついてきた。ヒナタも少し位置をずらしてゆずのスペースををつくるという無駄にいいコンビネーションすら披露して。
「ちょ、お前ら二人はさすがに……二人で何キロあんだよ」
「あー!女の子に体重聞くとか、信じらんない!」
「うん、もはやセクハラ。」
さっきの繰り返しのようなやり取りにとうとう周りから笑い声がおきる。文句を言いながらも、こんなやり取りが出きる環境ができた事がたまらなく嬉しいカナタだった。
「さっきまでそんな事を考えていたのに……」
思わずと言った感じでカナタがぼやいている。今カナタの目の前には、目出し帽をかぶった男が数人いる。もう都市まですぐそこ、目と鼻の先と言っていい距離のところだ。
「やっぱりカナタ君はもってる。」
なぜか感心するように背中でゆずが言った。
「俺のせいみたいに言うのやめてくんないかな?俺無関係だよきっと……知らない人だし」
「ハアハア……俺たちは動けないから……あとよろしく」
カナタがヒナタとゆずと戯れているため、代わってほしいと言い出せずここまで軽トラを引っ張ってきたスバルは疲労困憊の様子だ。ダイゴはそこまで疲れてはいないようだが同じだけの事をしてきたのだ、無理はさせられないだろう。
男たちは、都市へ向かう途中で少し影になって周りから見えにくい所で待ち伏せしていた。さらに少ない人数でも取り囲めるような位置でもある。思い付きやたまたま見かけたからといったわけではなく、計画性のある行動といえるだろう。
全員がナイフや斧などで武装しているが、動きに統制はなくどこかの部隊らしくはない。
「俺たちは遠征に行った帰りで物資は底をついている。アンタ達が望む者はきっと持ってないと思うぜ」
カナタが一歩前に出て声をかけた。こんなとこで無駄に争ってけがでもしたら馬鹿らしいし、できるなら人は斬りたくないというのも本音だ。
それを聞いた先頭の男が隣にいる男と小声で何かやり取りをしている。襲う価値がないと思ってくれればいいんだが……
「……そこのお前。お前が持っている箱をよこせ。そうしたら全員命は助けてやる。」
目出し帽のせいでくぐもった声と、独特なイントネーションの話し方で男が指したのは喰代博士が持つマザーの素材が入った箱であった。
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