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9-5

休日の追加投稿だー

マザーと戦っている時点で暮れかけていた陽は、しばらく休憩しているうちにあっという間に落ちてしまった。やむなくカナタ達一行は、少し先にあった建物で一晩を明かすことにした。


「ふ~む……」


 難しい顔をして、桜花を睨むように見ているのは喰代博士だ。簡単に夕食を済ませた後、くつろいでいるとやってきて桜花を見せてほしいと懇願された。博士は性格はちょっとアレだが、研究者としてはきっと優秀なんだろう。実際博士の機転でマザーを退けられたと言ってもいいくらいなのだ。


 そこで何かわかるかもしれないと期待して、桜花を渡したのだが……


「や、だめですね。何が作用していたのか想像もつきません。」


 そう言ってカナタに桜花を返す。


「もしかしたら、マザーのような存在が昔もいた事があって、それを素材にしてあるんじゃないかな?と思ったんですが、見る限り鉄ですよね。」


 喰代博士は少しがっかりしたように言った。

 これまでの話し合いの中で、桜花と梅雪の存在は秘匿するという事になった。理由はどうあれ、マザーに効果がある武器だと知られれば、よからぬ事を考える奴がきっと出るという結論に至った。

 とりあえずは松柴さんにだけ報告をして、折りを見て喰代博士に解析をしてもらう。それがはっきりするまでは公にしない。


 今回の遠征では、マザーの体の一部という今までにない素材を確保できたわけだし、現場で喰代博士が記録した様々なデータもあるので、それを公表することになったのだ。

 すでに博士は帰るのを待ちきれない様子で、放っておいたら夜通しでも移動しそうだ。

 

 カナタ達がいる建物は、マザーと交戦した場所から少し離れた所にあった交番だ。

 それなりに頑丈な造りをしているし、表に面した出入口は誰かが補強していたようで、そこの執務室にはダイゴとスバルが交代で見張りをしながら休んでいる。

 奥にも三部屋ほどあって、宿直室らしき部屋と休憩する部屋。それと倉庫のような部屋があって、倉庫を龍さんたちが使い、宿直室を女性陣が休憩室をカナタが使っている。


 埃っぽい床に座って、ゆっくりしていると壁の上の方についている換気用の窓から夜空が見えていた。もうガラスも割れてしまって枠しか残っていない窓から何となく眺めていると、明日もいい天気の様で満天の星空が見える。


 感染パニックが起きて、人類がどのくらい減ってしまったのかわからないが半分は確実に減ってしまっただろう。人が減ったからか、パニック以前ではしょっちゅうニュースなどで耳にしていた地球の環境問題は、皮肉にもかなり改善されたようだ。パニックが起きてほんの数年で、空や空気、気温に明らかな差がかんじられるのだ。

 車もエアコンもほとんど動かない世界になってしまって、案外地球は喜んでいるのかもしれない。


「お兄ちゃん、まだ寝ないの?」


 そんなとりとめもない事を考えながらぼーっと夜空を眺めていると、ヒナタが部屋に入ってきた。そしてカナタの隣を見ると声を殺して笑った。

 それに渋い顔をしたカナタが横を見ると、寝袋に半分くるまったゆずが寝息を立てている。女子部屋が手狭だとか言い出して寝袋を持って乱入してきて、有無を言わせず眠ってしまったのだ。


「こいつ警戒心なさすぎじゃね?」


 安らかな寝顔で眠っているゆずを見ながらカナタが呆れたように言った。思春期の娘が男の部屋に来て無防備に寝るとか、間違いがあったらどうするんだ。


 カナタがそんな事を言っていると、ちゃっかり自分もクッションを抱えてきているヒナタがクスクスと笑っている。


「大丈夫だよ。ゆずちゃん、他の人には警戒してるみたいだから。お兄ちゃんの前くらいじゃないかな、自然体でいるのは。」


 笑いながらヒナタはそう言うが、それは安心していいのかそうか微妙な所である。カナタだって男なのだ。もし自分がよからぬ事を考えたらどうするんだ。と言いたかったが、妹の前では話題にしにくい内容なので言わないでおいた。


 ひなたはさっさとクッションをゆずの隣に置いて、自分も横になっている。


「待て待て。今話してるのに、ここは男部屋だっつーの」


「えー、お兄ちゃんしかいないじゃない。自分だけ広々使うのってずるいと思うな」


 そう言うとヒナタは広がってしまっている寝袋を自分の方に引っ張ってゆずと半分ずつにして被っている。

 そして気持ちよさそうに目を閉じているのを見ると、それ以上何も言えなくなってしまった。


「いっそ俺が向こうに行くか?」


 ため息とともに、独り言のつもりで呟いたのだが、しっかりと聞いていたヒナタが目を開けて面白そうな顔になって言った。


「そうしなよ。喰代博士はちょっとまずいけど、ハルカちゃんの隣空いてたよ?」


「うん、それは明日の朝大騒ぎになるパターンな。そして下手したら刀を振り回すハルカから逃げないといけなくなるパターンな。」


 カナタが半目になって、怖い事を勧める妹を見ると、面白そうに笑っている。

 少し前から思っていたのだが、マザーと交戦する前までとヒナタの雰囲気が変わっているように感じる。いい方に変わっているからいい事なのだが。

 それまでは思い出したように考えこんだり、笑ったとしても今のように楽しそうに笑う事などなかった。


 「なあヒナタ、俺改めて思うんだけどさ。こんな世界になってしまったけどお前が生きていてくれて、俺ほんとに嬉しかった。少し前までは元気がないみたいだったけど、大丈夫だったか?」


 そう言うカナタに一瞬きょとんとした顔になると、ヒナタはまた笑顔に戻って言った。


「どうしたの?なんかお兄ちゃんらしくな~い。……でもありがと。そうだね、私も気づいてなかったんだけど、お兄ちゃんにも心配かけてたんだね。ゆずちゃんがね言ってくれたの。私は優しすぎで、気を使いすぎでもっと甘えるべきだって。とっても必死に言ってくれるゆずちゃんを見てたら、それまで辛かった部分がだいぶ楽になってきて……だからね、ちょっとだけ、もう少しだけ人に甘えてみようって思ったの。」


だから今甘えてま~す。と、言いながらヒナタはゆずに抱き着くようにして、再度目を閉じた。今度こそ眠るつもりなんだろうが、けっこう強く抱き着いていたにも関わらず、ゆずは少し眉をひそめただけで起きる様子はない。


「ゆっくりできる時はゆっくりしないとな。お休み、二人とも」


 そう言うとカナタも自分の場所に寝転んだ。二人の寝息を聞いているうちにいつの間にか眠りについてしまうのであった。




 「カナタさん。……カナタさん!」


 誰かが呼びながら体を揺すっている。思っていたより熟睡していたようだ。さすがに少しまずいなとぼんやりと思いながらカナタは目を覚ました。

 すっかり夜は明けているようで、星空を見ていた窓からは気持ちの良い朝日がカナタを照らしていた。


「すいません、カナタさん。お客さんです」


 目を細めながら見ると、起こしていたのは花音でしかも来客があると言う。

 こんなとこでお客さんって……不思議に思いながら頭を覚醒させるととりあえず花音に挨拶をする。


「おはよう花音ちゃん。お客さんって?」


「この前ハルカさんと一緒にいた人です。なんか怖い感じになってて……ハルカさんが起こしてきてって」


 それを聞いたカナタは一気に気分が落ち込んでいった。この前ハルカと一緒にいた人という事は六番隊の誰かという事だ。なんでここが分かったのかとか、気になる所はたくさんあるが一番の問題は誰が来たのかという事だ。そしてたいがいこういった場合……


「やあ、カナタ君。すまないね寝ていたんだろう?別に君に言う必要もない事なんだが、ハルカ君やそこの研究員がカナタ君の許可がいると言い張るものでね」


 そこにいたのは、六番隊の隊長、獅童だった。隣には難しい顔をした六番隊が連れてきていた研究員の姿もある。

 応対しているハルカと喰代博士の表情を見る限り、ろくな要件ではなさそうで思わず暖かい寝床に帰りたくなってしまうカナタだった。



 

 

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