8-14
ゆずは狙撃に有利な場所を探して、自然と高く広く見渡せる所を見つけていた。
この町で高い位置にあるのは、最初にいた丘。なんか金持ちそうな大きな家。それから小学校。これらの中からゆずは小学校を選んだ。
パッと見た限りで、小学校は小高い丘の上にあり、恐らくグラウンドの端に何か櫓みたいなものが立っているのが見えたからだ。
移動している最中、スバルとダイゴに会い、カナタ達が袋小路で動けなくなっている事を聞いて、廃車を坂の上から転がして突っ込ませるアイデアを出したのはゆずである。
勢いがつきそうな場所まで三人で押して、運転経験のあるスバルがぎりぎりまで進む方向を修正するために運転席に乗り込んだ。
ギリギリで飛び降りるため、邪魔になるからと言ってダイゴが運転席のドアをもぎ取った事には咳き込みそうになったが、なんとか想定通りにカナタ達を脱出させることに成功したようだった。
それでも高台へ移動するのはやめなかった。
嫌な予感がするのだ。そしてそれはヒナタとも意見が一致してお互いにできる事をやろうと、別行動している。
ようやく小学校にたどり着いて、懐かしい風景に感慨に浸る余裕もなく下から見えた櫓に向かってみると、木製の古い消防櫓だった。
町で火災があった時などに、消防団か誰かがここに登り、鎮火するまで鐘を叩いて知らせるものだ。
今の時代、実際に稼働していたかは知らない。ゆずとしては町を広く見渡せればいいのだ。さすがに花音は連れてきていない。最後までついてきたそうにしていたが、危険をカナタに知らせる役目と言って龍さん達の所に置いてきた。
重い銃を二本も肩にかけ、はしごを昇るのは小柄なゆずには大変な作業である。何度足を滑らせたか分からないし、上にたどり着いた時には冷や汗なのか、動いて出る汗なのか、わからないほどぐっしょりになっていたくらいだ。
そしてようやく辿り着いたてっぺんで、スコープを覗いたゆずは愕然とした。マザーがカナタ達の近くにいる。
しかもそのマザーの元から四本足の獣のように走る感染者らしきものが、カナタ達の所に突っ込むのが見えた。知らせようにもこれだけ距離があるとインカムは雑音を出す機械でしかない。
親機は花音に預けてきたので、向こうは通じるだろうが、ゆずは圏外なのだ。スコープの向こうで三人とも立ち上がったのが見えてほっとする。
だが、その獣のような感染者は邪魔な建物はなぎ倒して一本の広い道を作って戻って行った。
またあれが突進したら……直撃したらただでは済まない。しかもカナタの位置からは見えないだろうが、マザーがカナタ達の方向に向かって移動を始めたのが見えた。
まるで、そのための道を作ったかのように、獣のような感染者が作った道を通って……
同時にマザーの周りにいたコロニーを形成している感染者達も移動をはじめ、マザーが進む道から一本離れた道を歩き出す。まるでカナタ達を広く包囲するような感じで。
「だめ、そのまま進んだらカナタ君が……」
ゆずはあわててM14を構えて、連続でマザーを狙撃した。白蓮に習ったスコープを利用して大体の距離を測る方法を使ってみると、ゆずのいる所からマザーまでおよそ600m。狙って当てられない距離ではないが、威力は大分減じる。
それでもゆずは立て続けに撃った。そのほとんどがマザーに当たったが、全く気にもしていない。
「だめ!」
カナタ達は警戒しながら撤退するだろうし、位置関係も良く分からなくなっている可能性もある。せっかく苦労して登った櫓だったが、滑るようにして降り元の道を走った。
全力でマザーと逆方向に向かって逃げればなんとかなるかもしれない。途中支給品であるM4は弾を抜いて茂みに投げ捨てて来た。担いで走るのが邪魔だったからだ。今は速度を重視したい。
ひたすら走って、花音が立っているのが見えて来た。その場に倒れる様にして息を整えていると花音が泣きながら寄ってきた。
「ゆずお姉ちゃん、カナタさん達が……感染さが大きく広がって動き始めて、周りを囲むみたいに」
「だいじょぶ、カナタ君には、つたえた?」
息を整えながら花音に言うと、花音は黙って頷いた。ゆずはにっこりと笑って花音の頭を撫でてやる。
そして花音から親機を受け取り、カナタに逃げる方向を伝える。
その後は少しでも注意を引こうと、ここからでもわずかに見えるマザーの上半身めがけて残弾をすべて撃ち尽くした。
撃った後もスコープで見ていると、弾丸が命中してえぐれた部分がゆっくりと再生しているのが見える。
「そんな……」
そして、これだけ撃ってもマザーの視線はカナタ達を向いている。カナタとハルカは何か感じるのか、立ち止まってマザーの方向を気にしているのが見える。
そんなの気にせずに逃げてほしい!そう伝えようとインカムに手をやった瞬間、ゆずは自分の失策に気づいた。周りをコロニーの感染者達に囲まれているのだ。
自分と花音や、龍さん達がいるこの丘も含めて……。
早くに感染者の移動に気づいていたのだ、マザーばかりに気を取られずにそっちも確認するべきだった。そうすれば少なくとも龍さん達や、花音は逃げられただろうに……
それでも報告しないわけにはいかない。悔しさに歯噛みし、唇から血が流れ落ちるのも気づかず、カナタへ包囲されてしまった事を伝えた……
「カナタ君、もうダメ。私たちは……感染者のコロニーの中にいる。みんな……囲まれてる……。
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