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8-9

「カナタ君、もうすぐそこ。接触までおよそ五秒」


 インカムから聞こえたゆずの言葉を信じ、心の中で三秒数え角から姿を出した。


 だいたい思った通りの所まで来ていた男たちは必死の形相で駆けてきているが、息も上がり限界は近そうだ。その上カナタが急に現れ、飛び上がらんばかりに驚いている。


「こっちだ!あとは引き受ける。そこを曲がったらすぐ階段があるからそこを昇れ。うちの部隊の者がいる」


「げっ!十一番、隊、か……」


 遠目に見た時に思っていたが、カナタ達と同じ隊服を着ている。青地に白抜きの六の文字が入った腕章をしている六番隊の隊員だ。


「いいから早く!ここは俺たちが食い止める。」


「…………」


 男たちは何か言いたげな顔をしていたが、おとなしくカナタが言う方へ走って行った。


 ターン!


 そこに銃声が響き、走っている感染者のうち一体がもんどりうって倒れた。


「ゆずか!」


 ここから結構距離がある。一度接近戦になったら狙撃は難しいだろう。それならば……

 

「ナイスだ、ゆず。まだいけるか?できるだけ減らしてほしい」


 インカムでゆずに向けて言う。


「了解ワンマガジン撃ち尽くす。そこから動かないでほしい」


 ゆずの返答があったと言わんばかりに、立て続けに銃声が響く。それと同時にこっちに向かってくる感染者が先頭からパタパタと倒れて行く。


「うへぇ……ほぼヘッドショットだよ。怖!」


 スバルがそう言うのも無理はない。銃声と倒れた感染者の数はぴったりと一緒だったのだから。ゆずが狙撃に使っているのは白蓮さんに貰ったM14カスタムだ。もとも狙撃競技用に民間でカスタムされた銃を、さらにゆず用にカスタマイズされたそれは守備隊で主に使われる小銃より大きい口径の弾を使う。

 守備隊で主に使われているのは、駐留軍から回収したM4で弾は5.56mmNATO弾だ。比べてゆずの使うM14カスタムで使うのは7.62mmNATO弾で、威力や射程に優れている。

 しかし、いくらか威力が高くても感染者が相手だと急所に当てないと倒せない。いくら狙撃競技用に改造された銃でも全弾命中させるのはかなりすごい事だろう。


きっちり20体倒して銃声は止まった。残り十体ほどがこっちに向かって来ている。


「走るのが一体。残りは歩いてる!その後ろは大分離れてるから、その十体倒せば逃げ切れる!」


 いつの間にか道路脇の家にあるブロック塀に上っていたスバルが言った。遠くまで見るために上ったのだろうが、そのまま塀の上を駆けていく。


「相変わらず身軽だなぁ」


 呆れたように言いながらダイゴが道路を走ってその後を追った。カナタもすぐ後に続いて走り出す。

 スバルは走る感染者を標的に決めたようで、一体だけ突出してきたそれに向かって飛び降りた。


「おらっ!」


 気合と共に振り下ろされた支給刀は、走ってきた感染者の肩口を撫でる様に軽く斬っただけだ。


「スバル!」


 思わず声がでてしまったが、当のスバルはまったく慌てるような事もなく着地と同時に屈むように身を伏せた。

 どうやら走ってきた感染者の勢いを削ぐための攻撃だったようで、足を止めさせた上で、目の前に降りてきたスバルを掴もうとした腕をかいくぐって一閃、見事に膝を砕いた。


「シュッ!」


 膝を砕かれ、その場に崩れ落ちた感染者の無防備な首に、気合の声と共に振り下ろされたスバルの刀は感染者の首を皮一枚残して切り裂いた。


「くそ!また斬れなかった。」


 悔しそうにするスバルの横を駆け抜けて、ダイゴが盾を構えて突進した。歩いて来ている先頭の感染者に盾ごと体当たりしたダイゴの勢いで、それが後ろの数体を巻き込んで倒れた。


「さっすが、ナイスパワー。」


 倒れた感染者には目もくれず、巻き込まれなかったが目の前で数体折り重なるように倒れているので、進めないで立ち往生している感染者に向かって走る。


「あああぁぁ!」


 走り寄るカナタに気づき、唸りながら両手をカナタの方に伸ばすが、その時にはもう間合いに入っていた。


「ふっ!」


 鋭く息を吐き、鞘走った桜花が閃いた。次の瞬間には、先頭の感染者は片腕ごと首を切り落とされていた。

 カナタは血ぶるいだけして、次の感染者に向き合う。

 後ろでは倒れた感染者をスバルとダイゴが片付けている音が聞こえる。


「あと4体!」


 二人に聞こえる様に残りの数を叫ぶと、向かってきた感染者の腕を桜花の腹で叩き、喉元に突き入れる。

 ずぶりと肉に食い込む嫌な感触が手に伝わるが、延髄と思しき手ごたえがあるまで押し込む。


「がああ……っ」


 のどに刀を突き入れられながらも、カナタを掴もうと前に進んでいたが、刀が延髄を破壊した感触と共に電池が切れたように力が抜ける。


 その時には次の感染者の手がすぐそこまで伸びていたが、後方に飛びながら払い切り落とす。

 片腕を失いバランスを崩したのか、たたらを踏んだところにダイゴの体当たりが再度炸裂した。たまらずしりもちをついたその感染者は、待ち構えていたスバルにとどめをさされた。


「あと2体」


 先を争うように向かってくる感染者に向き合った瞬間、後ろ側にいた方が急に飛び上がった。


「え?」 「うそ!」


 驚きの声が被さって聞こえ、ジャンプした感染者がダイゴに向かって襲い掛かった。


「しまった!ダイゴ!」

 

 完全に意表を突かれ、動くのが一歩遅れてしまった。

 走る感染者には十分に留意していたものの、ジャンプしてくる奴がいるなど考えてもいない。


 やや小柄な感染者はダイゴに覆いかぶさる。こうなると攻撃がしづらくなる。幸い、何とか反応したダイゴは盾で受け止めたようで、傷は負ってなさそうだ。


「大丈夫!力はそれほど強くない!」


 ダイゴに覆いかぶさったままの感染者は、がむしゃらに噛みつこうとしているが盾で阻まれて自分の顔を血塗れにしている。


「ふ……ん!」


 何とダイゴは盾に感染者を乗せて持ち上げてしまった。そのまま叩きつけるように投げ捨てる。受け身も取れない感染者は顔面から地面に落とされ、その顔はさらに血でぐちゃぐちゃになっていた。

 その隙に腰から鉈を抜いたダイゴは、その哀れな感染者のとどめを刺した。


 残りの一体も警戒したが、普通の感染者と変わらぬ動きだった。


「まさかジャンプするなんて……」


 最後の一体をカナタが片付けている間、自分が倒した飛んできた感染者を見つめてダイゴが慄いている。


「しかも何の予備動作もなかったぜ。ほら普通なら大きくジャンプしようと思ったら、少し身を屈めてから飛ぶじゃんか。そいつ歩きながら直立した姿勢から跳んだから」


 比較的近くにいたので、その瞬間を見ていたのだろう。スバルは捲し立てる様に言った。

 しかもダイゴまで少なくとも4mはあったはずだ。走るのが出てきたと思ったら今度はジャンプしてくる。いったいこの感染者ってのはどうなっているんだろう。


「っと、こうしちゃいられない。一旦引こう」


 いまだ驚愕が覚めない二人に、周りを見ながら言った。後続は少し離れている。

 特殊な奴らにだけ気を付ければ、走って逃げて身を隠せば誤魔化せる。そう考え、二人を急かして元の場所まで戻ろうと声をかける。


 二人とも気にはなるようだが、ぐずぐずしていたら後から来る感染者とも戦闘になってしまう。今回みたいにうまく分断して戦えるわけでもないのだ。


 「急ごう!」


 スバルがダイゴの背を押すように駆けだす。それを確認してからカナタも走り出すのだった。

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