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「来ないな……」
カナタ達十一番隊は、移動して最初にマザーを見た神社へと場所を移していた。ここのマザーの周回ルートとしてカナタ達が最初に見た場所も入っているので、ここで待っていてマザーの方から姿を現す。はずだった……
「予定時刻からもう三十分は過ぎてる。何かあったのかな」
ダイゴが、マザーの周回ルートを書いてある資料と時計、それからマザーのコロニーが姿を見せるであろう方向をそれぞれ見ながら心配そうに言った。相手は感染者の群れだ。必ずしもこちらの思っている通りに動いてくれるわけじゃない。
それにしても感染者の一人も姿を見せないのは違和感がある。周回ルートは何を基準にしているのか判明していないが、かなり正確に同じところを移動する。どういう時なのか、これも判明していないがルートを変える時がある事はあるが、たまたま今回がルートを変更した時だったという可能性もあるだろうか……
ここからはよくルート上が見渡せるし、草木が生い茂っているために向こうからは見えにくいという絶好のポジションなんだが。前の時も最後まで見つからなかったし。
「あと十分待ってみて、来なかったら龍さん達を待って移動しよう。」
しばし悩んだが、カナタはそう決めて周りに伝えた。今だ感染者の事はよくわかっていないのだ。こっちの予想など簡単に超えてくることだってあるだろう。
龍さんと翠蓮さんは、近くを通りがかったので鍛冶小屋から持ってこれなかった物を取りに行きたいという事で、別行動中だ。
ここまで来る途中に確認したが、小屋付近に感染者は見当たらなかったので、カナタは希望を受け入れた。
克也たちに連れ出された時は、急かされて取るものもとりあえずという状況だったらしく、色々大事な物とかもそのままにしてきているらしい。
白蓮さんはまだ正式に入隊したわけじゃないのに、カナタの指揮下に入ると言って残ってくれている。
今はヒナタとゆず、それから花音が一緒にルート上を監視している近くで付近を警戒している。指示を求められたので、とりあえず三人の護衛を頼んだのだ。
カナタが、チラリと腕の時計を確認する。もうすぐ十分が経とうとしている。
「まだ変化ないのですか?」
声が掛かり、振り返ると翠蓮さんが気づかわしそうな顔でこっちを見ていた。どうやら先に龍さん達が戻ってきたようだ。
カナタが経過を話すと、二人とも難しい顔になる。
それはそうだろう。向こうから来なければこっちから近づかないといけないのだから。特に龍さんを危険に近づけたくない翠蓮さんは顕著だろう。
「そうか……ならばこっちから出向くしかないわけだね。危険が増すだろうな。翠蓮、すまないがよろしく頼むよ。儂がもう少し戦えればな」
「承知いたしております。先生、適材適所ですよ」
そう言ってお互いに笑いあっている。
もしかしたら反対されるのではと、思っていたカナタは思わず聞いてしまう。
「マザーに近寄る事に反対ではないんですか?」
カナタが聞くと、二人で顔を見合わせて少し笑うとカナタに言った。
「確かに反対は反対だな。あのマザーという奴は人が手を出してはいけない物のような気がする。でも君は組織の一員でそれを調べないといけないんだろう?私もお世話になると決めた以上、都市の方針に準じて動くつもりだよ。差し当たって君の命令には従おうかな」
最後の方は冗談っぽくではあったが、龍さんは都市の意向に従うと言ってくれていた。
龍さんがそのつもりなら、翠蓮さんもそれに沿って動いてくれるだろう。
「わかりました、協力に感謝します。安全には留意して動きますので龍さん達は少し離れて、そうですね、ゆず達とともの行動していただけますか?翠蓮さん、万が一龍さんの方に感染者が言った場合はすみませんがお願いします。」
カナタの言葉に龍さんは満足したように頷いてくれる。
「お任せくださいカナタ様。先生の身はこの翠蓮がわが身に替えてもお守りするとして、余裕があればゆず様たちのサポートくらいはできるかと思います。」
軽く頭を下げて翠蓮さんはそう言ってくれた。後衛であるゆず達は、非戦闘員が多い。俺やスバルとダイゴが前線に出てしまえば、花音や喰代博士はゆずに守ってもらうしかない。ヒナタが加わり、白蓮さんが従ってくれるようになったので、白蓮さんをサポートに回すつもりではあったが、ゆずが射撃に集中するのならもう一人くらいカバーする人がほしい所だったのだ。
「カナタ様、白蓮を後衛のカバーに回すおつもりですか?」
そんなカナタの考えを読んだかのように翠蓮がカナタに訊ねる。
「はい、そのつもりです。ゆずが射撃に集中しても、お二人がいれば安心ですから」
「白蓮もお連れ下さい。」
カナタの答えを聞いた翠蓮が白蓮も前線に連れて行けと言う。
「いや、しかし……」
「大丈夫です。万が一感染者に襲われたとしても、ゆずさんと私で皆さんが前線から戻るくらいの時間は稼いで見せます。それくらいは先生をお守りしながらでもできるかと。それよりもマザーの周りのほうが感染者に群れがいると聞きます。白蓮はその場を動かず誰かを守るより、自由に動きながら攻撃するほうが向いておりますのでそのほうが良いかと」
カナタの言葉にかぶせるように翠蓮はそう語った。
「カナタさん、姉さんが言うなら大丈夫ですよぉ?私もそのほうが戦いやすいですぅ」
話を聞いていたのか、白蓮さんも前線の方がいいと言う。
カナタとしては、翠蓮が只者ではない事を知っているので、戦闘力は疑ってなかったが、部隊員でもない翠蓮さんを戦力として数えるのに抵抗があったのだ。
「そう言ってくれるんだったら……すいませんが、よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げた。正直な所人手不足の十一番隊では、前衛も後衛も人が足りない。翠蓮さんほどの人をあてにできて、白蓮さんを前線に組み込めるのはのはかなり大きい。
それでもマザーに近づくには戦力不足は否めないのだが、そこは工夫してできるだけやるしかない。
周りを見ると、みんな話を聞いていたようで、黙ってこちらを見ていた。……やるしかないか!
心に中で己に喝を入れてカナタは指示を出し始めた。
「ダイゴは一番前でタンクだ。倒そうと思わなくていい、敵の攻撃や動きを止めてくれるだけでいい。スバルとヒナタは俺と一緒に前列のアタッカーだな。ダイゴの一歩後ろで片っ端から倒す。その後ろに白蓮さん。白蓮さんは俺がまだ動きを把握してないから中衛で自由に動いて下さい。残りは後衛だ。ゆずは射撃でみんなを援護だ。後は帰るだけだから残弾は気にしなくていい。そこで撃ち尽くすつもりでやっていい。花音はゆずから離れずに、もし近くに感染者が来たらすぐにゆずに伝えるんだ、いいね?喰代博士も必要な時が来るまで後衛でおとなしくしててください。いいですか?メインの目的はマザーです、途中で暴走しないでくださいね?龍さんもすいませんが付近の警戒をお願いします。で、翠蓮さん、すいませんが後衛の皆をお願いします」
それぞれの配置を伝えていくカナタに、みんな思い思いに返事を返していく。ここに至って編成に問題はないようで、誰からも異論は返ってこなかった。
「じゃあ、行こう。間違いなく危険な所だ。気を引き締めて行こう。十一番隊の方針は常に「いのちだいじに」だ。」
そう言って締めると、力強い答えとなって返ってきた。
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