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それから、カナタ達は白蓮と共にスバル達が集まっている所に向かう。
スバル達は、克也たちが残していった荷物の確認をしていた。どんな奴が使っていた物でも、物に罪はない。使える物は回収していかないと、物資は常に不足しているのだ。
「おお、カナタ!ヒナタちゃんも。もう大丈夫なのか?ゆずから聞いていたけど、全然来ないからまた寝込んだんじゃないかって話してたとこだったんだ。」
スバルが近寄ってきたカナタ達に気づいて、そう声をかけた。その声にみんな作業を中断して、口々に心配する言葉を出しながらカナタ達のほうに近寄ってくる。
「少し龍さん達と話があってな。心配かけたみたいで申し訳ない。もう全然大丈夫だから」
カナタの口から改めてそう聞いたことで、一同に安堵の様子が広がっていく。その様子を見るだけで、どれほど心配をかけてしまっていたのか分かるというものだ。
気を付けないと……と改めて自省するカナタだった。
「そっか白蓮さんが入ってくれるなら戦力倍増だな。」
白蓮さんが、十一番隊に加入してくれる事になったとみんなに伝えると、手放しで迎え入れてくれた。白蓮さんが強く信頼に値する人物であることが大きいのだが、まず十一番隊は他の部隊と比べて人数がかなり少ないのだ。これは十一番隊ができる時にあったいざこざも関係するのだが……。
「ヒナタちゃんも入ってくれるんでしょ?カナタ君ちゃんと守ってあげないとね」
ダイゴも嬉しそうにしている。それよりも…………
「なあ、ゆず……何してんだお前?」
みんなの元に行き、心配させた事詫びた後白蓮さんとヒナタの加入を伝えた。その頃からゆずがカナタの隣にやってきて、カナタ越しにヒナタを見ているのだ。
最初は気づかないでいたヒナタも、露骨に見て来るゆずに居心地悪そうにしている。
「年も、背格好も同じくらい。カナタ君の妹ポジション……私とかぶる。アイデンティティの危機?」
「確かに同年代で、身長も……一緒くらいか。いや、だからって。っていうか妹ポジションってなんだよ」
「カナタ君にはわからない。これは重要な問題。私は追い出されるのは嫌。負けられない」
などと言い出す始末だ。何があっても追い出すつもりなどないと言うのだが、ゆずにとって譲れない何かがあるらしい。
カナタは何がなんだかわからかったが、ヒナタにはだんだんわかってきた様子だ。
「私が後から入ったから後輩だけど、妹歴は私が長いわ!何しろ生まれた時からお兄ちゃんの妹だもの」
ゆずにむかってそんな事を言うヒナタ。何を当たり前の事を……と思っていたのだが、ゆずはガーン!という効果音が聞こえそうな表情をしている。
「で、でも私はカナタ君から一生一緒にいてほしいと言われている!守らせてほしいって。そう言われた!」
その言葉に、今度はヒナタが愕然とした表情になる。
「っていうか、誇張はするな。」
さすがにそこはカナタが訂正をした。ゆずの言うままなら、まるでプロポーズしたみたいだ……
「でも、お兄ちゃんの事だから似たような事は言ってそう……なかなかやるね、ゆずちゃん」
「ん。……さすが妹、カナタ君の事はよくわかってる。……ヒナタって呼んでいい?」
よくわからないが、今度は何か通じ合うものがあったようだ。握手して健闘をたたえ合っているみたいな雰囲気を出している。
そのまま肩を寄せ合い、何やら仲良く話し出した。
「……なんだあれ」
もう突っ込むこともできなくなったカナタが唖然と見送っていると、白蓮が肩を叩いて言った。
「なんていうか~、似た者同士の格付けみたいなものでしょうかぁ。仲良くやれそうでよかったじゃないですか~」
言われてもピンとこない……二人ともいい子だとカナタは思っているので険悪な関係にはならないだろうと心配もしてなかったのだが……まあ、仲がいいならいいか。
もはや理解をあきらめたカナタはそう結論づけて自分を納得させることにした。
「で、どうすんだこれから」
仕切りなおすかのようにスバルがカナタに言った。ゆずとヒナタは少し離れた所で話している。内容はきこえないのだが、どうも自分の事を話しているようで落ち着かなかったが、なんとか振り切って今後の事について話し出す。
「来る時とだいぶ状況が変わったからな。ただマザーの現在の状況はやっぱり確認しておかないといけないと思う。今後のルートによっては計画も必要になると思うし……」
マザーを中心とした感染者達の群れ。それらひとかたまりを称してコロニーと呼んでいる。コロニーでは全員が同じ方向に向かって移動をしていて、大きな円を描くように周回している。今は人が住んでる領域を通ることは無いが、そのルートが変わるという事はこれまで何回か報告されている。
今では他の都市の近くでもいくつかのコロニーができているらしい。いくつかはルート上にある集落を食いつぶしていったとも聞いている。常に警戒は必要なのだ。
「そうだね、もともとそれが主任務だもんね。でも生存者の救助の名目で一時撤退するという手もあるよ?」
ダイゴは慎重な性格らしい提案をする。№4では生存者の救出を奨励していて、他の任務で都市外に出た時に生存者がを救出した場合、任務の一時中断は認められている。そこは隊長の判断にゆだねられているが、方向性としては任務よりも救出に重きを置いている感じだ。
「そうだな。俺も考えたけど……またここまで来るのも大変だし、なんとなく六番隊が心配なんだよな」
少し渋い顔になったカナタがそう言う。今頃六番隊がマザーの情報を集めているはずなのだ。しかし正規の任務ではなく上の手柄争いみたいなもので動いている。
ちゃんと危険度を理解していればいいが……
ほかのみんなもカナタと同じような顔になっている。こうやって現場でかち合ったりしたら場合、お互いに譲らず喧嘩になる事も多いのだ。マザーの情報は№4が多く持っていて他の都市への強みになっていると言っていい。それだけその情報の重要度は高く価値がある。
分かりやすく手柄を主張するには格好の素材なんだろう。現場の人間としては知ったこっちゃないんだが……
「しかも動いてるのが六番隊だもんね……」
ダイゴがため息をつきながら言う。六番隊は十一番隊と何かと反りが合わず、いつも絡んでくる。特に六番隊隊長の獅童とカナタは顕著だ。どういういきさつかわからないがハルカが向こうに入った事もずっと尾を引いているのだろう。
一度ちゃんと話したほうがいいと、スバルもダイゴも何度も言ったのだが、そういう事もあってカナタはあれからろくにハルカと話もしてないのだ。
「でも俺たちは代表からの命令で動いてるんだから、ほんとは俺たちが優先されるべきだよな。構わないからやる事やっちまおうぜ!そりゃハルカの事は気になるけどさぁ。ついでに様子を見ればいいんじゃね?」
あまり深い事を気にしないスバルは気にせず任務を続行するべきだと言う。
「部隊間の軋轢ですかぁ。やっぱり人間は集まればそんなふうになっちゃうんですね~。」
話を聞いていた白蓮は、少し呆れたような顔で言った。パニック当初は生きるのに必死で、こんなことはなかったのだが、ある程度落ち着いてきたらこうなる。
どうしようもないな人ってやつは……カナタもそう思うが隊長として言葉にするわけにはいかない。
「ハルカは関係ない。俺たちは任務を受けて出て来たんだ。結果は残さないといけない。手ぶらで帰ると松柴さんも困ると思うんだ」
カナタがそう言うと、みんな納得した顔になった。結果が想像できたのだろう。
長野総督という顕示欲の塊が裏で手を回してまで六番隊を送ってきている。もし六番隊が新しい有力な情報を持ち帰ったなら、それを手柄として何を言い出すかわからない。
松柴さんや橘さんならどうにでもしそうな気もするが、懸念材料は少ない方がいいに決まっている。
ほぼ全員の納得を得た事で、方針が決まった。
「よし、マザーの所に、向かおう」
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