8-4
「どうですかぁ?カナタさん」
「正直、あまり使ってなかったんで、龍さんがいいなら俺は構わないです。どうするヒナタ、やってみるか?今までとやり方は大分変わると思うけど。」
ヒナタに向かってそう聞いてみると、やや悩んでいたようだが、ヒナタは遠慮がちにだが頷いた。
「仁科道場で、短刀とか短い武器の扱い方も少しだけど習ったの。だから、もし使わせてもらえるんなら私……うん、やりたい」
最後は力強く言った。
「そっか。きっと俺が使うよりもうまく使えると思う。これが梅雪だ」
カナタが、梅雪を取り出して、ヒナタに渡す。
それを両手で大事そうに受け取ると、しばらくその外見に見とれている。
そして、ゆっくりと鞘から抜いて、全体を検める。桜花と同じく水に薄墨を垂らしたような刀身の色。波紋は墨で引いたように黒い。短刀にしては身幅が厚くしっかりした造りをしている。これなら少々乱暴に扱っても折れたり曲がったりしにくいだろう。
「使ってないからきれいにしてると思う。それ、もともと大太刀だったらしいよ」
「へえ~。だから身幅が厚いのかな?」
ヒナタは以前もらった短刀を取り出して、鞘から抜いて並べてみる。
ヒナタがもらった方は全体的に小ぶりで身幅もやや薄い。きれいだが武骨な梅雪に比べるとおとなしい印象を受ける。その分軽く取り回しは断然こっちがいいだろう。鋭さを求めるならこっちのほうだろうか。
「それ銘は?入ってないのか?」
「わかんない。私本物扱った事ないから怖くて見てない。」
さすがに兄妹揃って刀マニアなだけあるのか、まわりそっちのけで刀談義を始めてしまった。
龍はほほえましい気持ちで眺めているが、白蓮は話を進めたいのだろう。わざとらしい咳ばらいをする。
「あ……すいません。つい」
「ごめんなさ~い」
気づいて肩を縮こませる二人に、思わず白蓮も噴き出してしまう。
「お二人ともほんとに刀が好きなんですねぇ。なんか蟠りがあるみたいに聞いてましたけど~。兄妹仲良しでなによりです。まぁ、お話は後程ゆっくりしていただくとして~、ヒナタさん。私もちゃんとした所で修業したわけじゃないんですよぉ。言ってしまえば我が家に伝わる技術といいましょうか~。それでもよろしいですか?もしかしたら、ヒナタさんがこれまで学んできた技と反りが合わないかもしれませんが……」
「いえ、道場では基本的な触り方くらいしか習ってないから大丈夫です。それに仁科流って珍しく色んな種類の武器を使うらしくて、道場でも剣ばかりじゃなくて槍とかなぎなたとかもやってる人いましたし……」
「そういや師匠が昔言ってたな。戦場では得意な武器ばかりをずっと使えるわけじゃない、刀折れ矢が尽き槍が曲がろうとも戦えるのが仁科流の神髄だって。当時は何言ってんだろって思ったけど……」
昔を思い出したのか、ヒナタに続いてカナタも語る。龍が感心したように頷いている所を見ると意外とまともな所だったのか?と二人は思い始めている。
「今時珍しいですねぇ。かくゆう私もよくは知りませんが、武術のスポーツ化とお金を稼ぐ手段になってからは、そっちがメインの道場ばかりだって、父や祖父も言ってました」
白蓮も感心している様子でそう言っていた。
同じことをかんじているのか、龍も頷きながら話す。
「うむ、スポーツとしての武道が悪いわけではないがの。別の物と考えるべきじゃな。戦場で使う技か試合で使う技かの違いじゃ。話を聞いているとカナタ君たちの師匠殿とぜひともお会いしたくなってくるな。こんな世界じゃからなぁ。ご存命かな?」
「あ、都市から今も連絡とってるみたいです。俺たちが避難してくるときに誘ったんですけど、道場に残るって。それにあそこには二人ほど化け物がいるんで……下手に襲撃しようものなら逆にトラウマ植え付けられますよ」
カナタがそう言うと、ヒナタは苦笑いしている。
「化け物って……アマネさんとキザさんの事でしょ?お兄ちゃんがトラウマになってんじゃ」
「確かに!」
そう言い合って笑う兄妹に、龍も楽しそうに笑って言った。
「それはそれは。頼もしいかぎりじゃな。師匠殿もさぞかし心強いじゃろう。どうかな、機会があればでいいんじゃが、ぜひお会いしたいのだが……」
龍の言葉にカナタ達は顔を見合わせる。見る限り本気の様だ。まさに先ほど話していたのに……
少し笑って、ヒナタとさっき話していたことを龍に話した。自分たちも機会があれば一度帰りたいと思っていると。
龍はそれを聞いて、本気で喜んでいる様子だ。そしてしばらく何かを考えていたかと思うと、おもむろに後ろにいた翠蓮さんを振り返った。
振り返って何か話すわけでもない。ただ数秒見つめ合っただけだ。それでも何か通じるものがあるらしい。
「私は最初から申し上げてますように、都市にお世話になるのは賛成です。お願いして鍛冶のできる施設を準備していただいては?都市にとっても武器の制作という利点となるでしょうし……」
「うむ、そうじゃな。儂はようやく探し当てた森の鍛冶小屋が一番良い所なんじゃが、翠蓮や白蓮の命を盾にしてそこにこだわるのは間違っておるだろうしの」
二人で何のことを話しているのかよく分からないので、黙っていると龍さんはおもむろにカナタ達に向かって言った。
「カナタ君、前に都市への避難を勧めてくれたな。それの事なんじゃが……こっちが断っておいて虫の良い話とは十分理解しておるが、そこを曲げてお願いしたい。我ら三人、都市への避難ができるよう口をきいてほしいのじゃ。儂らにできる事なら協力は惜しまんつもりじゃ。どうかな?」
龍さんがすこしバツが悪そうに頼んでくる。それに関しては問題ない。都市外で生き残っている人が、避難を希望した場合、とりあえず了承する決まりだ。もちろん都市にも決まりやルールなんかはあるし、集団生活である以上裂いて減のモラルは求められる。
なので、一定の保護観察をえて問題なしと判断されれば市民になれるというシステムだ。
龍さん達なら問題ないだろうし、カナタの名前で推薦もできる。
カナタがそう伝えると、龍さんはもちろんの事、翠蓮さんがとても喜んでいた。やはりずっと心配だったのだろう。
「すまんな世話をかける。そうじゃ、その手間を先ほどの刀の打ち直しの代金とさせてもらおうかな?逆に足らんくらいじゃろうから、別に礼は考えるとして……な」
龍さんがそう言ってヒナタを見てにっこりと笑った。
「え、それは……私が何かするわけでもないですし……」
そう言われ、ヒナタはどう答えていいか迷っている様子だが、もともと受け取るつもりもなかったんだろうし、落としどころとしてはちょうどいいのかもしれない。
そう考えたカナタは、おろおろしているヒナタの肩を叩いて笑うと、龍に言った。
「それで大丈夫です。それに不足はありませんから」
追加で礼をする必要もないと言う。
「そうか……ではよろしくお願いする。そうじゃ白蓮」
龍もそれを理解したようで、話は終わりかと思ったが、いきなり白蓮の名を呼んだ。
「はい、先生。なんでしょう~」
「都市ではある程度安全じゃろうから、そなたまで儂についておる必要はないと思う。白蓮よ、カナタ君の組下に入り、力を貸してあげなさい。役目は気にせんでいい、翠蓮がおれば十分じゃ。自由にやってみなさい」
「あら~。私お役御免になっちゃいましたぁ。カナタさん責任取って、拾ってくださいね?」
龍から自由にするよう言われ、少しだけ驚いた様子を見せた白蓮だったが、すぐにいつもの調子に戻って、カナタにそんな事を言うのだった。
読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。
ブックマークや感想、誤字報告などは作者の励みになります。ページ下部にあります。よろしければ!
忌憚のない評価も大歓迎です。同じくページ下部の☆でどうぞ!