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8-3

「師匠が?意外だな。俺しょっちゅうさぼってたし、出来の悪い弟子だったと思うけどな」


 昔を思い出して、己の所業に苦笑いが出る。


「うん、お兄ちゃんは私と違う才能があったから惜しいって言ってたよ?」


「才能?誰かと間違えてないか師匠。あまり真面目にやってなかったし、アマネ先輩はよくぶっ飛ばされてたし……」


 改めて思いだしても才能の片鱗をうかがわせるような事をした覚えがないんだが。アマネ先輩というのは道場の先輩で、年齢不詳の小さい女性だ。年齢はカナタより二つか三つか上くらいだと思うが、聞いたことがないから正確にはわからない。聞きたくもないが……以前少しガラの悪い先輩がいた。アマネ先輩よりも上の先輩だったと思う。ある時、ガラの悪い先輩がアマネ先輩に絡んだことがあった。アマネ先輩は見た目はちっこくてかわいいらしい。中身を知っているカナタにはとてもそうは思えなかったが……。それで年齢を聞いたそうなんだけど、アマネ先輩は最初は普通に言いたくないから……と避けていたが、しつこく聞いてきて、色々失礼な事をしだした事にキレてボコボコにしてしまったと聞いた。それ以来、天音瑠依をよく表しているエピソードの一つとなった。曰く天音瑠依は年齢不詳だ。不詳を取ろうとしたら負傷する……と。アマネにはカナタもいろいろと無茶ぶりをされて大変な目にあっているので、苦手としていた。

 

 「ふふふっ。アマネさんってお兄ちゃんによくじゃれてたもんね」


 その頃を思い出したのか、ヒナタは懐かしそうに笑う。


「あれはじゃれてたって感じじゃ……」


「アマネさん、お兄ちゃんが道場にこなくなった頃、毎日のように聞いて来てたんだよ?カナタは来ないのかって。とてもさみしそうだった。」


 ヒナタはそう言うが、カナタからしてみれば、さみしそうにしている姿がまったく想像がつかない。


「あれだろ、遊べる奴が来なくなったんでつまんなかったんだろ」


「そうかなぁ……私はアマネさんは寂しかったんだと思うけどな。しばらく元気もなくて、師匠が心配するくらいだったんだよ」


「そっかあ?」


 やっぱりカナタにはどうしてもそんな姿のイメージがわかない。それくらい破天荒で、鬼のように強い先輩だったのだ。

 納得いかないような返事をして、カナタは固形食の最後の一片を口に放り込む。ヒナタはあまり食欲がないのか、半分食べて荷物の中にしまっている。


「ま、今度会う事があったら話してみるよ。いまでも時々道場に顔を出してるらしいから。」


 そう言って立ち上がった。ヒナタはもう少し休んでてもいいと言ったが、一緒に動くつもりなのかさっさと寝袋を片付けてしまった。


「きっと元気なんだろうな。また会いたいね!」


 そしてカナタの隣に立つと、笑顔を見せてそう言った。そんな妹の姿を見て、強いな、と思う。

 ヒナタの経験してきたことは一晩休んで、少し話したくらいで癒えるような傷ではないはずだ。きっと今でも心の中では色んな思いが渦巻いているんだろう。それでも状況は動いていて、いつまでも休んでいられないのは確かだ。

 誰に言われる事もなく、自分で立ち上がる事のできた妹の事をカナタは心底すごいと思った。

 ならば自分はそんなヒナタの後押しをしてやるべきだろう。カナタは心の中でそう決意した。

 そして朝日を浴びてまぶしそうに眼を細めている妹に微笑んで答えた。


「そうだな。状況がもう少し落ち着いたら、みんなで一度帰ってみるのもいいな。それまで頑張らないといけないな」


 そのカナタの言葉に、ヒナタはにっこりと笑うと、大きく頷いた。


「うん!楽しみだね」

 




 テントを出ると、公園の中央付近にみんないた。それぞれ出発に備えながら雑談をしている様子だ。スバルとダイゴは武器の手入れと荷物をまとめていたのか、周りに色んな物が散らばっている。何か冗談でも言い合っているようで、そこにゆずが加わって賑やかに話している。花音は話に加わっているわけではないが、ゆずの隣でいくらか楽しそうに見える。

 対照的に、一人なにか考え込みながらノートと睨みあいをしているのが喰代博士で、今回の遠征で分かった事や経験したことをまとめているのか、時折ノートに書きこんでいる。


 そこから少し離れて、龍さんたちがまとまっている。龍さんはさっき白蓮さんが言ったようにカナタとヒナタの刀を整備してくれているようで、道具を広げている。今は研ぎをやっているようで翠蓮さんは黙って龍さんの後ろに控え、白蓮さんは荷物をまとめている。


 カナタはヒナタの手を取ると、まず龍さんの所に向かった。


「おお、元気になったようじゃな、二人とも。実によかった。カナタ君、これを。」


 そう言って龍は、傍らに置いてあった桜花をカナタに渡す。


「ずいぶん馴染んできたようじゃの。桜花もよく応えているようじゃ。」


 龍はとても機嫌よさそうに言って、カナタに桜花を渡した。逆に受け取ったカナタは、手入れしただけでそんなことが分かるのかと驚いていた。そして変な使い方はできないなと、心を引き締める。


「ヒナタちゃんじゃったか、こっちのほうは……うーむ、どうもいかんの。いや、ひなたちゃんの問題ではないぞ?この刀は儂の弟子が打ったものでな、しかも初期の作品でな。刀の方が耐え切れなかったようなんじゃ。なんとかしようと思って手を入れてみたが……少しばかり無理のようなんじゃ。せめてきちんとした設備があれば或いは……といった具合でな。悪いがこの刀はもう使えん」


 少し申し訳なさそうに龍が言い、頭を下げようとしるのを、ヒナタが慌てて止めた。


「そんな!その刀は勝手に持ち出した物だし、謝らないといけないのはこっちなんです。すいませんでした!」


 そう言って頭を下げようとしたヒナタを今度は龍が止めた。


「いやいや、そういうものであったんじゃろう。本来打ち損じを残しておくことはなくてな?なぜこの刀が残っておったのか、もう弟子もおらんのでな、わからんのじゃ。なので、ここでしばらくのあいだヒナタちゃんに使われるために鋳溶かされることなく残っていたんじゃろ。この刀は一度溶かして、再度打ち直そうと思う。時間はかかるが、その時はまたもらってくれるかの?」


 練習で作られて刀とはいえ、使えなくなったと聞いてすこし落ち込んでいた様子だったが、打ち直すと聞いてパッと明るくなった。

 ヒナタは気に入った物にすごく肩入れするので、復活できると聞いて嬉しかったんだろう。元気に返事をした。


「はい、喜んで!でも、私……その、代金と言うか、返せる物が何もなくて……」


 元気になり、お金がないとまたしぼんだようになるヒナタを見て、愉快そうに龍は笑った。


「ほっほっほ!そうかそうか、代金か……そんなもの気にせんでもいいと言っても、きっと気にするんじゃろうな。んーそうじゃのう」


 龍は楽し気にそう言うと、腕を組んで考え出してしまう。翠蓮さんはそんな龍さんをにこにことほほ笑みながら眺めている。

 そして白蓮さんが会話に加わってきた。


「そう言えばカナタさん、梅雪はどうですかぁ?」


 そして急に会話の矛先が回ってきたカナタがやや慌てて答えた。


「え?あ、梅雪は……まだしっかり使ってないんですよね。桜花くらいの長さが丁度良すぎて、桜花よりだいぶ短い梅雪はあんまり使う機会がないんですよね。」


 そう言ったカナタの言葉に白蓮は深く頷く。


「それを踏まえてぇ、カナタさんとヒナタちゃん。それから先生にも提案があるんですけど~」


 白蓮がそう言うと、カナタはもちろん、ヒナタも龍も白蓮を見た。


「ヒナタちゃん、前に先生が渡した短刀、ありますよね~。いっそカナタさんの梅雪も貰っちゃえばよくないですかぁ?そしたら使い方は私が教える事ができますし~。先生が今の刀を仕上げるまでの間のつなぎとして。先生はどう思われますぅ?」


「儂がどうこう言う事ではないな。使うのはヒナタちゃんだし、梅雪を渡したのはカナタ君じゃ。一言だけ言わせてもらうなら、儂が急に梅雪を打ち直した時に感じた事は、桜花の片割れである梅雪は持ち主か持ち主と縁の深い者の元に行くと、そんな気がした事かの。」


 確かに龍から梅雪を預かる時に、龍はそんな事を言っていたと白蓮は思い出していた。たぶんそこまではカナタには伝えてなかったな。とも……


 

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