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8-1 進化

評価をいただきました!非常に励みになります。しかもいい評価だったので、これからもより良いものを作っていきたいと思っております!自分が思っていたよりも多くの方に見て頂いているので、アクションをいただいた方だけではなく、読んでくださった皆さんに感謝しております^^

ふと気づくと辺りは暗闇に包まれていて、仲間たちの姿も見えない。もはや手探りでしか歩くこともままならない状況でカナタは立ち上がって周りを見渡す。


「ここは……?俺眠っていたのか……みんなは、ヒナタは!?」


 ヒナタをなんとか取り戻したことを思い出して、声に出すが返事は返ってこない。周りを見ると、ここがまだ公園であるという事は分かった。ただ仲間たちの姿もヒナタの姿もない。


 もしかして自分を置いて引き上げたのか?と一瞬頭に浮かぶがありえないと自分で否定する。仮にどうしてもそうしなければならない事情ができたとしても何も言わずに放置していくはずがない。


 公園の外側は暗闇が広がるばかりで何も見えない。感染者の姿もないようなのでとりあえず声を出して仲間の名前を呼ぼうとしたが、うまく声が出せない。それどころか、体もいまいち自由が利かない。まるで海の中を歩いているようで思うように歩くことすらできない。


「ん?」


 それでもなんとか歩いていると、足で何かを蹴ってしまった感触があった。やけに重たいボールのようなそれは、ころころと転がり、上を向いて止まった。


「うっ!」


 思わず口を覆って、叫びそうなのをなんとか飲み込む。それは空を睨むようにしているスバルの首だった。


「な、なんで……うそだろスバル……」


 話しかけてみるも、すでに物言わぬものとなっている。戻しそうになり、少し離れ草むらにしゃがみ込むと、その先にころがるいくつもの首を見つけた。…………すべて仲間たちのものだった。物言わぬ骸となってしまっている仲間たちは恨めしそうに空を見つめている。


「な、な……」


 腰が抜けたように座り込んでしまったカナタの口からは言葉も出なくなっている。自分はどれくらい眠っていたのか、その間に一体何があって、なぜ自分は無事なのか……いろんなことが頭の中をぐるぐると回るばかりで、一向に答えは出てこない……


「嫌あぁぁっ!」


 そこに悲鳴が聞こえて、慌てて振り返るとヒナタが克也に手を取られて連れていかれそうになっているではないか。


「ヒナタ!待て」


 思わず叫んで追いかけるが、思うように動かない体のせいで全く差は縮まらないばかりか、先に倒したはずの男たちまで起き上がってカナタに向かって銃を構えている。


「お兄ちゃん!」


 腕を掴まれ、あの嫌らしい笑みを浮かべた克也に引っ張られ、ヒナタは必死にこっちに向かって手を伸ばす。

 カナタも目いっぱい手を伸ばしたが、届くことはなくだんだんとその距離が離れて行く。


 なんで、なんでだよ。ちゃんと助けたじゃないか!あいつらも倒したはずなのに……悔しさに歯噛みするカナタを見て、克也は口角を上げあざ笑うようにした時、その顔が血に塗れ瞳から光が消え失せていく。唇は裂けて限界を超えて口を開けるとそのままヒナタに噛みついた。


「うわああっ!」


 あまりの事にカナタは叫び声をあげた。


 カナタ君。


 助け出したと思ったのに、なんで……


 カナタ君!


 あいつも感染していたのか……それなら噛まれたヒナタも……

 みるみるうちに、ヒナタの様相が変わり感染者のそれになっていく……


 カナタ君!!


「ヒナタ!」


 叫んで上体を跳ね起こしたカナタを、ゆずが抱えるようにして押さえていた。一瞬自分がどこにいるのかも理解できなくなっていたが、そんなカナタの顔を、朝日が照らしている。


「ここは……夢かぁ」


 さっきまでの事が夢であったことを理解できた途端、がっくりと体中に入っていた力が抜ける。


「大丈夫?カナタ君ずいぶんとうなされていた。」


 心配そうな顔でカナタの顔を覗き込んでくるゆず。どうやらとても心配をかけてしまったようだ。


「ごめんな、ゆず。ずっと付き添っててくれたのか?」


 そう聞いたが、ゆずはあいまいに微笑んだだけで答えない。答えないという事は付き添っててくれたんだろう。感謝の思いをこめて、カナタは何気なくゆずの頭に手を伸ばした。


「!」


 そして、数回頭を撫でてから気づいた。これはヒナタが褒めてほしいときに頭を撫でると喜ぶので、つい流れでやってしまった。

 いきなり頭を撫でられ、ゆずは硬直している。まずい事をしてしまったか。と、思ったがとりあえず謝る。


「ご、ごめんな。つい。ヒナタがこうすると喜ぶから、つい癖でっていうか……ハハハ、まだ寝ぼけてんのかな。悪い、無神経だよな。」


 いまだ硬直状態にあるゆずに慌てて言い訳をすると、無造作に撫でて乱れた髪をそっと戻して手を戻そうとする。


「あ……ううん、悪くない大丈夫。きっと有神経。うん、悪くない……」


 動揺しているのか、ゆずも良く分からない事を呟き、手を引こうとするカナタの腕を掴んだ。そして、甘えた猫がそうするように、むしろ頭を押し付けてきた。


「悪くない……カナタ君、悪くない。むしろ、所望する」


「え?あ、ああ。うん……ゆずが良いんなら」


 そう言って、再びゆずの頭を撫でる。ゆずは目を閉じて、されるがままになっている。そして気持ちいい部分があるのか、時折頭を押し付けてくるのが、やはり猫を連想させ、目を閉じて堪能している様子から、もう少ししたら喉を鳴らしだすかもしれないな。とくだらない事を考えながらも、お礼の意味を込めてしばらくの間、ゆずの頭を撫で続ける事になるのだった。


「ああ、カナタさん目が覚めたんですね。皆さん向こうで朝食を……」


 そこへ喰代博士が様子を見に来たのか、ゆずの頭を撫でているカナタの姿を見て言葉が停まった。そっちをみると、目を丸くして立ち止まっている喰代博士と白蓮がいた。

 一、二秒そのまま止まっていたが、やがて生暖かい優しい目になると、ゆっくりいいですよ。と言い残し引き返そうとしている。


「いやいや、何ですかその()は。」


「特に深い意味は~……あ、そうでした。ヒナタさんも疲れていたのかとてもよく寝てましたけど、先ほど目を覚まされましたよ。ただ精神的にひどいダメージがあるみたいで……カナタさんゆずさんと一緒に行ってあげてください。しばらくしたら朝食も三人分持ってきますので、ちゃんと食べる様にしてくださいね?」


 白蓮はそう言うと、先に戻っている喰代博士の後を追った。ヒナタさんはテントの中でやすんでますよぉ

 という言葉を残して。


「……行くか」


 そう言って立ち上がり、ズボンの土を払いゆずにも手を伸ばす。


「……ん。」


 少しだけ未練がありそうで、言葉少なめのゆずを引っ張って立たせた。

 今度また機会があったらな。カナタがそう言うとやっと機嫌を良くしたのか、ゆずは微かに頷くと、テントを張ってあった公園の中央に向かって歩き出した。


 

 

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