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休日投稿パート2!
調子よく書けたので、おまけ追加です!
克也は内心焦っていた。こんなはずではないのだ。
足元に転がっている、名前もろくに覚えていない二人の男たちはどうでもいい。先にあっさりとやられてしまった事に文句を言いたいくらいだ。
しかしヒナタはこれまでろくに苦戦することもなかった。ゆえにヒナタがいる事で安心してしまっていた。
時間がかかっているだけで、簡単に負けるとは思っていないが相手は二人。
ヒナタと面識がありそうな、互角に切り結んでいる男と、今は手を出しあぐねているが、鍛冶師のところにいた女。翠蓮とか言ったか。こいつもかなりの使い手だった。
克也の予定では、龍とかいう鍛冶師を人質に翠蓮も支配下に置くつもりだったのだ。
翠蓮はどうにかヒナタの動きを止めようとしているみたいだが、そうはいかない。翠蓮が何かしようとするたびに、持っているナイフでヒナタを刺すフリをする。焦っている事がばれるとまずいから、渾身のキメ顔で。
克也と同じく、翠蓮も内心焦っていた。カナタがおもったより長い時間互角にやりあえているのはいい誤算なのだが、それもちょっとした事で均衡が崩れるとあっという間に終わるだろう。
なんとかしたいのだが、動こうとするとヒナタの後ろから出てこれない卑怯者が、ヒナタを刺すと脅すジェスチャーをして、さらに神経を逆なでしてくるような醜悪な顔で挑発する。これが腹立たしいのだ。
そんななか、何も考えず刀を振るっているヒナタは懐かしい感覚に包まれていた。昔を思い出していたのはカナタだけではなかったようで、心を閉ざしているはずのヒナタにも懐かしい……という感覚が生まれていた。
それは常に心の奥底にあった物でもあるし、さっきから心配になった克也が兄を連想させる事をヒナタに連呼したせいもある。
中学に入ったばかりの頃だったか……正式に道場に入門したヒナタはメキメキと腕前をあげていた。小さい頃から通っていて一からおぼえるのとは違うが、それを引いても素晴らしいものだったようですぐに昇段試験の誘いを受けたのだ。
「ヒナタならできるんじゃないの?やってみればいいじゃん」
何気なく言われた兄の一言で受ける事を決めたヒナタは、カナタを練習の相手にしょっちゅう引っ張り出した。嫌そうな顔で、めんどくさそうにしていたカナタだったが、特別な用事がない限り付き合ってくれて相手をしてくれた。
それがなんだか嬉しかったヒナタは普段あまりない事だが、かなり熱を入れて励んでしまう。付き合うカナタの方が動けなくなるくらいに。
その風景を見ていた師匠はカナタも一緒に受けさせると言い出し、カナタもまんざらでもなさそうだった。
そして臨んだ昇段試験。カナタは生憎落ちてしまったが、たぶん私が練習につき合わせたせいで自分の練習ができなかった事が原因だと思う。
そして。とうのヒナタは見事に合格した。これまで先輩の天音さんが持っていた最年少記録を半年以上も塗り替えての快挙だった。
師匠からも先輩からも祝福の言葉をたくさんもらったけど、まず謝りたいのと、おかげで受かったと報告をしたかった。
みんなが褒めて祝ってくれる外側に、俯いたカナタを見つけると、ヒナタはまず更衣室に行き、昇段試験をクリアした者だけが着れる道着に着替える。カナタに見てほしかったから。
喜び勇んでカナタのもとへ走っていく。
「お兄ちゃん!見て」
…………この後、カナタは思っていなかった言葉を言ってしまい、ヒナタを傷つけてしまったと思い壁を作ってしまう。ヒナタも自分の無遠慮な行いにカナタを振り回していたかもしれないと、距離を置くようになってしまう。
「そうだった。謝らないと……」
ヒナタの意識が少し浮上する。なぜかわからないがカナタが目の前にいる。
「お、にいちゃん……」
小さく、しかしはっきりとヒナタの口からその言葉が聞こえ、カナタは目を見開く。
「ヒナタ!わかるのか?」
大きめに後ろに下がり、間合いをとってカナタは声をかけた。虚ろな顔のままだが、目はカナタを見ている事に気づいた。
それに気づき、何か声を掛けないとと思ったカナタの口からでたのは、ずっと謝りたいと思っていた事だった。
「ヒナタ!その道着、よく似合ってるよ。合格した時、気を悪くさせるような事を言ってしまってごめんな。心の狭いいやな兄貴だったよな。でも、本当は言いたかったんだおめでとうって、がんばったなって。最年少記録だもんな。あれからアマネ先輩が絡んできて大変だったんだぜ。いや、そんな事はどうでもいいんだ。とにかく……ずっと後悔していたんだ。ヒナタにおめでとうを言えなかったのが。」
ヒナタの心が戻ってきている。そう確信したカナタは、刀も手放して何も持っていない両手を広げ、思いの丈を述べる。これまで言えずに、心の中にとげみたいに刺さって抜けなかったものを吐き出す勢いで。
しかし、その時ヒナタはすでに無意識に追撃をしていた。いくら意識が戻りかけていても、戦闘時の緊張状態にある体は、相手の隙を逃さなかった。あまり力は入っていないけん制の一振りだが、まともに受ければ大けがで済めばいいほうだ。それにカナタはすでに武器を手放している。
カナタはそれには目もくれず、ヒナタに語り掛けていた。
白刃がカナタめがけて振り降ろされると同時に、カナタの隣に影が飛び込んだ。
「無粋ですねぇ。よっと」
いつの間にか近寄っていた白蓮が、ヒナタの攻撃をそらした。翠蓮の身代わりとして捕らわれていたのだが、誰かが解放したのだろう。
「スバルさん達が縄を斬ってくれましたぁ。彼らは付近の安全確保とゆずさん達の護衛に回りました。その男……卑怯な事をするのに躊躇ないみたいなんで」
「ありがとうございます。白蓮さん。」
カナタは、少しだけ白蓮の方を見て礼を言うと、ヒナタの方に向かいゆっくりと歩き出した。
それを見ているヒナタはもう両手をだらりと下げていて、戦う意思はないように見える。
「くそっ、動くな!」
形勢不利と見たか、克也が拳銃を構えて全員をけん制する。もうその表情に余裕は見られない、きっかけがあれば見境なしに発砲するかもしれない。
「やめろ!これ以上抵抗するな。お前の事は許せないが抵抗しないなら殺したりはしない。」
歩みを止めたカナタが片手をあげて克也を制止しようとするが、すでに克也はそんな事を聞き入れるほどの余裕もないようだ。
「うるせえ!何を上から物言ってんだ、お前なんかに従うかよっ!ヒナタちゃん、ここはいったん引こう。そんな奴らのいう事なんか聞かずに、俺と一緒に行くんだ!」
目を血走らせながら、つばを飛ばして克也は叫ぶように言うが、ヒナタはちらっと克也を見ただけで、カナタに近寄ろうとした。
「おい!俺のおふくろの事忘れたのか!言ってもいいんだな?」
半ば激高しながら克也は叫んだ。その言葉を聞いた瞬間ヒナタの両肩が跳ね上がり、見てわかるくらいに震えだす。
「ヒナタ!?おい、お前!ヒナタに何を」
「うるせえって言ってんだろうが!」
パン!
ヒナタの様子の変わり様に、驚いたカナタは克也を問いただそうとするも、返ってきたのはその言葉と一発の銃声だった。
「カナタさん!」
近くにいた白蓮が走り寄ろうとしたが、カナタは片手をあげてそれを止める。激高して感情任せに撃った弾などそう当たらない。克也の撃った弾はカナタよりだいぶ手前の地面を穿っただけだ。力の入りすぎである。
それでも銃声を聞いたヒナタは、その場に座り込んでしまう。克也はカナタに、白蓮に交互に銃を向けてけん制している。いつまた撃ってもおかしくない様子だ。
翠蓮は白蓮がついた時に龍のもとに行き、そばで守っているため離れてしまっている。
「さあ!行こうヒナタちゃん。立つんだ、俺と行くんだよ!」
口の端からよだれを飛ばし、ヒナタに向かって叫ぶ。その様子は常軌を逸してきている。このまま感情任せに振舞えばヒナタにも銃を向けるかもしれない。そう考えるとカナタも迂闊には動けなかった。
緊迫した空気が辺りを支配していく。
「ほら!立てよ!俺の言う事が聞けないのかよ、この人殺しが!」
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