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7-2


「俺とヒナタってハルカの所の道場に通っていただろ?俺はしょっちゅうさぼってたけどさ。ヒナタは真面目に熱心に通ってた……あれ、もともとは小学生くらいの時か。俺が刀を使う……剣士っていうか、そんな感じのやつに憧れて、行くようになったんだ。当時からヒナタは俺の後ろをずっとついて来るようなおとなしい子で、多分刀を振り回すなんてやりたくもなかったと思うんだけど、俺がやり始めたもんだからいっしょになって始めたんだよ。それでハルカとは仲良くなったけど」


 遠い目をしながらカナタは語っている。スバルやダイゴも知らなかった頃の話だ、二人も聞き入っている。


 「始めたはいいけど、俺飽きっぽいからすぐ真面目にやらなくなって……ハルカの爺ちゃんが師匠なんだけど、たぶん孫の友達って事で最初はお金も取らずに教えてくれてたんだけど、俺そんなの考えもしなくて……俺はそんなだったけど、ヒナタは真面目でおとなしかったから、きっとやりたくもなかったんだろうけど言い出せなかったんだろうな。真面目に通ってた。俺についてったばっかりにな」


 自嘲するようにカナタは笑う。ダイゴは何か言いかけたが、カナタが話を続ける。


「ある時に、段位検定?みたいなのがあってさ。ハルカは先に合格してたんだよな。なんとなく悔しくて、俺も受けたんだよ。もちろんヒナタも。結果は見事不合格。説教されただけ。真面目にやってなかったんだから当たり前なんだけど、ヒナタは受かったんだよ、それも最年少で。んで、合格したらもらえるんだよ白い道着。すこし変わったやつで古式流派独特の。白蓮さんが見た子が着てた特徴的な武道着がこれだと思った。」


 カナタが確信めいたものをもっているのがその特徴的な服装だった。カナタが改めて特徴を言うが、白蓮が思い出す限りは一致している。


「さすがに嬉しかったのか、ヒナタが珍しく少し興奮して俺んとこに持って来て見せてくれた。なんでだろうな、おめでとうって。その時だって思ったはずなんだけど……そう言うはずなんだけど」


 ここにきてカナタが少し言いよどむ。表情にも苦い物が混じっている。


「祝福してあげたんだろ?なんだよ、喧嘩でもしたのか?」


 言葉に詰まるカナタに心配そうな顔を向けて、スバルは言った。周りから見てもヒナタはいい子だし、カナタの事も慕っているように見えた。スバルは兄弟が多く、喧嘩も絶えない。ちょっとしたことですぐにいがみ合う兄弟関係なので、スバルから見たカナタ達兄妹は仲が良く、お互いに大事に思っているように見えていたので、喧嘩をしても大したことないだろう。そう思ってわざと喧嘩したのかと言ってみた。


 しかし、それに対してカナタは力なく首を振った。


「いや……ケンカにも、ならなかった。ヒナタはうれしそうにわざわざ着替えてきて、俺に見せに来たんだけどその時につい、心無い事を言ったんだよ。いつも俺の後からついてきておいしいとこだけもっていって。検定に落ちた俺に見せびらかして、満足か?って。そんな事考えていなかったと思うんだけど……どこかでひがんでたのかもな。」


 そう言うと、カナタは俯いてしまう。それを見てダイゴが思わず口を挟んだ。


「でも、ほら落ちちゃった人にわざわざ見せびらかすような形になっちゃったわけでしょ?ちょっとくらい嫌な気分になったって……」


 カナタをフォローするように、言ったダイゴの言葉をカナタは静かに止めた。


「いや、そんなんじゃないんだよ。ヒナタはきっとそんなつもりじゃないんだ。あの道場ってさ、師範代って言うか先輩にめちゃくちゃ強い人たちがいてさ、基準が高いんだよ。だからヒナタも合格してすごく嬉しかったんだと思う。すぐ道着に袖を通すくらいに。きっと褒めてほしかったんだと思う。俺素直に言えばよかったのに、気づいたら違う事が口から出て止まらなくて……それから二度とその道着を着ることは無かった。あのヒナタがしばらく道場にもいかなくなるくらいだから、やっぱりショックだったんだろうな。せめてすぐに謝って、素直に言えばよかったんだろうけど、何となく言いそびれちゃって……そこから俺は全く道場に行かなくなった。」

 

「なんか変にムキになって謝り損ねるってあるよな。俺も兄弟多いからさ、まぁ素直に謝りゃしない……俺も含めてだけどな。んで時間が経つと余計に言い出せなくなるんだよな。それはわかるよ」


 カナタの話を聞いて、兄弟が多く心当たりが山ほどあるスバルは思わず苦笑いになって言った。


「いつか謝ろう、機会はあるさって思ってたらこんな事態になっちまうし。行方が分からなくなってから、橘さんとかにもお願いして探してたけど全然見つからなくてさ」


 同じような苦笑いになったカナタがスバルに言うと、もう一度煙の立っている鍛冶小屋の方向を見る。


「だから、俺は行かないといけない。もしヒナタがいる可能性が少しでもあるなら。ちゃんと確認しないと、今の世の中「いつか」はあてにならない。今を逃したらもうないかもしれないから」


 そう言うとカナタはみんなに向きなおる。そして頭を下げた。


「ごめんみんな。これは完全に俺の私用だから、一人で行く。俺も一応隊長って立場だからやってはいけない事なんだろうけど。それでも行かないといけない。みんなは戻って、俺が勝手にどこかに行ったって報告してくれていいから。」


 そう言うとカナタは隊長を示す部隊章を外すと、すぐ隣にきていたゆずに渡した。鉄製の部隊章は№4の象徴として鳳凰をかたどってあり、そこに防衛隊の十一番隊、そして隊長であることが記されてあった。


「カナタはわたしを守りたいはず。だから私は一緒」


そう言うと、ゆずは自分の向かいに立っていたスバルに投げてよこした。


「俺は、隊長ってガラじゃないし、めんどくせー」  


「ぼくもそうだよ」


 部隊章をチラリと見たスバルは実に嫌そうな顔をして、横のダイゴに渡そうとしたが先に言われてしまい、仕方なく少し離れて様子を見ていた喰代博士に渡した。


「ふふっ困りましたねえ。といいますか、みなさんマザーの方に行くんですよね?私がそれについて行かないとでも思ってるんですか?」


 そう言うと喰代博士も同行の意を示し、部隊章は白蓮に渡すわけにもいかず「じゃあ花音ちゃんにつけてあげましょ」


 そう言って花音の上着にピンでとめてしまう。すると、それと周りのみんなをきょろきょろと何度か見て、トコトコと歩き出した。

 その先はカナタの所で、カナタの上着の裾をちょいちょいとひっぱる。


 さすがに無視もできない。苦笑いしたカナタは花音から部隊章を受け取った。渡した花音はゆずの隣に立って、その裾をしっかりと握っている。これは花音が示す絶対について行くの表現だ。


「きれいに周りましたねぇ。わたしもまざりたいです」


 ニコニコしながら見ていた白蓮はそう言うと、花音と同じようにゆずの隣に立った。

 結局は全員で行く事になりそうだ。


「ただでさえ、十一番隊は独断専行の多い隊だって嫌味いわれてるんだけどなぁ」


 カナタが自嘲しながら呟くと、スバルとダイゴが声を揃えて言った。


「「隊長がカナタだからな!」」


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