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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
半年後

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6-5

 以前と同じルートを進んで美浜集落の近くまでのぼってきた。慣れたのか、今回は軽トラックだからなのか非常にスムーズな運転をスバルはして見せた。

 

 運転は軽快だったが、乗っているカナタ達の表情は思案気だった。

 少女はいまだに一言も言葉を発さないし、その目にはまだ力は戻っていない。

 その目に浮かんでいるのは諦念だ。

 今もカナタ達が連れて行こうとしているのに抵抗をしないというだけの状態だ。


 そのせいか、感染者が近くに来ても怯える事もない。自分に向けて捕まえようと手を伸ばす感染者を、カナタ達を見るのと変わらない目でじっと見るだけだった。

 

 結局何の解決策も見出せないまま、美浜集落へと到着してしまった。

前回と同じところに車を停め、全員が降りて門に近づいていくと見覚えのある老人が、一歩前に出て歓迎してくれた。


「久しぶりじゃな。話は聞いている、活躍しているそうじゃないか」


 その老人、権さんは先頭を歩くカナタと握手すると、その肩をバンバンと叩く。


「おひさしぶりです。いてて、お変わりなくてなによりです」


 叩かれながらそう言い返すカナタに笑って答えている。


「目的はまだ先じゃろうが、茶一杯飲んでいく時間くらいはあるじゃろ?」


 そういいつつ、進路を公民館に向けている権さんに苦笑しながら返事を返す。


「ありがとうございます。休憩させてもらうのと、お願いがありまして……」


 早速だが、カナタは権さんにこれまでの事をかいつまんで話し、№.4への無線で状況の連絡と保護した子供の事を聞いてみる。


「ふむ……そちらもなかなか問題山積のようじゃの。無線はこの公民館に置いている、後でつなぐから交信するといい。子供に関しては……儂らとしてはかまわんが、子供のほうに問題があるんじゃないかね?」


 そう言う権さんの言葉と視線につられて、全員が後ろを見る。子供と手を繋いだゆずが後ろにいるが、ゆずのそばをけして離れようとしない。今も視線が集まり、ビクッとしてゆずの後ろに隠れている。


「ここに残っとるのはもう年寄りばっかりだし、近くにいつ爆発するかわからん爆弾みたいなもんもある。都市まで連れて帰った方がいいと思うが」


 少し申し訳なさそうに権さんが言うので、慌てて気にしないで下さいと付け加える。


 今の様子ではゆずから引き離すのは難しそうだ。しかしこれから感染者が最も多くひしめいている所に向かう。正面切って戦うつもりはないが、結果的にそうなってしまうかもしれないのだ。

 ゆずもここで留守番すると言うなら、子供も一緒に残るだろう、それはゆずは納得しないだろうが……


「ほれ、つながったぞ。」


 カナタが考え事をしている間に、無線を№.4につないでくれた。携帯電話どころか固定電話も使えない今、離れた場所への連絡方法はほぼない。そこで№.4では独自に安全が確保できたエリアに無線を置き定期的な通信を行い状況の確認をしている。

 

 現在№.4の通信網で一番西にあるのがここ美浜集落にある無線なのだ。


「また、ふざけた話だねえ……わかった、№.4の人間じゃないとは思うが、一応こっちでも調べとくよ。他の都市には……状況を見て伝える。アンタらの存在は向こうには知られていないんだね?念のため、これ以降はその件に関して何か聞かれることがあったとしても知らぬ存ぜずを貫きな。こっちに回してくれていいから。」


 今日の出来事を松柴さんに伝えると、大層憤っていたが俺たちはこれ以上関与しないように。となった。


「あとは……んー、何ていうか。アンタらが優しくて、見過ごせないのは分かるが、時にはあまり深入りしないようにすることも覚えな。頼むから自分の事を最優先で考えてほしい。助けるなと言っとるわけじゃないんじゃ、……あんたらの手で救える数には限りがある。それを超えて手を出せば必ず無理が生じる。何でもかんでも助けようなんて考えるんじゃないよ?」


「えーと……心配してもらってありがとうございます?」


「よくわかっていない声と答えだね」


 カナタには松柴が自分たちの事を心配してくれているのは分かるのだが、その内容が当てはまっている実感がないのだ。無理な物は無理だって事は分かっているし、松柴が言うほど、自分たちはそれほど正義の味方みたいなことはしていないんだが……としか思っていない。


「まぁ、いいさね。今はアタシが言った事だけ覚えててくれればいい。とにかく自分の命優先だよ!これは絶対事項だ。これだけは、しっかりそのぼんやり頭に叩き込んどくんだよ。いいね?」


 そう言うと、松柴は無理しない程度に任務も頑張りな。と言って通信は終了した。理解できたようなできないような曖昧な感じだが、自分たちの命優先という事は、そのつもりでやっている。いまはそれでいいかと思う事にした。


「ふふ……お前さんら、吉良にだいぶ気に入られとるようじゃな。」


 そう言って笑う権さんに頬をかきながら苦笑で返すカナタだった。


◆◆ ◆◆

 

 休憩を終え出発しようという時に、案の定もめた。保護した少女はゆずから離れたがらなかったし、ゆずもまた、少女を集落に残す事に反発した。


 しかもこうなる事を予想していたのか、ゆずは自分の考えを言った。


「私は銃を使う。スコープをのぞいている間は無防備。その間、この子が周りの安全を見る。それが役割」


 自慢げにそう言ったが、それだけでは納得させるには至らない。


「でもその子うまく喋れもしないじゃん。大丈夫なのか?」


 カナタも同じことを考えたが、先にスバルがそう言った。スバルも危険と分かっている所に連れていくのは反対らしい。


「ん。だいじょぶ」


 見ていろと言わんばかりにゆずは自分の前にその子を立たせる。少女はおどおどと周りを見て、体を小さくしていたが、それでも小さな声で言った。


「……かのん、です」


小さいながらも確かにそう聞こえた。ゆずは美浜集落に着くまで、ずっと根気よく話しかけていた。きっとこのままじゃ置いて行かれる。そう言っていたんだろう。


倉田 花音(くらた かのん)と、言います。あの……頑張り、ます。ゆずお姉ちゃんと一緒が……いいです」


 最後は消え入りそうになりながらも少女は確かに名乗った。

 彼女の身に降りかかったことは、けして簡単に癒えるような事ではない。それでもこうして精一杯の気持ちを見せられたら、無理に引き剥がすのは躊躇われた。

 

「十歳。よろしく」


 ゆずはそう言って花音の頭を撫でている。ほんの少し前までは撫でられるのがゆずの方だったのに……もちろんこんな世界だ、強くないと生きていくこともできない。それでも彼女たちの強さを感じる事ができて、カナタは少し嬉しくなってきた。


 でも、言うべき事はしっかりと伝えておかないといけない。

 自分は隊長という立場にあるのだ。そう考えて、カナタは精一杯真剣な顔と口調で言い聞かせるように話した。


「知ってる人が誰もいない所に置いていかれるのが怖いのはわかる。でもこれから俺たちが向かう所は、かなり危険な場所なんだ。もしかしたら、君があの男達に捕まった時よりも怖くて痛い思いをするかもしれない。それでもいいのか?」


 カナタが言うと、花音は迷う事なく頷いた。


「あの……わたし、もう誰もいないんです。それで、もうどうでもいいって思っていたけど……助けてくれて。嬉しかったけど、ゆずお姉ちゃんと一緒じゃないなら……」


 つっかえながらも、なんとかそこまで言うと花音は俯いてしまう。


「カナタくん。この子はもう一人になるくらいなら生きていなくていいって言った。この子はあの時の私。私はこの子を一人にしたくない。わがままを言ってるのは分かってる。私がちゃんと面倒を見るから……ちゃんと守るから」


 ゆずが花音の頭を撫でながら言う。ゆずは花音に父親が死んでしまった時の自分を重ねているんだろう。

 花音もしっかりとゆずの隊服の裾を掴んでいる。


「はあ……」


 カナタが大きくため息をつく。この子を無理にここに残して行ったとしても、ゆずにも花音にもよくない事になりそうだと感じた。

 

「わかった。そこまで言うなら連れて行こう。ゆず、しっかり守ってあげるんだぞ?お前の任務だ。そしてそのゆずを守るのは俺たちの任務だ。何かあったら遠慮なく言うんだぞ、な?」


 そう言い、カナタはゆずの頭を撫でる。


 「ありがとう、カナタくん」


 そう言って微笑むゆずの顔を見ながら、このゆずが撫でている花音が、今度は別の誰かを撫でてあげる。

 そうなっていけるように頑張るのは悪くないかな、と。

読んでいただいてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!

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