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6-3

カナタ達が様子を見て、動かないでいるのを動けないでいると勘違いしたのか、前から来た一人がフルフェイスのバイザーを上げて、話しかけてきた。


「よーし、全員そこを動くな。黙って持ち物を全部出せば殺しはしない、多分な。」


 そう言って下品に笑う。こちらが黙って何も反応を返さないでいると、与しやすいと踏んだのか残りの者もバイザーを上げて勝手な事を話しだす。


「なにもいい物持ってなかったら結局殺すけどな!ハハハッ」


油断し始めたのか、建物の二階に隠れていた男も窓枠に腰掛けている。


「おい、荷台に伏せて隠れているのがいるぞ。多分女だ、ラッキーだぜおい!」


「ヒョオウ!今度は簡単に殺すんじゃねえぞ。俺の順番だからな!」


 ああ、下種なタイプか……しかも口ぶりから何度もやっているようだ。それならもう遠慮はいらないか。不自然な動きにならないよう気を付けながら、カナタは全員に合図を送った。

 この手の輩は遠慮なく返り討ちにしても心は痛まないのだが、中には女性や子供を抱え、それらが食うに困り、やむなく略奪に走る者もいる。だからやっていいというわけではないが、話し合いに応じてくれるのであれば、都市へ誘導したり、少量なら融通しないでもない。


 カナタの合図を受け、各々が臨戦態勢に入ったのを見て一応男たちに声をかける。


「こちらは、分けてやれるほど物資を持っているわけじゃない。このまま黙って通してくれた方がお互いにとって幸せだと思うが?」


 それを聞いた略奪者たちは、大声で笑い始める。


「誰が黙って通すかよ。なんか勘違いしてんじゃねえのか?わけてくれっつってんじゃねえんだよ。みぐるみおいてけっつってんだよ!」


「ああ、なんか今の言い方イラついたわ。死刑なお前」


 そう言って、男はバットに鉄条網を巻き付けた物をこっちに見せつけるようにして、近寄ってくる。周りの男はそれをニヤニヤ笑いながら見ている。

 それよりも、男が死刑とカナタに言った瞬間、ゆずがいる方から舌打ちが聞こえていた。そっちの方がカナタは怖い。


「わかった。」


 カナタがそう言った瞬間、運転席と助手席のドアが勢いよく蹴り開けられ、スバルとダイゴが飛び出した。カナタも荷台を飛び降り、寄って来ていたバットの男に向かって走り寄る。それを見た男は、慣れているのだろう余裕をもってバットで迎え撃とうと構えている。が、「ぴう!」と高い音の風切音がしたと思ったら、バットは地面に落ちていた。持っていた男の指数本と一緒に。


「ぎゃあ、痛てえ!てめえ……なにしや、が」


 そこまで言った男が、自分の手を抑えながらカナタをと落ちた指を見て固まった。カナタの手には刀が、それも支給刀ではなく劉さんから預かった桜花を持っている。


 支給される刀とは数段違う切れ味をみせる桜花は、狙い通り骨ごと指だけを斬った。指の骨の抵抗も感じさせなかったほどだ。

 固まっている男は、戦意はなくなっているように見えるが、一応両腕の付け根の部分を突いておく。ここをやられると、しばらく腕が上がらない。

 突きを受けて痛がりながら後ずさっている男に、回し蹴りを放ち地面に転がす。そのまま、その隣で逃げ腰になっている男を逆袈裟に皮一枚と少々の深さで斬った。

 短いがその分軽く取り回しの良い桜花は、カナタとの相性が抜群だったようで、すっかり気に入っていた。


 致命傷には程遠いが、そこそこに出血はするし自分が傷つくことには慣れてないのか、男は大げさに痛がり地面を転がっている。

 カナタが他の状況を見るため振り返った瞬間、ゆずであろう。一発の銃声が響き建物の二階の窓に腰掛けていた男の右肩を撃ち抜いた。その男も慣れていないらしく、バランスを崩して落下。そのまま気をうしなってしまう。


 スバル達も何ら苦戦することもなく、男たちを制圧していた。一応周りの様子を一通り確認する。

男達の仲間や、さっきの銃声に感染者が寄ってくるかもしれない。


 「何て事ない奴らだったな。どうする?こいつら」


 気絶していたり、痛みで地面を転がっていたりする男どもを道路の端に寄せ、一列に並べる。それをスバルが手際よく後ろ手にして指を結束バンドで締めて拘束していく。

幸いに増援も感染者の姿も見当たらない。


「カナタくんを死刑にするって言ってた。ほんとにこの人達はやると思う。だからこっちも死刑でいい」


 ゆずは冷たい目で男たちを見ながらそんな事を言っている。それを見て、ほとんど泣きそうな顔になっている男たちに、さっきまでの威勢は全くない。


「あんたら何者なんだ、銃まで持ってるし……自衛隊とか、軍とかなのか?」


「そうなら保護してくれよ、俺ら一般市民だぜ!ていうか、血が止まらねえんだよ、死んじまう!」


 武装を見て何か勘違いしたようで、保護を訴え、勝手な事を言い出しているし、カナタが斬った男たちは出血をみて青くなって騒いでいる。

 

「残念だな、俺たちは都市の部隊だ。お前たちなんかを助ける義務はこれっぽっちもないね!」


 スバルが突き放すように言ったのだが、なぜか男たちはそれを聞いて顔を見合わせ、安堵した様子だ。


「なんだ、あんたら都市の奴らだったのかよ。目印がなかったから分からなかったんだよ。見た事ないやつらばっかだったし……」


「なに?」


「あ!ほら頼まれていた奴、手に入れてるぜ!車に乗せてる。一つ向こうの通りにある黒いワゴンだ。もういいだろ、これほどいてくれよ!」


 男たちはカナタ達が都市から来たと分かった途端。安心した様子さえ見せて、さらによくわからない事を言い始める。

 

 「そうか。俺たちは別部隊なんだ。頼まれていたのってのは、どれの事なんだ?」


 カナタはわざと話を合わせて、男たちに問いかける。


「そ、そっか。あれだよ、子供だ。実験に使うとかで健康な子供を見つけておくように言われてたんだよ。く、苦労したんだぜ?もうなかなか生き残ってないからな」


 襲い掛かってきた火の粉を振り払っただけの簡単な状況から、なんだか雲行きが怪しくなってきた。男たちが言う事がどこまで正しいのかわからないが、都市の部隊が実験用の子供を欲している。という話は放ってはおけないだろう。


 「……スバル、ダイゴ、ここを頼む。変なそぶりを見せたら撃っていい。俺ちょっと確認してくるわ」


 男たちに聞こえないよう、そう言うと頷く二人に任せ男たちの車とやらに行く事にする。カナタが歩き出すとゆずもついて来る。


「ゆず、俺が確認するから、周りの警戒を頼む。その……俺がいいと言うまで車の中は見るなよ?」


 ついて来る事は想像していたので、周辺警戒を頼む。ただ、車の中の様子がどうなっているのかわからないために一応見ないように言っておく。あんな奴らが丁重に扱うわけがない、あるいは凄惨な光景がそこにあるかもしれないのだ。ゆずにはできればそんな光景は見てほしくない。


 男たちが隠れていた建物の横、細い道を歩くと一本向こうの通りに、確かに黒いワゴンが停まっている。


「付近はクリア。カナタくん気を付けて」


 車を正面にして、壁を背にしたゆずが周りを探って言うと、銃を車に向けて構えている。もし誰かが隠れていたりした場合、そいつは全身に弾丸を浴びる事になるだろう。


 足音を忍ばせ、車に近寄る。後部座席の窓には全面真っ黒なフイルムが貼ってあり、中の様子は全く分からないが何かが動いている気配はない。


 後部座席のスライドドアに手をかけ、一気に引き開ける。




 そこには、猿轡をはめられ手足をテープでぐるぐるに巻かれ、身動きのとれないでいる幼い子供の姿があった。

 意識はあるようで、その目はこちらを見ているが、すでに諦観に染まっているのか特に反応はない。


「くっ!…………クズどもが」


 思わずつぶやいたのは、その子供の後ろ座席に、同じような年恰好の子供が無造作に放ってあったからだ。こちらはもう拘束もしていない。生きている様子も見られない…………


 カナタは、拘束されている子供を慎重に優しく抱きかかえると、外に連れ出した。すでにゆずがリュックから毛布を取り出して持っていたので、礼を言い痛くないようなところに敷いてもらう。

 子供はカナタが触るときに少しだけピクリと反応したが、あとは抵抗も何もみせない。見ると、たくさんのケガの跡やアザもある事から、どんな目にあってきたかが窺い知れる……


「ごめんな。ちょっと痛いかもしれないけど我慢してくれよ」


 子供にそう語りかけるが、反応はないのでゆっくりとテープを切って剥がしていく。やがて手足が自由になってもその子は動こうともしなかった。ゆずがカナタに目で確認して猿轡も外す。


「ひどい目に……あったな。大丈夫かって、大丈夫なわけないな。なんて言っていいかもわかんないけど……」


 全く動こうともしないし、大きな反応もない子供に、カナタはもうどう声をかけていいかもわからなかった。

 そんな時、ゆずがその子供の前に座り、そっと頭を撫でて語りかけた。


「辛かった。怖かった。わかる、私も同じだったから。だからゆっくりでいい。安心してほしい、もうひどい目にはあわない。私とカナタくん……そこのお兄ちゃん。が、守る。約束する。もう大丈夫」


 ゆずが頭を撫でながら、ゆっくりと語りかけるように話しているうちに、しだいに反応を見せるようになる。まずびくっと痙攣するとそのままガタガタと震えだし、見開いたままどこも見ていなかった両目に光が戻り、大粒の涙を流し始めた。


 ゆずはそれを見て、見たことがないほど優しい表情になると、そっとその子の頭を抱え込んだ。

 激しく嗚咽するその子の頭をひたすら撫でているゆずは、小さいのに悲しさを包み込む慈愛の女神みたいだった。


 

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