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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
半年後

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37/353

6-3

カナタ達が様子を見て動かないでいるのを、動けないでいると勘違いしたのか、前から来た一人がフルフェイスのバイザーを上げて、話しかけてきた。


「よーし、全員そこを動くな。黙って持ち物を全部出せば殺しはしない、多分な。」


「お前そんなこと言って、この前の奴ら全員殺したじゃねーか!」


 そんな事を言い合って下品に笑っている。こちらが黙って何も反応を返さないでいると、御しやすいと踏んだのか残りの者もバイザーを上げて、無造作に近づいて来て勝手な事を話し出した。


「なにもいい物持ってなかったら結局殺すけどな!ハハハッ」


油断し始めたのか、建物の二階に隠れていた男も窓枠に腰掛けている。そして伏せている喰代博士に気付いた。


「おい、荷台に伏せて隠れているのがいるぞ。多分女だ、ラッキーだぜおい!」


「ヒョオウ!今度は簡単に殺すんじゃねえぞ。俺の順番だからな!」


 ああ、下種なタイプか……しかも口ぶりから何度もやっているようだ。それなら遠慮はいらないか。

 カナタの心の中の嫌悪感や罪悪感といったものがフッと軽くなった気がする。カナタは不自然な動きにならないよう気を付けながら、全員に合図を送った。

 

 こういった略奪を図る連中の中には、女性や子供を抱え、それらが食うに困りやむなく略奪に走る者もいる。だからやっていいというわけではないが、話し合いに応じてくれるのであれば、都市へ誘導したり、少量なら融通しないでもない。

 しかし今回に限りそう言った心配は必要なさそうだった。


 カナタの合図を受け、各々が臨戦態勢に入ったのを見て一応男たちに声をかける。


「こちらは、分けてやれるほど物資を持っているわけじゃない。このまま黙って通してくれた方がお互いにとって幸せだと思うが?」


 それを聞いた略奪者たちは、顔を見合わせて笑い出す。


「おい、勘違いしてるんじゃねえよ。俺たちは物資を分けてくださいって言ってるわけじゃねえ、よこせって言ってるんだ」


「まあいい、面倒だ。すぐに何でも持って行っていいって言いたくなるさ」


 そう言った男が、バットに鉄条網を巻き付けた物をこっちに見せつけるようにして、近寄ってくる。周りの男はそれをニヤニヤ笑いながら見ている。

明らかに略奪になれている雰囲気だった。そして人を気付つける事に全く忌避感を持っていない。今の世界にすっかり「適合」した連中だ。

 

「了解した。」


 カナタがそう言った瞬間、運転席と助手席のドアが勢いよく蹴り開けられ、スバルとダイゴが飛び出した。カナタも荷台を飛び降り、寄って来ていたバットの男に向かって走り寄る。それを見ても、男は慣れているのだろう余裕をもってバットで迎え撃とうと構えている。

 

 そこに「ぴう!」と風切音が通り抜ける。

 

 ポカンとしている男が見ている前で、カランと音を立ててバットは地面に落ちた。持っていた男の指数本と一緒に。


「ぎゃあ、痛てえ!てめえ……なにしや、が」


 そこまで言った男が、自分の手を抑えながらカナタと落ちた指を見て固まった。カナタの手には刀がにぎられている。劉さんから預かった桜花は、陽の光を反射しキラリと光を放っている。


 支給刀とは数段違う切れ味をみせる桜花は、カナタの狙い通り、指だけを斬った。指の骨を斬った感覚も感じさせなかったほどの切れ味を見せて。

 

 指を斬られ固まっている男の、両腕の付け根の部分を突く。ここをやられると、しばらく腕が上がらない。

 突きを受けて痛がりながら後ずさっている男に、回し蹴りを放ち地面に転がすと、そのまま隣で逃げ腰になっている男を逆袈裟に皮一枚と少々の深さで斬った。

 

「ギヤア!斬られた、斬りやがった!誰か助け、助けてくれぇ!」

 

 短いがその分軽く取り回しの良い桜花は、カナタとの相性が抜群だったようだ。


 致命傷には程遠いが、そこそこに出血はするし、集団で弱いものを狙う連中の多くは、自分が傷つくことには慣れてない。カナタに斬られた男は大げさに痛がりながら地面を転がっている。

 カナタが他の状況を見るため振り返った瞬間、ゆずであろう。一発の銃声が響き建物の二階の窓に腰掛けていた男の右肩を撃ち抜いた。その男はバランスを崩して落下。そのまま気を失ってしまったようだ。

 

 そしてそれが決定打になったようだ。こちらが日本刀や銃器を所持していると知った途端、あれだけよかった威勢はあっという間にしぼんで、男たちは泣きながら命乞いを始めた。

 

 そのおかげで、スバル達も何も問題なく、男たちを制圧していた。


 「何て事ない奴らだったな。どうする?こいつら」


 気絶していたり、痛みで地面を転がっていたりする男どもを道路の端に寄せ、一列に並べる。それをスバルが手際よく後ろ手にして指を結束バンドで締めて拘束していく。


「カナタくんを死刑にするって言ってた。あのまま無抵抗だったら、ほんとにこの人達はやっていたと思う。だからこの人達も死刑でいい」


 ゆずは冷たい目で男たちを見ながらそんな事を言っている。それを見て、ほとんど泣きそうな顔になっている男たちの一人が震えながら口を開いた。


「あ、あんたら何者なんだ、銃まで持ってるし……自衛隊とか、軍の人なのか?」


「そうなら保護してくれよ、俺ら一般市民だぜ!ていうか、血が止まらねえんだよ、見ろよ、死んじまう!」


 武装を見て何か勘違いしたようで、保護を訴えてくる。カナタが斬った男たちは出血をみて青くなって騒いでいる。

 

「残念だな、俺たちは都市の部隊だ。お前たちなんかを助ける義務はこれっぽっちもないね!」


 スバルが突き放すように言ったのだが、なぜか男たちはそれを聞いて顔を見合わせ、安堵した様子を見せた。


「なんだ、あんたら都市の奴らだったのかよ。目印がなかったから分からなかったんだよ。見た事ないやつらばっかだったし……」


「あ!ほら頼まれていた奴、手に入れてるぜ!車に乗せてる。一つ向こうの通りにある黒いワゴンだ。もういいだろ、これほどいてくれよ!」


 男たちはカナタ達が都市から来たと分かった途端、親しみさえ見せて口々に色んな事を言い始めた。そしていくつか気になる事を言っている。


 カナタはスバルやダイゴと顔を見合わせた後、笑顔を見せて安心するように男たちに話しかけた。

 

 「そうか。俺たちは別部隊なんだ。アンタらが頼まれていたのってのは、どれの事なんだ?」


 カナタがそう言うと、幾分安心した様子を見せた男は話し出した。

 

「そ、そっか。あれだよ、子供だ。実験に使うとかで健康な子供を見つけておくように言われてたんだよ。く、苦労したんだぜ?もうなかなか生き残ってないからな」


 襲い掛かってきた火の粉を振り払っただけの簡単な状況から、なんだか雲行きが怪しくなってきた。男たちが言う事がどこまで正しいのかわからないが、都市の部隊が実験用の子供を欲している。という話は、ちょっと聞かなかった事にはできない。


 「……スバル、ダイゴ、ここを頼む。変なそぶりを見せたら撃っていい。俺ちょっと確認してくるわ」


 男たちに聞こえないよう、そう言うと頷く二人に任せ男が言った車とやらを確認する事にする。カナタが歩き出すとゆずもついて来る。


「ゆず、俺が確認するから、周りの警戒を頼む。その……俺がいいと言うまで車の中は見るなよ?」


 ついて来る事は想像していたので、周辺警戒を頼む。ただ、車の中の様子がどうなっているのかわからないために一応見ないように言っておく。あんな奴らが丁重に扱うわけがない、あるいは凄惨な光景がそこにあるかもしれないのだ。

 できればそんな光景は見せたくない。


 男たちが隠れていた建物の横、細い道を歩くと一本向こうの通りに、確かに黒いワゴンが停まっている。


「付近はクリア。カナタくん気を付けて」


 車を正面にして、壁を背にしたゆずが周りを探って言うと、油断なく支給のライフル、M-4を車に向けて構えている。もし誰かが隠れていたりした場合、そいつは姿を現した瞬間、全身に弾丸を浴びる事になるだろう。


 足音を忍ばせ、車に近寄る。後部座席の窓には全面真っ黒なフイルムが貼ってあり、中の様子は全く分からないが、今の所何かが動いている気配はない。


 後部座席のスライドドアに手をかけ、一気に引き開ける。


 そこには、猿轡をはめられ手足をテープでぐるぐるに巻かれ、身動きのとれないでいる小さな子供の姿があった。

 意識はあるようで、その目はこちらを見ているが、すでに諦念に染まっているのか特に反応はない。


「くっ!…………クズどもが」


 思わずつぶやいたのは、その子供の後ろ座席に、同じような年恰好の子供が無造作に放ってあったからだ。こちらはもう拘束もしていない。動く様子も見られない…………


 カナタは、拘束されている子供を慎重に優しく抱きかかえると、外に連れ出した。すでにゆずがリュックから毛布を取り出して持っていたので、礼を言い痛くないようなところに敷いてもらう。

 子供はカナタが触るときに少しだけピクリと反応したが、あとは抵抗も何もみせない。見るかぎり、怪我や打撲の跡は見えないが、それだけでは判断できない。

 

 少なくとも、これくらいの子供が全てを諦めた目をして、見たことがない人間が現れてもほとんど反応すらしないのだ。これまでにどんな目に合ってきたのか……。


「ごめんな。ちょっと痛いかもしれないけど我慢してくれよ」


 子供にそう語りかけるが、反応はないのでゆっくりとテープを切って剥がしていく。やがて手足が自由になってもその子は動こうともしなかった。ゆずがカナタに目で確認して猿轡も外す。


「ひどい目に……あったな。大丈夫かって、大丈夫なわけないな。なんて言っていいかもわかんないけど……」


 全く動こうともしないし、反応もしない子供に、カナタはもうどう声をかけていいかもわからなかった。

 そんな時、ゆずがその子供の前に座り、そっと頭を撫でて語りかけた。


「辛かった。怖かった。わかる、私も同じだったから。だからゆっくりでいい。安心してほしい、もうひどい目にはあわない。私とカナタくん……そこのお兄ちゃん。が、守る。約束する。もう大丈夫」


 ゆずが頭を撫でながら、ゆっくりと語りかけるように話しているうちに、しだいに反応を見せるようになる。まずびくっと痙攣するとそのままガタガタと震えだした。

 

 それを見てゆずは何度も「大丈夫」と語り掛ける。次第に、見開いたままどこも見ていなかった両目に光が戻る。おびえるようにきょろきょろとあたりを見回し、最後にゆずで止まった。


「ん。私はゆず。そっちのお兄ちゃんはカナタ君。ゆっくりでいい。安心していい」


 ゆずがそう言うと、少しだけ震えが収まり、代わりに大粒の涙を流し始めた。


 ゆずはそれを見て、見たことがないほど優しい表情になると、そっとその子の頭を抱え込んだ。カナタはかつて父親を亡くして、心をとざしていたゆずとその子供を重ね合わせた。


 そのゆずが今こうして、辛い目に合った子供に大丈夫と語り掛けている瞬間が、とても大切な物のように感じた。


 

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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