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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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15‐2

遅くなってしまった…ああ、もう明日が近い!頑張る

「で?どうすんのよ。スナイパー」


 スバルが壁に寄りかかって休憩しながら言った。


「明確に敵対しないなら無視して通り過ぎたいとこだけどな……。迂闊に近づいて撃たれるのもな」


 カナタが腕組みをして考える。


「ゆず、向こうはこっちに気づいていると思うか?」


 カナタは角の向こうにいる感染者を警戒しているアスカ達の所にいるゆずに聞いてみた。

 ゆずは二言三言アスカ達に何か注意事項を伝えてカナタの方にやってくる。

 

「多分だけど気づいていると思う。ここに来るまでに上には警戒してなかった。私なら見つけてる。」


 自信たっぷりにゆずは言う。


 人と比べる機会がないから、はっきりとはわからないが、ゆずはスナイパーとして、かなり優秀な方だと思う。

 少なくともそう思って信頼もしてるカナタはゆずの言うことを全面的に支持した。


「スコープの反射が見えると言う事は、向きをこちらに向けている。大きい通りに出るには、あの団地の正面の道を通る事が多いだろうから、誰かが監視しているか、通る人を撃って略奪しているか……」


 そこまで言うとゆずも腕を組んで考え出す。


「……私はそろそろ白づくめの拠点が近いんじゃないかと思う。」


顔を上げたゆずはそう言った。


「白づくめって言えば、姫路城でやりあったって奴らか。友愛とも繋がってるっていってたな……」


 いかにも面倒くさそうな顔になったカナタが呟いた。出来る事なら一生関わり合いになりたくない。何も言わずともその表情はそう語っていた。


「うん。白づくめ達も、友愛の会の連中も№3を攻めるつもりなら、瀬戸大橋付近に展開しているはず。逆に言えば裏を取られたくないはずだから警戒していてもおかしくない」


 ゆずがそう言うと、スバルやダイゴが感心したように見ている。


「なるほどね。南の四国に目を向けてる今、北から手を出されたくないだろうしね」


 ダイゴがそう言うと、そこでようやくスバルも手をポンと打ってなるほどと言った。


 そう話しているうちに先にいる感染者を見張っていたアスカが声をあげた。


「感染者、何かに気付いたようです。四体ともこちらに向かってきます」


 「え?」


 その報告を聞いて、カナタ達はそれぞれの顔を見渡した。


「話声が聞こえたか?」


 スバルが武器を準備しながら言うとダイゴが否定する。


「それならもっと早くに気付いてこっちに来てるよ。でもなんでだろう……」


 そう言いながらダイゴが盾を持った時だった。


「風向きが変わったからのう。おまえさんがたの匂いに気付いたんだろうさ。あやつらの中には嗅覚が敏感な奴もおるでの」


 いきなり知らない声が聞こえてきて全員がぎょっとする。こんなに近くに来るまで、というか声を聞くまで接近に気付かなかったからだ。

 急な事に、ほとんどの者が固まってしまい動けないでいる。ゆずが腰からハンドガンを抜いて向けているのと、ヒナタが「梅雪」を抜いているくらいだ。


「ほっほっ……お嬢さん方の動きはすばらしいのう。そこまで反応されたのは数十年ぶりじゃ」


 声の主、ダイゴの盾の影にいた老人はそう言って愉快そうに笑っている。白髪白髭の小柄な老人はまったく気配を悟られる事なくここまで近づいている。間違いなく只者ではない。


 警戒するカナタ達を見て、老人は愉快そうに笑うばかりだった。

 

「ちょ、おじいさん!こんなとこで何してんですか?危ないですよ」


 相手が年寄りと見るや、ダイゴが気遣ってそう言うが、老人はニコニコと見るばかりだ。


「おう、儂の事か。久しくそんな事言われる事なかったから返事できなんだ。悪く思わんでおくれ」


「いや、そんな事は全然いいんですけど……」


 ダイゴが困った顔になっていると、老人は一瞬のうちにダイゴの後ろに移動しており、困った表情のままのダイゴの肩を叩く。


「うわっ!えっ?いつの間に……」


 ダイゴがそう言って驚き、それ以外の全員が絶句していた。離れた所から見ていたにも関わらず、老人の動きが見えなかったのだ。


「ほっほっ……。すまんのう心配してくれて。じゃがこれくらいの動きはできるからの。その辺の奴らには捕まりはせんよ」


 全員があっけにとられて見ている中、老人は愉快そうに笑っていた。



 ◆◆ ◆◆


 ちょうどその頃、ゆずがスコープの反射に気付いた団地の三階では白づくめの人物がベランダに伏せてライフルのスコープを見ていた。

 

「物資の補給にでも来たのか?この辺では見かけたことのない奴らだな。はっ!その辺りには何もないってのによ」


 スコープの先に見える光景を見てそう呟いている。その声から男性であるという事がかろうじてわかる。

 ゆずが言った通り、早い段階でカナタ達の接近は気付かれ監視されていた。

 公営の団地の一室は、以前に誰かが押し入ったのか、ベランダの柵も壊され、窓も枠ごとなくなっている。

 荒らされた状態で時間が経って埃が積もっている室内に二人の人間がいた。


 二人とも同じ格好をしている。声を出さない限り男が女かも、わからない。ライフルの男はともかく、もう一人はかろうじて体格で成人だろうと思えるくらいだ。


 三角頭巾に白衣のようなものをまとって、全身白一色の服装。ゆずが言う白づくめがいた。


「早い段階でネメシスが先にこの辺の物資を根こそぎ集めたって話だからな。この近辺は役にたつものなって残ってないさ」


 ライフルのスコープをのぞいて寝そべっている男の隣で双眼鏡を手に、もう一人の白づくめはくぐもった声でそう言った。こちらも男性らしい。


「一応本部に知らせとくか?軽く武装もしてたみたいだし」


 ライフルの男がそう言うと、双眼鏡を持った男は、煩わしそうに手を振った。


「はあ?やめとけやめとけ。どうせ何も見つからないから諦めて帰るさ。今は上の奴らの関心は別の所にあるしな。そんなもん報告したって適当に流されるのがオチだぜ」


 双眼鏡の男が言うと、ライフルの男もスコープから顔を離し、疲れたように目をこする。


「上の関心って……あの噂話か?」


 目をこすりながら言った言葉に双眼鏡の男は頷く。


「おうよ。実験に使う材料を捕まえに行った奴らが、またほぼ全滅したらしいぜ。そのグループのリーダーがしっかりと見たらしい。まあ、そのリーダーはその爺の姿を見た瞬間、仲間も物資も全部放り投げて逃げ出した事がばれて、懲罰棟に入ったらしいけどな!」


 人の不幸は楽しいのか、愉快そうに言うとライフルの男は覆面で見えないが引きつった顔になっていた。


「うええ……懲罰棟って、バケモンどもと戦わせられたりするんだろ?生きて戻ってきた奴はほとんどいないって話じゃないか……おい?」


 返事がない事にライフルの男が顔を上げたが、そこにいたはずのもう一人の男の姿はなかった。ただ、男がいた場所には持っていた双眼鏡が転がっている。思わず後ろを振り返るが、見える範囲にその姿はない。


「おい。変な冗談はよせよ。爺のふりをしても驚かんぞ?」


 面倒そうにそう言った男が、視線を前に戻した。すると……


「おぬしらが言う爺とはこんな奴かのう?」


「は……?」


 男のライフルのスコープの上に片足で立つ老人がいた。白髪白髭の小柄な老人は愉快そうな顔で、驚いている姿を眺めている。

 バイポッドとストックで支えられているとはいえ、床に置いたライフルの上に立てるわけがない。白づくめの男の視線が自分のライフルと老人を行き来する。


「な、な……」


 言葉にならず、震える指で老人を指そうとした時、さらに声が聞こえる。


「こんにちはっ!謎の老人と謎の美少女です!」


「っ!」


 誰もいなかったはずの背後から声が聞こえ、白づくめの男は反射的に横に逃げながら振り返る。そこには中高生くらいの年頃の少女がにこやかに手を振っていた。


「ちょっと痛いけどごめんなさい!」


 その声が聞こえたのと、横面に激しい衝撃を感じたのは同時だった。


「はっ!は?うわ、うわああぁぁ!」


 どさりと下から重い物が落ちた音がした。


「ほっほっ。ヒナタちゃんは手加減がうまいのう。うまい事茂みに落ちたわい。」


 老人が下を見てそう言った。


「いいんですか?逃がしちゃって」


 見ると、白づくめは所々に赤い斑点を作っているが、這うようにして逃げている。


「なに、あの様子じゃ拠点まで持つかもわからんて。うまくシロから逃げおおせても、謎の美少女の事を言いふらして混乱させてくれるじゃろう。その場で見れんのが残念じゃ」


 そう言って笑う老人は、もうここには用はないとばかりに踵を返して歩き出した。同行していたヒナタは、白づくめが使っていたライフルと、その辺に置いてあった弾丸の箱を持てるだけ持って老人の後を追った。


「ゆずちゃんにお土産ができちゃった!」


 ヒナタもそう言ってご機嫌に老人と共に団地を後にするのだった。

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