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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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15-1 倉敷から

 よく晴れた日の朝。

 2階のベランダから下を覗くと、それほど遠くないところでフラフラと彷徨う影が見える。


「かぁー、朝っぱらからたくさんいるな。」


 しっかりと休養をとった後、カナタ達十一番隊はふたたび西に向かって旅立とうとしていた。


「むう……」


 隣の屋根に飛び移り、手分けして次々と荷物を運び出して、出発の準備ができていく中、一人少し離れたところでゆずが立っていた。

 少し寂しそうな雰囲気を漂わせて薬局を見ている。


「そんな顔するな。……また来よう。そして会えるなら持ち主に交渉して、この建物をまるっと買っとろう」


 ゆずの背中を叩いてそう話したカナタの顔を見て、ゆずは大きく目を開く。


「買う?……ここを?」


 どこかぼんやりとそう言うゆずに、カナタは微笑んでしっかりと頷く。


「ああ。持ち主が見つかればいいな。世界がこんなになって、たとえ感染者がいなくなったとしても、元の生活に戻るにはかなりの時間がかかると思う。しばらくは病院も、薬局も機能しないと思うんだ。なら、買い取りに応じてくれるんじゃないか?幸い、収入だけはいいからな守備隊」


 貨幣価値がないに等しくなってしまった今、守備隊としての報酬は、配給カードで払われているが、その価値はちゃんと管理されている。希望すれば美術品や貴金属など資産価値のある物と交換できる。

 世の中が復興した時のためにせっせと貯蓄している隊員も少なくない。


 ……大半は見えない復興の兆しに、今を楽しく過ごす方を選んでいるが……


「ほんと?カナタくん」


 期待と遠慮を半々浮かべた視線でゆずが見てくる。カナタはそんなゆずを安心させるように、頭に手を置いた。


「ホントも何も、お前もう予約してきてるじゃないか」


 デカデカとスプレーで書かれた『ゆずとかなた』の文字を指しながらカナタは笑った。


「うん!私も貯める。めっちゃ貯める!渋るなら札束でビンタできるくらい貯めておく!」


「うん、もっと穏便に買い取ろうなー。札束でビンタは感じ悪いぞ?」


 顔をひきつらせてカナタは言ったが、やる気を出したゆずはもう聞いていない。

 自分の荷物を抱えて、周りを急かしだした。


「あーあ、あそこはゆずちゃんとお兄ちゃんの愛の巣になるのかぁ」


 どこから聞いていたのか、屋根の下からひょっこりとヒナタが顔を出すと、勢いをつけて身軽に屋根の上に上がってきた。


「なぁ、その言い方やめないか?この前のマザーの印象が強くて、蜘蛛の巣に囚われた姿を想像しちまうから……」


 カナタの言葉を聞いてクスクスと笑うヒナタはカナタの肩をポンと叩く。


「大変だね、お兄ちゃん!」


 そして自分の荷物を取りに行った。


「あいつ、他人事だと思って……」


 ぼやきながらカナタも自分の荷物を取りに行くのだった。


◆◆◆◆

 


「前方に感染者が四体います。その他は見えません!」


 歴史を感じさせる白壁の塀に背中をついてアスカが角の先を見てからそう言った。


「後続がないなら、排除した方が早いかも……アスカちゃん、いける?」


アスカの後ろにピッタリとついた由良が状況を分析してそう返事をする。


「由良が二体、私が二体。それが現実的だと思う。騒がれると他から呼ぶから……」


 振り向いてアスカがそう言うと、由良は頷いて背負っているケースから弓を出してサイトを取り付けた。


 元々持っていた弓は、明石大橋の側の海に沈んでいる。

 今持っているのはここにくるまでに遭遇した感染者が持っていたものだ。

 どこで手に入れたのか、上下に歪な滑車のついたその弓はコンパウンドボウと呼ばれる機械式の弓だ。


 由良が矢をつがえていると、さらに後ろから制止がかかる。


 「待って。もう少し確認する」


 そう言ったのはゆずだ。アスカと由良の新人隊員二人もこれまでの戦いでかなりの実戦経験を積んできている。なので、戦い以外のことも経験させるべく、偵察、何かがあった時の判断まで二人にさせていた。

 感染者がいたり、物資を集めていた生存者がアスカ達を見た瞬間略奪者に変わって襲ってきたりしていたが、ここまでは難なくこなしてきている。


「え?見た所感染者以外の異常は見当たりませんが……由良?」


 アスカはゆずに言われ、もう一度角から顔を出し確認したがゆずが何を指して言っているのかは分からず、由良に聞いてみたが由良も首を振っている。


「すいません……力不足です。教えてもらえますか?」


 アスカはもう一度見ていたが結局分からず、肩を落としてゆずに教えを請うた。


「ん。まあ、二人はよくやってる。これは多分私が狙撃手だから気付いただけだと思う。カナタくんなら多分気にせず進んでた。」


 真顔でそう言うゆずにカナタは渋面を作る。



 「おい、なんで俺を引き合いにだすんだ。俺だって気付いたかもしれないだろう」


 むっとしたカナタがそう言うと、ゆずがすっと場所を譲る。見つけれるもんなら、見つけて見ろ。そう言わんばかりの表情にカナタは勢い込んでゆずがいた場所に移動して、全神経を集中した。


 それから五分近く経った頃、振り返ったカナタは頭を下げた。


「わからない……教えてください。ホントに何かあんのか?」


 そう言ったカナタに、ゆずは嬉しそうにどや顔で頷いた。


「ここから大体……30mくらい先。公営っぽい団地がある。そこの三階、左から二番目の窓」


 ゆずが言う場所を見ると、公営の団地がある。もともと古い建物だったのだろう。今は塗装が剥がれ落ち、ガラスが割れている窓もあって廃墟然としている建物の三階を注視すると、時折光を反射してチカチカと光るものがあった。


「え、あの光ってるやつか?ガラスかなんかが反射してんじゃねえの?」


 スバルがそう言うが、ゆずが黙って首を振る。


「あれは高倍率のスコープの反射。あそこの狙撃銃を持った奴が監視してる」


 自身たっぷりにゆずはそう言い切った。


「なるほど……確かに。しかしあれはさすがに……」


 見つけきれなかったためか、落ち込んだ様子でそう言うアスカに、ゆずは慰めるように言う。


「ん、あれは仕方ないと思う。アスカ達はちゃんとやれてた。だいじょぶ」


 そう言われ、アスカも由良もホッとしてような顔をしている。ゆずはあまり手放しで人を褒める事がないから、ゆずが言うのであればちゃんとやれていたという事だろう。


「んで?あれが見張ってる奴だとしてどうするんだよ」


 スバルがそう言うと、ゆずは何言ってんの?と言いそうな顔になっている。


「それは一隊員の判断する事じゃない。私は狙撃手としてあれを発見した事を報告した。どうするか考えるのは指揮する人が考える事」


 ぴしゃりとそう言われて、スバルは言葉に詰まる。


「ぐっ!……た、確かに。おまえ、カナタ以外にはほんとかわいくないな」


 スバルが悔し気に呟くがゆずは何も気にした様子はない。それを見かねたのか、スバルが言葉を続けた。


「おいゆず、ある程度愛想よく対応しておいたほうが、余計なトラブルもないぞ?」


 そう言ったスバルをちらっと見たゆずは視線を前に戻して言い返した。


「問題ない。他ではそれなりにちゃんとやってる」


「おい、それじゃ俺だからその態度だって言ってるように聞こえるぞ!」


 さすがに聞き逃せないと言う感じでスバルが言うと。ゆずはきょとんとした顔でスバルを見る。


「それはそう。身内に対して余所行きの顔をする方が変?」


 こてんと首を倒してそう言ってゆずにスバルはぽかんとして言った。


「あ、ああ。そうか……それはそうだな、うん」


 そんな返答をするスバルに、ゆずはもう一度首をかしげると、前に向き直った。


「身内……か。ゆずちゃん、変わったねぇ」


 そのやり取りを黙って聞いていたダイゴがスバルの隣に来て言った。


「おう、前はカナタだけいればいいって感じだったのにな」


「後輩も出来てゆずちゃんも成長してるってことかな?」


 嬉しそうな顔でダイゴが言うと、後ろで聞いていたカナタは微妙な顔をして言う。


「それなら、ゆずの中にいる破壊神もうまく制御してほしいけどな」


 渋い顔をしてカナタがそう言うと、ダイゴとスバルは笑いながら言った。


「そりゃむりだろ。それも含めてのゆずだ」


 二人そろってそう言われ、カナタは不貞腐れるように黙ってしまった。

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