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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
半年後

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6-1 半年後

半年が経ち、なんとか今の暮らしにも慣れてきた。忙しくはあるが充実しているともいえる。

 他の№都市もおおむね順調に動いているようで、そこそこ交流もあっているようだ。それぞれ得意分野ができてきて、№1は地理的に比較的安全な位置にあるため、いろんな機関の本部が集まり、また戦えない女性や子供などを受け入れる施設や学校なんかもある。他の都市の中心的な立場でもあり、物事の裁定や都市代表の会議なども№1で行われる。

 №2はエリア内に広大な農地があり、作物や果樹の生産をやりやすい事から食料の生産量が多く、他都市の分もそこで賄っている。

 №3は、工場地帯を持っており、日用品から武器に至るまで生産を始めている。特に武器は回収した銃器や弾薬の複製をできるようなラインの作成にに成功しており、今、各都市で使っている武器の類はほとんどが№3にて複製された物だ。あくまで複製でしかないのでオリジナルより威力も耐久性も劣るのだが、数が作れることが優先されている。


 そして№4では、例の「親」と称された感染者の情報を先んじて手に入れ、情報の収集や感染者の研究を専門にする機関をどこよりも早く作っていたので、情報を特産としている。また薬品の工場や、それに従事できる人が多かったこともあり、医薬品の製造、輸出も行われている。

 

 各都市はそれぞれの得意な分野の成果を交換し合い食料、武器、情報・医薬品をそれぞれ交換し合っている。


 そして、№2.3.4それぞれの都市が明石大橋、瀬戸大橋、それと来島海峡大橋を管理、監視して人や感染者の流入、流出を厳しく制限している。

 それだけに、四国以外の情報は一切わかっていない。今はまだ四国全土を安全にすることを主に動いているため、外部からの流入や流出を遮断して四国全土の安全確保を目指しているという感じだ。


 「と言う感じで、各都市の概要は何となくわかったか?」


 №都市の説明のために作られたパンフレットを片手に、カナタはゆずに№都市の情勢を説明していた。

 カナタの言葉に、黙って話を聞いていたゆずは、こくんと頷く。そんなゆずの頭を軽く撫でて、カナタは持っているパンフレットを微妙な顔で見てから、置いてあった棚に少し乱暴に投げて戻した。


「まあ、パンフに書くような内容だから、いい感じの言葉書いてあるけど、実際のところは、いろんな思惑や足の引っ張り合い、資源の取り合いなんかで都市の間はもう少しドロドロしてる。その辺はおいおい分かっていくと思う」


 カナタは松柴から呼び出しを受けて、要件を聞いて帰るところだ。これから十一番隊の隊舎に戻ってスバルたちに伝えないといけないのだ。


「面倒そうな命令だよなぁ」


 そう独り言ちてしまうくらいには厄介な内容だったが……。しかもこれからそれをスバルとダイゴに伝えないといけないのだ。思わず深いため息をついていると、ゆずが手を伸ばしてカナタの頭を撫でてきた。ゆずはカナタが落ち込んだりしていると、すぐに気づいてこうして頭を撫でてくる。多分自分がされて嬉しかったからしているんだろうが、少々恥ずかしい……。


 ただ不思議と、頑張ろうと思える効力はあるのだ。


「だいじょぶだ。ありがとう、ゆず」


 カナタがそう言うと、ゆずは前と比べると少しだけはっきりと見せるようになった感情表現をみせた。、今は、カナタからそう言われて、ほんのり頬を染めて緩めると、カナタの服の裾をチョンと摘まんだ。

 

 

「調査ぁ?」


 十一番隊の隊舎に戻ってきたカナタは、先ほど代表の松柴から言われた事をスバル達に伝えている。カナタの危惧した通り、スバルは露骨に面倒そうな顔を隠しもしない。

 

「ああ。あの親って個体の情報が欲しいんだと。今んとこ見ただけだし情報を売り物にしてる№.4としては、さらなる情報を他の都市から求められているそうだ。」


「マザーの情報って……どうやって集めんだよ」


 スバルはそう言って、ふてくされたようにリビングのソファに座る。親と称された個体は誰が言い始めたのか、いつの間にかマザーと呼称されている。


 あの日撮ってきた動画はコピーされて、各都市にも送られている。今のところ他の場所では確認されていないが、黙って放置しておくわけにもいかないのだろう。

 それにあれから半年も経っているが、美浜集落の方とは無線を使って定期的に連絡をとっているらしいが、特に変わったことはおきてはいないそうだ。


「とりあえずは一定の期間観察して、習性を探ったりするしかないだろうな。あと、この任務には研究機関からも一人同行するそうだ。この後顔合わせと簡単な打ち合わせをして、明後日都市を出る。」


 カナタがそう締めると、諦めたような顔でダイゴが口を開く。

 

「まあやるしかないね、任務だし。そうだ、武器の使用は?」


 都市内では一般人は武器の所持は許可されていない。守備隊でも都市内では原則使用禁止となっている。守備隊も色々と変化があり、都市内部の治安維持を専門に行う警備隊というのが守備隊から分かれて独立した。

 

 決まりを破ると守備隊員でも拘束できるように、警備隊に限り都市内での武装を許されている。

 

 銃器類は任務などで必要と判断されると、チケットが配布されて、任務中は支給された武器を所持できる。また、都市の外では、物資の収集任務以外で手に入れた物資は発見したものが所有権を持つ。守備隊の中には探索中に武器を見つけて自前で所持している人もいるらしい。

 

 とりあえず、今ダイゴが聞いているのは、支給された武器の使用許可はあるのかという事だ。


「ああ、通常装備で許可がでてる。ほらチケットだ。全員分ある。」


 そう言ってカナタは小さなカードをテーブルの上に置いた。このカードを持って装備部に行き、希望を言えば武器が貸与される仕組みになっている。


「よかった、このなまくら一本であの地獄みたいな場所に行けとか言われたらどうしようかと思ったぜ」


 自分の分のカードを取りながらスバルは、腰にさしてある地味な刀の鞘を叩く。守備隊に支給されている刀は、№.3で生産された刀である。大量生産品であり、あまり質は良くない。鍛造してあるわけではなく、そこらにある鉄製品を溶かして型に入れ作成してある。

 当然あまり切れないし、粘りもないので乱暴に扱えばすぐに折れる。その代わり替え刃式になっていて、都度刃を変えて使うのだ。

 ただ、銃器を装備していたとしても、撃てば音で他の感染者を呼んでしまう。弾には限りがあるし、フルオートで射撃しようものなら十秒ともたず弾切れになる。使いどころが難しい代物なので、最後は刀に頼ることになるのだ。


 ちなみになぜ刀なのかというと、型を取る素材として刀があったと言うだけである。もし本物の西洋の剣があったならそれを複製したかもしれない。銃器もそうだ。回収できた物を3Dプリンターなどを使って複製しているにすぎない。


 十一番隊の所属は現在、隊長のカナタとダイゴ、スバルと、ゆずだ。当初ゆずは十一番隊預かりという名目で共に暮らしていたのだが、任務で動くたびについて来ると言って聞かないので、それなら隊員としたほうが最低限の装備が支給されるからと松柴の意見もあり、少し前に登録した。

 

 そのゆずは、自分の分のカードをとり嬉しそうにしていた。非力で体の小さいゆずは当然後衛だ。刀を使った接近戦など論外で形だけの隊員のつもりだったのだが……

 登録の際の適性検査で、射撃に優秀な適性を持つことが判明し、事実十一番隊の誰よりも正確な射撃をする。

 自分の得意分野を見つけたゆずもすっかり銃に興味をもってしまったのだ。


 十五、六歳の女子が装飾品や洋服などより、銃を持たせた方が喜ぶのはどうかとカナタは思っているのだが、現状どうにもできていないし、環境もそれを後押ししてしまっている。正直ゆずに、武器を扱わせる事には反対していたカナタだったが、

 本人がやる気であるという事と、今の時代は自分を守る力は必要だと言う松柴や橘の意見に従って渋々頷いた形だ。それらは今のカナタの悩みなのである。


 「やあ、十一番隊の詰め所はここでよかったかな?」


 カナタがそんな事考えていたら、詰め所の扉を半分開け、顔をのぞかせている女性が声をかけてきた。

 顔合わせに来た研究機関の研究員だろう。


「そうです。今回の任務ではよろしくお願いしますね」


 そう言いながらその女性を中に引き入れ、ロビーのソファを勧める。


「こちらこそ。都市情報部の感染者研究室の喰代 藍(ほうじろ あい)といいます。一応博士号なんてのも持ってるんだけどね。ここの皆さんがあのマザーの情報を持ち帰ったと聞いて、ここ数日はもう夜も寝られずに過ごしたよ。迷惑をかけるかもしれないけど、よろしくおねがいするねー!」


 自己紹介を終えた喰代博士は大きい鞄を抱えていて、白衣のままでここまで来たようだ。これから危険な場所に向かうというのに、あまり気負った様子もなく、むしろ楽しそうな雰囲気を感じる。


「あの映像で、マザーが感染者を捕食していたのを見てさ、すごい感動したよ!あんな映像を撮って持って帰ってこれる実力のある部隊とご一緒出来て光栄だよ。アレを生で見て、うまくいったらこの手で触れる事ができるなんて……フフフ」


 力強く語り、最後は自分の世界に入ってしまった喰代博士にカナタ達は若干引きつった笑みを返した。

研究者という人種は、研究のためならすべてを犠牲にするというのは、№都市ではよく聞く話なのだ。もう何時でも出発できるという喰代博士には少し待ってもらって、カナタ達も準備にかかった。


  カナタとダイゴは銃を使わないので、ダイゴは任務期間中の食料や日用品を資材部に申請に行き、スバルとゆずは装備部に銃の申請に行く。カナタとダイゴの分のカードはまるっと弾薬に交換だ。その間、カナタはその他の荷物を準備し始める。倉庫から人数分の寝袋や毛布、などを準備しておく。


 すでに都市外へは何度となく出ているため準備は早い。三十分とかからずに全員が詰め所に戻り、リュックなど背負っている。


「状況がどうなっているかは未知数だ。まず美浜集落によって情報を集めた後、劉さんの小屋か、神社か。状況で動く。問題は?」


「大丈夫だと思う」


 カナタの言葉にダイゴが返事をした。スバルにも異存はないようだ。ゆずはカナタの隣で黙っているし、喰代博士は後ろでメモを取り出してわくわくしている様子が見て取れる。


 一抹の不安を感じながら、カナタは出発の号令をあげた。喰代博士の感情とは真逆のどんよりとした重い胸中で……。

 

読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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