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6-1 二年後

二年が経ち、なんとか今の暮らしにも慣れてきた。忙しくはあるが充実しているともいえる。

 他の№都市もおおむね順調に動いているようで、そこそこ交流もあっている。それぞれ得意分野があり№.2は都市内に広大な農地を持ち、作物や果樹の生産をやりやすい環境にある事から食料の生産量が多く、他都市の不足分もそこで賄っている。№.3は、工場地帯を持っており、日用品から武器に至るまで様々な生産を始めている。特に武器はあちこちから回収した銃器や弾薬の複製をできるようなラインの作成にも成功しており、今、各都市で使っている武器の類はほとんどが№.2にて複製された物だ。あくまで複製でしかないのでオリジナルより威力も耐久性も劣るのだが、数が作れることが重要である。


 そして№.4では、例の「親」と称された感染者の情報を先んじて手に入れ、情報の収集や感染者の研究を専門にする機関をどこよりも早く作っていたので、情報と研究、医薬品の製造などを特産としている。

 各都市はそれぞれの得意な分野の成果を出して食料、武器、情報を交換し合っている。

 そして№.1は周りを海と他の都市に囲まれており、一番の安全な場所であるので統括的な役割を持ち、また重要な物の保管所や、学校、病院などもここにあり、各都市の代表が集まる会議なども№.1で行われる。


 ただ、今の所№都市のある四国以外の情報は一切わかっていない。無線で呼びかけたり、のろしをあげたりしてアピールしているのだが、他の地方からの人の流入、接触がないのだ。

 今はまだ四国全土を安全にすることを主に動いているため、こちらからの直接的な接触もできていないが避難民が来る事もない。いずれは外部への遠征も行われることになるのだろう。




「調査ぁ?」


 十一番隊の詰め所兼住処の元ビジネスホテルに戻ってきたカナタは、先ほど代表の松柴さんから言われた事をスバル達に伝えている。


「ああ。あの親って個体の情報が欲しいんだと。今んとこ見ただけだし情報を売り物にしてる№.4としては、さらなる情報を他の都市から求められているそうだ。」


「マザーの情報って……どうやって集めんだよ」


 スバルはそう言いふてくされたように、ロビーのソファに座る。親と称された個体は誰が言い始めたのか、マザーと呼称されている。


 あの日撮ってきた動画はコピーされて、各都市にも送られている。今のところ、他の場所では確認されていないが、黙って放置しておくわけにもいかないのだろう。

 それにあれから二年も経っている。美浜集落の方とは定期的に連絡をとっているらしいが、特に変わったことはおきてはいないそうだ。


「とりあえずは一定の期間観察して、習性を探ったりするしかないだろうな。あと、この任務には情報機関からも一人同行するそうだ。この後顔合わせと簡単な打ち合わせをして、準備でき次第都市を出る。」


「まあやるしかないね、任務だし。そうだ、武器の使用は?」


 カナタの分の飲み物を準備してくれていたダイゴが、それを持って来てカナタの前に置くと聞いてきた。

 都市内では一般人は武器の所持は許可されていない。守備隊は支給されている量産された刀のみ所持を許されている。

 銃器類は任務などで必要と判断された場合のみ、許可が下りて装備部に申請すれば任務遂行期間中のみ所持できるのだ。

 ダイゴが聞いているのはその使用許可はあるのかという事だ。


「ああ、通常装備で許可がでてる。ほらチケットだ。全員分ある。」


 そう言ってカナタは小さなカードをテーブルの上に置いた。このカードを持って装備部に行き、希望を言えば武器が貸与される仕組みになっている。


「よかった、このなまくら一本であの地獄みたいな場所に行けとか言われたらどうしようかと思ったぜ」


 自分の分のカードを取りながらスバルは、腰にさしてある地味な刀の鞘を叩く。

そうは言ってるが、スバルがあの時見せた翠蓮の鮮やかな一撃を忘れられないのか、密かに訓練しているのをみんな知っている。

守備隊に支給されている刀は、№.3で生産された刀である。大量生産品であり、あまり質は良くない。コストや技術の面から鍛造してあるわけではなく、そこらにある鉄製品や交換した刃を溶かして鋳造されている。

 当然あまり切れないし、粘りもないので乱暴に扱えばすぐに折れる。その代わり替え刃式になっていて、都度刃を変えて使うのだ。

 ただ、銃器を装備していたとしても、撃てば音で他の感染者を呼んでしまう。弾には限りがあるし、冷静さを欠いてフルオートで撃ちっぱなしなら十秒ともたず弾切れになる。使いどころが難しい代物なので、最後は刀に頼ることになるのだ。


 ちなみになぜ刀なのかというと、型を取る素材として刀があったと言うだけである。もし本物の西洋の剣があったならそれを複製したかもしれない。銃器もそうだ。回収できた物を3Dプリンターなどを使って複製しているにすぎない。


 十一番隊の所属は現在、隊長のカナタとダイゴ、スバルと、ゆずだ。当初ゆずは十一番隊預かりという名目で共に暮らしていたのだが、任務で動くたびについて来ると言って聞かないので、それなら隊員としたほうが最低限の装備が支給されるからと松柴さん意見もあり、少し前に登録した。

 

 そのゆずは、自分の分のカードをとり嬉しそうにしていた。非力で体の小さいゆずは当然後衛だ。刀を使った接近戦など論外で形だけの隊員のつもりだったのだが……

 登録の際の適性検査で、射撃に優秀な適性を持つことが判明し、事実十一番隊の誰よりも正確な射撃をする。

 自分の得意分野を見つけたゆずもすっかり銃に興味をもってしまったのだ。


 十七歳の女子が装飾品や洋服などより、銃を持たせた方が喜ぶのはどうかとカナタは思っているのだが、現状どうにもできていないし、環境もそれを後押ししてしまっている。

 今のカナタの悩みの一つである。


 「十一番隊の詰め所はここでよかったかしら」


 カナタがそんな事をつらつらと考えていたら、詰め所の扉を半分開け、顔をのぞかせて女性が声をかけてきた。

 顔合わせに来た情報機関の研究員だろう。


「そうです。今回の任務ではよろしくお願いしますね」


 そう言いながらその女性を中に引き入れ、ロビーのソファを勧める。


「こちらこそ。都市情報部の感染者研究室の喰代 藍(ほうじろ あい)と申します。一応博士号を持っております。皆さんがあのマザーの情報を持ち帰ったと聞き、お会いするのを楽しみにしていました。ぜひさらなる生態を突き止めたいと思ってます」


 そう言って喰代博士はにっこりと笑った。これから危険な場所に向かうというのにとても楽しそうに見える。


「あの映像で、マザーが感染者を捕食していたのを見て、非常に興味を覚えました。なんのために捕食するのか、日常的にやるのか。ぜひとも実際に目にして確認したいものです!」


 力強く語る喰代博士にカナタ達は若干引きつった笑みで返した。

カナタは思った。この人はあぶない、と。感染者を見たら突撃しそうな危うさを感じる。

流石にそれはないのだろうが、目は離せないだろう。


 それから準備のために、それぞれ動き出す。カナタとダイゴは銃を使わないので、ダイゴは任務期間中の食料や日用品を資材部に申請に行き、スバルとゆずは装備部に銃の申請に行く。カナタとダイゴの分のカードはまるっと弾薬に交換だ。その間、カナタはその他の荷物を準備し始める。倉庫から人数分の寝袋や毛布などの携行品を準備しておく。


 喰代博士はすでに準備万端整っているらしく、スーツケースを引っ張って来ていた。


 すでに何回も出ているため準備は早い。三十分とかからずに全員が詰め所に戻り、リュックなど背負っている。


「状況がどうなっているかは未知数だ。まず美浜集落によって情報を集めた後、劉さんの小屋か、神社か。状況で動く。問題は?」


「大丈夫だと思う」


 カナタの言葉にダイゴが返事をした。スバルにも異存はないようだ。喰代博士は後ろでニコニコしている。


 一抹の不安を感じながら、カナタは出発の号令をあげた。

 

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