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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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14-4

 蜘蛛型の背中から降りてきた花音は、カナタ達の所まで戻ってくると立ち止まって、にっこりと笑った。


「うん、よくやった。さすが花音」


 そんな花音に、ゆずが駆け寄って何か偉そうに言っている。ヒナタも走ってきて花音を後ろから抱きしめている。


「うん、きれいな居合だったよ」


 カナタがそう言うと、ゆずとヒナタに頭を撫でられてもみくちゃになっていた花音の背中を、ゆずが押した。急に押されてよろめきながらカナタの前に来た花音は、チラリと後ろを振り返るとゆずとヒナタの笑顔に促されたのか、カナタを見てもの欲しそうな顔をしてくる。


 それに苦笑しながらカナタは花音の頭に手を伸ばす。ゆずとヒナタに乱された髪の毛を整えるように撫でながら微笑む。


「ほんとに頑張ったね。花音ちゃん、お疲れ様」


 そう言うと、花音はにっこりと笑って頷いた。


「はい!」


 元気よくそう答えた花音の笑顔は、荒廃した世界に花が咲いたようだった。


 ◆◆◆◆


 蜘蛛型マザーが倒れた事によって、それを中心として形成されていたコロニーにも変化を及ぼしていた。蜘蛛型マザーに呼び寄せられていた感染者もその勢いをなくしていった。


「これで……最後っ!」


 そう口にしながら支給刀を振るった由良の一撃は、感染者の首筋を強く打って骨を砕いた。崩れ落ちる感染者にも目をくれずにアスカは、薄暗い路地に視線を向けた。

 さっきまではどれだけ倒しても、その路地の奥から姿を現していた。


 警戒しながら肩で息をしている由良の横を抜けて、そっと路地の方を確認しに行ったアスカが、しばらくしていった。


 「……後続、なし。クリヤーです」


 それを聞いた由良は、脚の力が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。しばらく警戒していたが、、もうやってこない事を確認したアスカは、大きく息を吐いて戻ってきた。


「お疲れ様、由良。もう大丈夫みたい。私たち、頑張ったよね」


 そう言いながら地面に座り込んだ由良に手を伸ばすアスカを見て、由良も安心したように笑った。


 「うん。アスカちゃんも……お疲れ様」


 アスカの手を借りながら立ち上がり、そう言って笑い合うアスカと由良を見て、スバルは腰をおろしてそのまま後ろに倒れこんだ。


「おわった~!しんどい、指示だけ出すのってめちゃくちゃしんどい。自分で動いていた方がましだわ」


 蜘蛛の毒をうけて、体がマヒしていたスバルは、喰代博士の治療をうけて何とか動ける程度には回復したが、戦闘に参加するのは難しかった。

その為、アスカと由良を後ろから見て、指示を出す役目に徹していた。


「ああああああ!」


 突然、そんな叫び声が聞こえてきて、スバルが慌てて上半身を起こして振り返った。その視線の先には、カナタを中心にゆずやヒナタがいて、スバルと同じようにして振り返っていた。

 近くにはカナタ達の所に行こうとしたのか、ダイゴやハルカの姿もある。みな呆然として同じ方向を見ていた。


 そこにあるのは、動かなくなった蜘蛛型マザーがいる。その蜘蛛型の背中で、喰代博士が頭を抱えていた。


 まだ本当に動かないのか、安全の確認もできていないのに、いつの間にか蜘蛛型マザーの背中に乗っている喰代博士に、そういえばそういう人だったな……。と、スバルも呆れて見るしかなかった。


「博士、危険です!蜘蛛型だけで動いたらどうすんですか」


 そう叫んだのは、蜘蛛型の背中を見上げているカナタだ。声が聞こえたのか、我に返ったのか。喰代博士はしゅんとした様子で蜘蛛型の背中から下りてくる。


「マザーが……もう溶けてしまってた。」


 下りてくるなりそう言って、がっかりした様子の博士は続けて話した。


「……蜘蛛型が動かなくなってから、私はすぐにマザーの本体がはえていた所に行ったんだ。でもそこにはスライム状の粘液があるばかりで、蜘蛛型の背中には穴も開いていなかった。一応その粘液も採取してはきたけど……多分粘液からは何の情報も得られないと思うし……」


 しょぼんとしてそう言う喰代博士に、カナタの頬がひくついた。


「だから、安全を確認してから動いてくださいってば!」


 博士と同行するようになって、これまでに何度行ったかわからない言葉を言うカナタを、「まぁまぁ……」と、なだめながらダイゴは思った。

 ――もう何を言っても無駄なんだろうな、と。


 


「……ホントだ。何もない」


 一応確認のために蜘蛛の背中に登ったヒナタが、マザーの本体があった所を見下ろして言った。そして嫌そうな顔をしながら、その粘液が流れていった途中に刺さっている刀を抜いた。

 マザーの本体の右目に刺していた「梅雪」も回収してきたが、そこにも乾いた粘液の跡しか残っていなかった。


「いったいどうなってるんだ?」


 一緒に登ってきたカナタは、足で粘液の跡を探っているが、周りと同じような蜘蛛の体表が見えるばかりだった。マザーの本体が埋まっていた痕跡もなければ、くっついていた痕跡もない。

 とりあえず、間違いなく蜘蛛型は活動を停止している事は確認できた、念のために何ヶ所か刀で刺し貫いてみたが反応する事もなかった。

 全員が集まる所に戻ったカナタは、それぞれの顔を見回しながら言った。


「蜘蛛型の死を確認した。……目標、クリアだ!」


 カナタがそう宣言すると、弛緩した空気が広がる。その場に座り込む者、隣の者と手を叩き合う者などがいるなか、一人が声をあげた。


「み、なさん。ありがとう、ございました」


 そう言って頭を下げたのは、宿儺……美鈴だった。


 花音が駆け寄って、肩に手を置いている。ハルカやアスカも花音に続いて声をかけている。


「絢香ちゃんは残念だったけど……」


 ハルカが視線を落としながら言うと、美鈴は首を振る。


「いい、え。絢香も、よろこ、でいると、思います」


 そう言うと、美鈴はカナタの方を向く。その顔を穏やかながら毅然としていた。


「たいちょ、さん。ありが、とうござ、ます」


 あらためてそう言って頭を下げる。


「いや……俺たちも君もできる事をやっただけだよ。色々と思う事はあるだろうけど、いけないのは君たちをそんな体にしてしまった佐久間達だ。君が気に病む必要はないからね」


 カナタはそう言ったが、美鈴は何も言わず寂しそうに微笑むだけだった。


「美鈴ちゃん……」


 花音が不安そうな顔で、見守っているなかで美鈴は言った。


「そ、言ってく、れてうれしい、です。でも……わたしはいては、いけないで、す。どうか、おねが、します」


 美鈴の言葉を聞いて、カナタも眉を落とした。自分はここにいてはいけない存在だと、そう言っているのだ。


「カナタさん!なんとかならないですか?美鈴ちゃん……可哀想すぎます」


 花音がすがるような目でそう言ってくる。その花音の肩に手を置いているハルカや、隣にいるアスカも言葉にはしないものの、同じ気持ちのようだ。


 そんな花音達を美鈴はとても嬉しそうに見ていた。そしてゆっくり花音に向かっていくと、ギュッと抱きしめた。


「ありが、と……花音ちゃ、と皆さんと会えてよか、った。でも、今の、わたしは宿儺、です」


 微笑んだまま美鈴が言うと、花音は顔をゆがめる。


「わたし、は……この姿でたくさん、の人を傷つけ、てきま、した。きっと……めいわく、かけます」


 宿儺の体では、出しにくい声で必死に言う姿を見て、誰もが口をつぐむ。

 さっきまでのマザー討伐の明るい雰囲気は、すっかり変わって、誰も声を出そうとしない。


 建物の間を冷たい風が通り抜けていく。宿儺として動いていた時は、恐怖からか大きく強そうに見えていたが、美鈴に戻った今は、隙間を通り抜ける風にでも飛ばされてしまいそうなくらいに弱々しく、か細く見えていた。

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