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5-6

それから、行きに比べると帰りは何事もなく集落に帰り着くことができた。それでもカナタ達の気も体もだいぶ重たかったが。

 集落入り口について、見張りの人は見た事がない人だったが挨拶すると、話がちゃんと行き届いているのか、すぐに門を開けて、ねぎらってくれる。みんな公民館に集まっている事を教えてくれたので、挨拶もそこそこに公民館へと向かう。


「おお!よく無事で戻ったね。アタシゃ鼻が高いよ」


 姿を見せた途端手放しで喜んでくれる松柴さんにあいまいな笑みで答え、隣に座る。報告すべきは多いし重要である。ちょうど今は都市の様子を撮った写真や、データなどをパソコンとプロジェクターを使って説明している所だったらしく、そのまま報告する。


「ええと……まず皆さんが心配されていた鍛冶師の劉さんにお会いしてきました。その……劉さんが言われるには山や自然が教えてくれて、自分たちの小屋は安全だから心配しなくていい。ありがとう。との事です」


 カナタがそう言うと、みんなぽかんとした顔になる。


「それは(てい)よく追い払われたってことかな?」


 権さんが苦笑いをしながら言う。


「いえ、そういう事ではなく、いたって真面目な話です。もちろんすぐに理解できないのは承知してます。俺たちだってそうでしたから。そこでもう一つ報告があって、これを見ればいくらか言っている事の証明になるかもしれません。そのために、どなたかスマホを充電できるものを持ってる人はいないでしょうか?

ゆずが、この子がスマホで重要な情報を撮影してくれてるんです。」


 そう言って近くのおじさんが持っていたケーブルを借り、ついでに松柴さんの使っていたPCとプロジェクターを使わせてもらい電力を供給させながら映像を流した。



 それから数分後、公民館内はお通夜のような空気に包まれていた。



「あ~、一応聞くが、これは本当の事なんだね?」


 未だに信じられないと言った様子の権さんがそう聞いてくる。


「はい、俺たちはこの目で見てきました。」


「こいつらは、集まってどうする気なんじゃ?」


「さすがにあんなんが来たら、ひとたまりもあんめえ」


 その言葉を皮切りに一気に周りが騒がしくなる。

これは……収集がつかなくなるかもしれない。そんな雰囲気だ。そんな時


「静かに!それを含めて話し合ってるんじゃろうが。」


 と、権さんの一言で一気に静かにった。その様子は仕切る事になれてるんだろうなと思わせる。きっといつも権さんが頭になって動いているんだろう。権さんはそのまま周りを見渡して言った。


「ちょうどいい、この兄ちゃんらは約束をはたして、情報まで持って来てくれた。約束通り吉良ンとこに行きたい者がいたらお願いするといい。わしらは止めんし、邪魔もしない。例え一緒に行く者の親族なんかが集落に残ったとしても、それが原因で邪険にしたりせんことも約束するし、向こうに行っても都合が悪かったらここに帰ってくればいい。これでどうじゃ?」


 と、最後は松柴さんに確認するように言った。松柴さんも「感謝するよ権さん」とほほ笑んで話している。


 とりあえずこの場では移住希望者の数と構成の確認をして、都市で受け入れの準備をしつつ改めて迎えに来ることになった。カナタたちが乗ってきたワンボックスカーでは乗れてあと二〜三人程度だ。


 「すまんがよろしく頼むぞ吉良」


 「任せときな!そっちこそ、やばいもんがおるかららしいの、間違えても死ぬんじゃないぞ」


 権さんと松柴さんが握手してこの場はお開きとなった。いろいろと問題は残っている気がするが、とりあえずはよかったかな。


「さて、忙しくなりそうだしさっさとNo.4へ帰ろうかね。アンタ達もご苦労だったね。だがそのおかげで、たくさんの人の救出ができ、感染者の新しい情報もある。これでアンタ達を守備隊に推薦しても文句つけるやつはおらんじゃろう。ん?」


 そこまで言うと松柴さんはカナタの後ろに隠れるようにしているゆずに気づく。


「お前さんがゆずちゃんかい。話はカナタから聞いてるよ。お父さんは残念だったね。でも、今から行くとこにはゆずちゃんみたいに親がいない子供を預かるところがあってね。心配はいらないよ、同じような子が沢山いるし、きっとすぐに友達になれるじゃろう。ご飯や寝るところも、時々でるおやつまでこのばあちゃんが保証するよ」


 あえてだろう、明るく松柴さんが言う。こんな世界になり、孤児になってしまう子供は多い。都市として管理する孤児院がNo.4にはきちんとあるのだ。

それに対し、ゆずは真っ直ぐ松柴さんを見ると言った。


「おばあちゃん、ありがと。でも、私は大丈夫。カナタが一緒にいる。そういう約束」


 ゆずがそう言うと、ぎろっと松柴さんの目がカナタを捉える。


「ほおおん?カナタ。アンタ、何を吹き込んだんだい?ずいぶんと懐いてるみたいじゃないか。一緒は構わないが、まさかあんた……そういう趣味をもってんじゃ……」


「わあわあわあ!何てこと言うんですかゆずの前で!違いますよ。色々あって俺が守るって約束したんですよ」


「少し、違う。守らせてほしい。そう言った」


 慌てて弁解する横からゆずがすかさず追加の情報をよこす。


「………………」


「へえ~、ずいぶん男前な事言って口説いてんだね。」


 射抜くような松柴さんの視線が段々と冷えていく。

 

 「そばにいてほしい、って、いわれた。」


 「ゆずさん!?そ、そのへんで……」


「カナタや、ちょっとこっちこようか。アタシとお話しようじゃないか」


 カナタが強制連行されようとした時、小さく、でもハッキリとゆずが言う。

 

「嬉しかった……私は、一人。もう誰もいない。そう思った。でも、カナタがいるって、言った。ずっと手も繋いで、くれてた」


 そう言いながら、ゆずはカナタとずっとつないでいた右手を大事な物のように見ている。


「…………ふん。カナタ、アンタこの子をちゃんと幸せにする覚悟はあるんだろうね」


「っ!……それは……正直言うとわかりません。俺は妹ともうまくやれてなかったから……でも努力はします!」


「アンタそんなんで一人の人間を…………まあ、いいさね。何か悩むことがあったらアタシんとこ来な。孤児院でもいいよ。伝えとく」


 そう言うとゆずにも自分の連絡先を教え、いつでも話に来ていいと伝えると、松柴は帰り支度をはじめるのだった。


 あらためてカナタは、ゆずを連れてきた事に対する責任を感じていた。松柴さんの言うように犬や猫とは違う。

もしかしたらちゃんとした施設にお願いした方がいいのかもしれない。

 しかし、助けた事に後悔はないし、決してその場しのぎで言ったつもりもない。うまくやれるかどうかはわからないが、やれるだけやろう。ゆずがそこにいたいと言う限りは…


 そう考えながらゆずを見ると、相変わらずの無表情に若干の笑顔が混じってる気がした。



 それからカナタ達はNO.4へと戻った。

 持ち帰った情報は上層部を大分騒がせ、会議は紛糾したそうだが、とりあえず今のところは近くにはいないので、様子を見る事になったそうだ。

 ただ、無線を美浜集落に設置して定期的な連絡を取り合う事と感染者に対して調査を専門的に行う部門が新たに作られたくらいか。


 カナタ達は実力が認められて都市守備隊に入り、第十一番隊とされた。もちろん今までの仲間も一緒だ。No.4において奇数番号の部隊は防衛、偶数番号の部隊は攻略と分かれている。カナタ達の十一番隊は奇数なので防衛が主な仕事だ。


 ただ…………カナタ達が戻った時、ハルカは六番隊に入隊して活動していた。あのイケメン部隊長の隊だ。

 どうしてそうなったのか事情はわからない。あれから会えてないからだ。攻略隊は領域の拡大の為にしょっちゅう都市外に出ているという事もある。

 橘さんが酷く申し訳なさそうにしていたが、深くは聞かなかった。

 何があったか知らないがハルカにはハルカの考えがあってやった事だろう。何も言わずにというのが引っかかるし、スバルやダイゴも何か言いたそうではあったが……それも今度会った時に話せるだろう。


 それから忙しい日々が始まった。No.4では、人間が住む領域を広げるため、守備隊が動いている。エリアを定め、まず攻略隊が感染者を倒すか追い払う。その後守備隊が安全の確認と物資の探索をして、車などそこにあるものはなんでも利用して壁を作る。

 そうして完全に安全とみなされたら、都市から住人がエリアに移ってくる。


 住人が住んで動き出したエリアは都市を中心にして番地ををふられて区別されるのだ。


 それを繰り返し、時には都市外の略奪者の集団の襲撃などもありながら、いつのまにか二年の月日が過ぎていた。

読んでいただいてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします!

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