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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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11-5

そして奥の方からそれはやってきた。他の者と同じ警官の制服を着ているが、他とは大きく違い、体の半分に至るまで血で汚れている。

 感染者だ。ただ見た目は他の感染者とそう変わりはない。


「花音ちゃん、まず私が軽く当たってみるから、援護お願い」


 ハルカはそう言い残して風のように廊下を駆けた。そしてそのままの勢いで刀を振るった。


 ぎゃりん!


 「!」


――音がおかしい。手応えも硬すぎる。


 異常を感じ、ハルカは思い切り後ろに向かって飛んだ。そのすぐ後に感染者の大振りな攻撃がハルカの頭があった場所を通り過ぎた。

 ハルカの攻撃など全く気にもせずに攻撃してきたという事だ。


「硬すぎる……何か着込んでるようには見えないけど」


 いくら痛みを感じない感染者とはいえど、強力な攻撃を受ければ後ずさったり、体勢を崩したりはする。目の前の感染者はハルカの走りこんだ勢いまで乗せた斬撃を受けても全く動じていなかった。


 ハルカは感染者から目を離さないように、そっと「晴香」の刃を確認する。


 ――よかった……欠けはない。こんなとこで欠けちゃったりしたら研ぎもできないもの。


 ハルカはしばし考えて、刀を持ち替えた。すなわち峰打ちの持ち方に。


「どうせ斬れないならこっちのほうが……花音ちゃん、支給刀だと多分ひとたまりもないわよ。それくらい硬かった」


 後ろを見ずにそう声をかけると、ハルカと同じように持ち替えた音がした。そうしている間にも感染者は一歩ずつ確実に近づいて来ている。


「ハルカくん!のどだ。感染体が巣食う場所までは変えられないはずだ」


 突然足音が聞こえたと思うと、聞きなじみのある声が聞こえる。


「ありがとうございます博士。花音ちゃん……危険だけどお願いできる?」


「はい」


 多くは語らなくても通じ合うものがあった。花音のような少女に人型の者を斬らせることは今だにためらいがあるが、花音のほうがしっかり割りきって覚悟をしていた。


「行くよ」


 そう言い残し、再びハルカは駆けた。近づいてくる感染者にあっという間に肉薄すると、目にも止まらない二連撃を入れる。


「がああぁ!」


 そこで初めて感染者が反応を見せた。すぐ近くにきたハルカに食らいつかんと大きく口を開ける。


「やあっ!」


 そこにかわいらしい気合の声が響いた。花音が手本とするとして十一番隊で突きがうまいのはハルカだ。


 花音が見せた突きはまるで、昔の自分を見ているようだ。とハルカは見入っていた。


 ハルカの背中に隠れ、一緒に接近していた花音は、二連撃の後で横に動いたハルカの影から一気に飛び出していた。そして狙いを過たず花音の支給刀の先端がのどに吸い込まれるように突き刺さっていた。


 ずぶりと突き刺さったまま、花音は手首をひねった。その瞬間、びくりと体を痙攣させた感染者はハルカに向かって伸ばしていた手を弛緩させ、膝から崩れ落ちた。


「やあ、お見事だね。普通の奴らと比べたらずっと硬いと思うけど」


 途中から歩いてきていた喰代博士がそう言って、倒れている感染者を観察する。


「ハルカお姉さん……刀、抜けなくなっちゃった」


 花音が少し落ち込んだ様子でハルカに言う。ハルカも試してみたが、三分の一ほど埋まった花音の支給刀は押しても引いても動かなくなっていた。


「感染体の影響で起きてなかった硬直が一気に来たのかもしれないね。ほら、関節もがちがちだ……」


 喰代博士が言いながら腕を動かすが、さっきまでスムーズに動いていた腕はまるでコンクリートか何かでできているみたいに固まってしまってる。


「あぶない!」


 その時廊下の向こうから誰かが叫んだ。素早く反応したハルカは喰代博士を抱えて壁際に、花音は床に伏せて感染者を盾にした。


 タン!タン!


 連続で拳銃の発砲音が廊下に響く。素早く仲間を見渡したハルカは、誰にも当たっていない事を見てホッとする。そして音のした方を見る。


 そこには警官が持っている拳銃を震えながら両手で持って、弾切れしているにも関わらず引き金を引き続ける男がいた。


「署長……」


 蔑みを含んだ声音でそう呼んだのは、危険を知らせてくれた酒井だ。スバルやアスカに守られてここまで来たようだ。


「な、なんで化け物が倒されてるんだ……こいつは無敵だったはずだ。銃弾も跳ね返すんだぞ……」


 信じられないという感じで今だにカチカチと引き金を引きながら署長と呼ばれた男は愕然としている。


「あなた達がこれまで踏みつけてきた人の気持ちがこもってるからよ。」


 ハルカがそう言って睨みながら立ち上がる。


 それを見て署長は小さく「ひいっ!」と声をあげて後ろに下がりだす。しかし廊下は突き当り、すぐに背中が当たり署長は今までいたと思われる部屋に逃げ込んだ。


「あの部屋は?」


 ハルカが近くまで来た酒井に聞くと、酒井は花音に手を貸しながら答えた。


「あそこは館長室です。あそこに逃げ込んでもどこにも行けないのに……」


 わずかに憐みを含んだ声でそう言うと、助け起こした花音に細長い包みを手渡した。


「え?あの……これは?」


「お礼と……贖罪かしら。私はこれまで非道な事を行ってきた奴らと共に生きてきた。警官の姿に安心してここに逃げ込んできた避難民から奪ったものを食べて……私も同罪なのよ。その刀は私が隠していたうちの一本なの。無銘だけどおじいちゃんが手に入れてきたものよ。花音ちゃんに貰ってくれないかって思って」


 そう言う酒井に花音は驚きを隠せない顔で言った。


「そんな!そんな大事な物……貰えません!それに、私まだ半人前だから、きっと刀を痛めると思います」


 そう言って受け取ろうとしない花音に、酒井はますます強く押しつけた。


「そんな花音ちゃんだから貰ってほしいの。それに今まで使ってた刀……もう使えないでしょ?」


「う……それを言われると」


 言い返せなくなった花音に優しく微笑むと酒井は刀が入っている包みを解いた。中から現れたのはやや短めの脇差だろうか。装飾はほとんどなく、武骨な(つば)(こじり)だけが金属でできている。差し出された刀を手に取ってみると、不思議なほどに手に馴染む事に花音は驚いた。


「花音ちゃん、とりあえず使わせてもらいなさい。せっかくの申し出だし、まだ何が出てくるか分からないわ」


 ハルカにもそう言われ、花音は酒井が差し出す刀を受け取って腰に帯びた。


 ――すごくしっくりくる。私ようにあつらえたみたいに……


 そっと鞘を払ってみると、驚きで花音は息を飲んだ。

 


 

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