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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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10-4

 「カナタ君!見てこれ!いいもの見つけた。絶対持って帰る!」


 満面の笑顔で言うゆずにカナタは思わず頭を抱えた。


「そんなもんどうやって運ぶんだ……いいから、拾った所に返してきなさい。なんでも拾ってくるんじゃありません」


 まるで捨て犬を拾って来た子供に対して言うような事を言うカナタにゆずは頬を膨らませる。


「そんな!カナタ君、ちょっと撃ってみる。そしたら良さがわかる。さあ!」


「さあ!じゃないよ……俺はその沼に、はまるつもりはありません。どうせそんなに派手に撃ったんだ。弾もそんなにないんだろ?」


 どんなに銃が素晴らしくても弾丸がないと、ただの鉄の塊にすぎない。しかし予想に反して、ゆずはニヤリと笑った。


 その間にも、ゆずは廊下の向こうに何かが動くものがあれば、即座に撃っている。いい加減近くにいると、耳と頭がおかしくなりそうだ。


「ふふん。カナタ君これを見る。」


 そう言ってゆずが金属製の箱をこっちに滑らせた。いかにも軍用ですという感じの箱には危険という意味合いの単語があちこちに書かれている。

 ふたを開けると、冗談みたいなサイズの弾丸が帯のようなものでまとめられてきれいに収められていた。


「残弾数は百発以上ある。ふふふ……まさかM2を撃てる日が来るなんて!」


「あ、あー。なんて言うか、楽しそうで何よりだよ」


 皮肉気にカナタが言うが、上機嫌のゆずには全く通じない。


「カナタ君聞いてほしい!。このM2の弾、12.7mm……ベルトからはずせばへカートでも使える。悩ましい、すごく悩ましい……」


 そう言いながら弾の入った箱を悲しそうにゆずは見つめる。


 「え、そんならこんなバカスカ撃たないで取っておいたほうがいいじゃないか!」


 そう言ったカナタをゆずはとても悲しそうな目で見る。そして言った。


「……M2も撃ちたい」


「もう好きにしてください!」


「じゃあ持って帰っても……」


「それはダメ!」


「うう……」


 ゆずはしおらしい態度をしているが、この間も射撃は続けている。


「わかった……確かにカナタ君が言うように、この子は持ち運びには適してない。……諦める。」


 しばらくのやり取りを経て、ようやくゆずが諦めてくれた。ほんとにどうしようかと思った。車でもあれば別だけど、こんなもん担いで行けるわけがないのだ。


「カナタ君、お願いがある。……その弾薬箱の中からへカートで使う分だけ取っておいてほしい。残りを撃ちきってこの子とのお別れにしたい」


「わかったわかった、で?何発とっとく」


「…………」


「ゆず?」


「……カナタ君に任せたい。へカートのためにたくさん残したい気持ちはある。でもそうしたらこの子で撃つ弾が減る……ああ!まるで身を引き裂かれるような思いをしている!」


そう言うゆずにカナタはは盛大に顔を引き攣らせる。


 M2の弾丸の口径は12.7mm。射程距離は2000m以上あるのだ。そんな弾を至近距離で受ければ人間の体なんか簡単に引きちぎれる。

 

「だいじょぶ、人間はほとんど撃ってない。私が撃ってるのは感染者」


 そう言うゆずにカナタは眉を寄せる。正直怖くて、ゆずが撃つ先をはっきりと見ていなかったのだが……

 そっと廊下の角から先を見ると、突き当たり右手が派手に破壊されていた。


 ゆずがやったわけではなく、跡から多分宿儺が通ったと推測できる。

 

「なるほど感染者を売ってたのか……ちょっとだけ安心したけど、撃たれた感染者が物理的に身を引き裂かれてるけどな……」


 じとりとゆずを見ると、てへ!と返されて脱力した。


「……ここにマザーでもいればもっと有効に……カナタくん、ちょっと行ってその辺からマザーを……」

 

「連れてきません!じゃあ、60発とっとくから。ほら、残りはとっとと撃ってしまえ!」

 

 ちょうど弾が切れた所だったので、カナタが帯を切って残った分をゆずの方に渡す。


「ん、わかった!」


 ゆずは機嫌良く頷いて、カナタからベルト式の弾の先端をを受け取る。M2はベルト給弾なので、弾が連なっている先端を決まった部分に置いては小型の蓋を閉じる。そして重そうなコッキングレバーを引いて、ハンドルのボタンを押せば弾が出る。

 ハンヴィーの銃架に据え付けられているので、反動もほとんどなく、小柄なゆずでもフルオート射撃ができる。


 ドドドド……


 激しい銃声と共に、ベルト式の弾丸がどんどんM2に飲み込まれていく。向こうにしたらたまったもんじゃないだろう。

 正しく運用できたらどれだけ行動が楽になるかわからないが、車も動かない今では……たとえ山ほど弾があっても持ち歩くのは現実的じゃないしな。


 音と振動が鳴り止んだ時には、その先の廊下に動くものは何もいなかった。

 残念ながら、宿儺はこの基地を貫いて移動していったようで、ここで捉える事はできなかった。

 

幹部棟は宿儺に荒らされた後に、感染者の集団に入られたようで、生きている人間の確認は取れなかった。



「よーし、ここさえ塞いでしまえばもう大丈夫だ。」


 感染者も友愛の構成員も残っていない事を確認した上で、宿儺が通った跡を避難民と共に修復している。そこさえ頑丈に塞いでおけば一般人でも立てこもれるくらいはできるだろう。


「まぁ、問題は食料とかをどうするかだが……あとはこちらの問題だ。なんとかするよ」


 避難民達に指示をだしていた二宮が笑顔を見せてそう言った。

 二宮は基地の修復をカナタ達に任せっきりにはしないで、避難民達に動かせてやる事で、自分達の力で生きていく事をしっかりと考えさせる事ができた。と、嬉しそうにしていた。


 避難民の中には、絶望で生きる気力を無くしていたり、他人に依存してしまって自分で動こうとしない連中が半分以上になってしまっていたらしい。

 今回、宿儺の襲撃からカナタ達による解放までのトラブルを使って、少しずつだが払拭していっているとの事だ。


「それもこれも君たちのおかげだよ。ありがとう」


 作業で埃まみれになった姿で二宮は頭を下げる。その横には二宮をサポートするポジションに収まった竹中の姿もあった。


「私たちは君たちみたいに、戦う事はできないが……この基地を利用して何とか生き延びる方法をもう一度考えてみるよ。」


 今、この駐屯地は二宮や竹中を中心にした十人ほどのメンバーが他の避難民達に指示を出しながら動くようになっていた。

 武器や食料が心許ない事はどうしようもないが、物資の不足よりも避難民達の心が折れてしまっていた事のほうが深刻だったという。


「少しでも皆さんのやる気に火をつける事が出来たのなら、俺たちも嬉しいです。」


 カナタがそう言うと、二宮は笑顔で何度も頷いた。


「実はですね、花音ちゃんみたいな子がやってる事を大のおとなが出来なくてどうするんだ!って二宮さんの一喝がだいぶ効いたみたいなんですよ」


 少し楽しそうに竹中が言うと、二宮と花音がそれぞれ恥ずかしそうにしていた。


「間違った事を言ったつもりはないぞ?……君たちは絢香ちゃん達……宿儺を追うんだろ?」


 宿儺の話になると、真剣な顔になった二宮はそう聞いてきた。

 その問いに、カナタだけではなく花音をはじめとした全員がそれぞれ頷いて返している。


 それを見渡して、ニコリと微笑んだ二宮は、グッと拳を握りしめて言う。


「私たちがここを守っている。食料などの物資もできる限り集めよう。何かあったらここに戻ってくるんだ。ここは君たちが解放してくれたんだからね?安全を最優先に、絶対に生き延びてほしい。」


 そう語った二宮の表情は真剣そのもので、強い決意を感じた。


「ありがとうございます。……頼らせてもらいますよ」


 そう言ってカナタは手を差し出す。

 その手を二宮はしっかりと握り、その上から竹中が自分の手を乗せた。


 こんな頼るところもない、敵地のど真ん中と言ってもいい場所で、逃げ込める場所があると言う事は心強い。

 一般人だけでこの場所を、守って維持していく事は簡単な事じゃないだろう。


 ただ、なんとなくうまくいくような……そんな予感がしていた。

 

 

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