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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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10-3

戦う覚悟をする。それは意外に難しい事だ。

 人は無意識に自分が傷つく事も人を傷つける事も忌避する。


 それだけに戦う覚悟をした人の強さを知っている。

 暴徒の類のように、数と力に溺れて強くなった気になっているだけの連中とは違う。


「……わかりました。ですが、あまり前には出ないで下さいね。僕たちは一応厳しい訓練を経てここに立ってます。」


 そのカナタの言葉に、少しだけ笑って竹中は言った。


「勿論だよ。君達の邪魔になる様な事は極力しないつもりだ。これは僕のただの意地だからね」


 カナタは結婚していないし、当然子供もいない。いないが親が子供を大事にするということは知っている。

 その子供を害されようとしていた親の気持ちなど、本当の意味ではカナタに理解できるはずもない。


 目の前には大きな両開きの扉がある。そこから先は明確に雰囲気が違うから、そこが一般と幹部棟との境なのだろう。

 そして扉の向こうに慌ただしく動く人影が見えた。


 カナタ達の接近に対して迎撃の体制をとっているのだろうが……


「今頃かよ……」


 スバルが呆れた顔をするのは無理もない。カナタ達がこの駐屯地に入ってから結構な時間が経っている。

 全く急いではいなかったし、途中避難民のところに寄っていたのだから。


 本来なら準備万端で構えているくらいの時間はあったはずなのに……


 バタバタと慌ただしく動きながら、武器弾薬を運んでいる姿も見える。


「まぁ、所詮はシロウトって事でしょ?それにああいう連中って、自分達が襲う事は考えられても、逆に攻めてこられるって事は考えてもいなかったんじゃない?」


 クルクルと毛先をいじりながらハルカが言った。同じく呆れた表情を隠そうともしていないが……


「待ってやる義理はないな。一気に行くか。ダイゴ、スバル。あの扉どうにかできるか?」


 そう聞くと、ダイゴはにっこりと笑う。


「任せてよ!行くよスバルくん!」


 そう言ってダイゴは駆け出した。少し遅れてスバルが続く。


 扉に取り付いた二人は取手と蝶番を調べて、ダイゴが振り返ってサムズアップして見せた。


「行けるみたいだ。由良、援護頼むぞ?」


 カナタが一番後ろで大人しくしている由良にそう言うと、由良は言いにくそうに口を開いた。


「あ、あのぅ……カナタさん」


「ん?どうかしたのか?」


「それが、その……なんと言えばいいか、私の持っている弾は奪われまして……全く残ってません」


 申し訳なさそうに言う由良に、カナタの顔がひきつる。嫌な予感しかしない。


「もしかして……」


「はい、ゆずさんが全弾撃ち尽くしました。」


 シュンとしてそう言う由良にカナタは逆に謝る。


「悪い……ゆずが迷惑をかけたな。今度からよこせって言われても渡さなくていいから。俺の許可がいるとかなんとでも言っていいから。あいつ、由良がいれば二人分撃てるとかふざけた事考えてそうだし……」


「あはは……善処します」


「とりあえずダイゴと一緒に竹中さんのガードに回ってくれ。支給刀は?」


「了解しました。支給刀の方は替え刃もあります。慣れてないだけで」


 由良はそう言いながら荷物の中から筒に入った支給刀を取り出した。

 使った形跡のない支給刀は新品のようだが、無理に使う必要はない。念の為だ。

 そう伝えて、前に戻る。


 それと同じくしてダイゴがカギをこじ開けた。


 その瞬間、廊下の向こうから射撃音と鉄の扉に当たった激しい音が響く。ダイゴが慌ててその場から飛び退くが、幸い鉄の扉を貫通するほどではなさそうだ。


 ダイゴがそっと窓から覗いて、指で数を示してくれた。


「扉の向こうに七~八人。すべて銃持ち。ちょっとまずいな」


 扉の向こうは、それほど長くはないがまっすぐな廊下だ。身を隠すところもない。そのまま進めばいい的にされてしまう。

 こういう時こそ銃の援護射撃が必要なのに……。


 弾切れの瞬間を狙おうにも、相手も慣れているのかきちんとマガジン交換のタイミングはずらしている。


「くそっ!」


 思わず毒づいていると、遠くから聞きなれない音が近づいてくることに気付いた。


「え?」


「おい、これって……」


 近くにいたスバルとダイゴも気づいたようだ。聞きなれないと言うと語弊があるよな。ここ最近は、という言葉が最初に着

付くだけだ。


 廊下の向こうで俺たちの足止めをしている奴らもそれに気づいて動揺しているようだ。何か言い合っている。


「ねえ、カナタ君。この音、廊下の向こうから聞こえてこない?」


 ダイゴが耳をその方向に向けながら言ってくる。確かにこの音……エンジンだな。ガソリンなどを使って動く内燃機関。ここ数年聞いてなかった音が、廊下の向こう……俺たちから見れば右側から近づいてくる。


「竹中さん、あの廊下……右の方に行くと何があるかわかりますか?」


 カナタが聞くと、竹中は首をひねって考える。


「なにしろ、私たちはあの棟には入れなかったので……でも方向的に外に出るんじゃないかと……」


 じゃあ、このエンジンがついてる何かは外からやってきた?


「いえ、外部には通じていないはずです。演習場といいますか……外部とは隔離された場所があるんですよ」


 竹中がそう説明してくれる。その間にもエンジン音は近づいてきて、廊下の向こう側にいる友愛の構成員たちの慌て方もひどくなっていく。


「今がチャンスか?」


 そう思ったが、このエンジン音の正体が分からない事には動きにくい。カナタが迷っているうちにもエンジン音はさらに近づき、分厚いガラスを突き破ったような音をさせた。そして激しいブレーキ音。


 友愛の構成員たちが慌てて逃げて行く。


 ドドドドドド!!


 そこにこれまで聞いたことのないような重い銃声が響き、構成員たちどころかその周りの壁までえぐっている。そしてようやくその姿を見せた。


「……なんとなく嫌な予感はしてたんだ。」


 なんだか頭痛がしてきたような気がした。頭を抱える。


「なんだあれ……ジープ?」


 さっきまで、ここが銃弾の飛び交う場所だったのも忘れ、立ち尽くしてそれを見ていた。


「あー!ダンゴさん、こんなとこおったんか!よかった探したで!」


「姉さん!」


 こっちを見るなり、そう叫んで車から飛び降りてくる二人の少女。


 ゆず達についているはずの伊織と詩織だ。という事はあれに乗っているのは……


 「あの車はハンヴィーじゃないか……それと、ブローニングM2……ハハハ……なんでそんなもんがここに……」


 ミリタリーに興味があったスバルにはすぐにわかったようだ。ハンヴィーは時折すごい音を出す機関銃をうちながらゆっくり前進して……停まった。


 ドドドという腹に響く音を出してハンヴィーの荷台についている銃架に据え付けられたごつい機関銃には、輝くような笑顔のゆずが制圧射撃を行っていた……


 運転席から転がるように降りてこっちに走ってくるのは喰代博士。ゆずが威嚇するように射撃をする時を狙って、頭を低くして駆けてきた。


「いやー。まさかあんなものを運転する機会に恵まれるとは思わなかったね!」


 カナタ達の所まで来た博士は、とても清々しそうな顔をしてそう言った。


「とにかく、話は後です。せっかくゆずが押し込んでるんだ、前進しよう!」


 半分くらいの人がついていけてない顔をしているが、慣れているスバルやダイゴ、ハルカが誘導して廊下の途中で斜めに停まっているハンヴィーの所まで走った。


「カナタ君!見てこれ!いいもの見つけた。絶対持って帰る!」


 そこにはごつい機関銃にほおずりしそうなゆずが、満面の笑顔でいた。

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