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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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9-4.5 喰代博士の憂鬱

カナタ達の裏側、喰代博士の短編です。思い付きで書いたので読みにくいかも・・・

私は喰代凛子。№4に所属している感染者研究所の所長と言う立場の者だ。№都市のなかでは、もっとも感染者について詳しいデータを持っていると自負していたが……


 手元の資料を覗き込む。ここで研究をしていた者の残した書類だ。


 ――感染者。いまだによく分からない存在だ。映画風に言えばゾンビだが、その正体は感染体と名付けたウイルスのような生物が引き起こしている。ただ、既存のウイルスやバクテリヤ、菌類など。どれと比較しても異様という言葉に行きつく。変容の速度が速すぎるのだ。感染者の唾液や血液に存在し、主に噛みつくことで感染を広げる。


 初期の頃には感染者は人間の根源的な欲求である食欲だけが残っており、飢餓を感じて人間を食料と見て襲うのだと言われていたが、すぐにその説は消えた。彼らは生きている人間に対し集団で襲い掛かる。我先に噛みつくのに残った遺体はそこまで破壊されていない。これは感染者が食事を目的として人を襲うのではない事を示している。

 そうでなければ多数の感染者に囲まれて噛まれた者はもっと損壊しているはずだ。


 感染者は感染を拡げる事を目的として、生きている人間……というよりも感染していない人間に対して襲い掛かるのだ。


「そんな事はわかってるんだよなぁ、もっと目玉が飛び出るような内容はないもんかねえ」


 そう独り言ちながら机や棚、書類の束が収めてあるところをかたっぱしから読み漁る。


「こうしてみるとパソコンって便利だよね……おや?」


 ――両面宿儺。由来は誰かが冗談で言った都市伝説的な話から。これまで「救世主様」としてよりインパクトのある個体を作ろうとしてきたが、今回の計画はうまくいけば将来的に語り継がれるモチーフとなりえるだろう。二人の人間の体を融合させ、二面四臂の姿はまるで明王などの姿を彷彿とさせる。人類では拒否反応があるからできないが、異常な治癒力とすでに肉体的には死を迎えている感染者ならできるはず。


 だめだ、感染者同士の相性があるのか、融合させた瞬間から崩壊がはじまる。


「日付は……結構前からやっていたのか。ていうかそんなもん作り出してどうするつもりだったんだろうね」


 頭をかきながら喰代は書類の山を見渡す。紙媒体で実験の詳細なデータを残そうとすればどうしてもこうなる。喰代の研究施設でも大きな問題になっている。


「ん?」


 手当たり次第に書類を見ていると、抑えた足音が近づいてくることに気付いた。


「まさか、どこかに隠れていたというオチはやめてよ?」


 そう言いながら懐に手を差し込む。小型のハンドガン。護身用に持たされているが、こんなもので感染者から逃げ延びれるわけがない。

 ……脅しくらいにはなるといいなぁ。そう考えながら足音が聞こえる方に進んで、物陰に身を隠す。


 やがて足音と共にライトらしき明かりも近づいてきて、その姿が見えてくる。


「ふう……、なあんだヒナタちゃんかい。頼むから脅かさないでくれよ」


 姿を現したのは、通路の先で休息をとってるはずのヒナタだった。


「あ、ごめんなさい。脅かすつもりは……」


「ああ、いやそれは分かってるんだけどね?どうかしたのかい」


 喰代は拳銃のセーフティをかけて懐にしまいながら聞いた。一応聞いてみたが目的は察している。手に持つケトルとカップ。インスタントコーヒーのスティックを持っているからだ。


「少し目がさえちゃって……見張りの時間までもう少しあるし、どうしようかなって思ってたらこっちから物音が聞こえてきたんで。博士……ちゃんと休んでますか?」


 心配そうに喰代を見るヒナタは、ごみ溜めみたいになってしまった世の中に降臨した天使のような性格をしている。そんな人間はすぐに死んでいったが、ヒナタは特殊で、天使の中身を持った修羅とでも言えばいいか。一度(ひとたび)刀を手に敵対する者の前に立てば、やさしい性格からは想像もつかないほどの苛烈な技術を身に着けている。


 心配そうに喰代の身を案じるヒナタは今は天使のほうらしい。


「私は君たちと違って、感染者相手に刀を振り回したり、ゆずちゃんみたいに精密な狙撃をしたりはできないからね。普段お荷物な分、こういう時には頑張らないといけないからね」


 そう言って笑うと、ヒナタは何も言わずにコーヒーの準備をしだした。お湯を入れると喰代の前にそっと置く。


「博士の言う事もわかりますけど、無理はしないでくださいね。コーヒーだけしかなかったんですけど、よかったら」


「ありがとう。頂くよ。ヒナタちゃんも明日もあるんだから休まないとだめだよ?」


 喰代がそう言うとヒナタはかるく微笑んで、その場を後にした。本当に優しい子だ……。こんな状況で人の事を気遣える人間がどれくらい生き残っているだろうか。


 コーヒーを一口飲むと、微かな甘さと苦みがちょうどよく、疲れた頭をクリアにしてくれるようだ。さて、あんないい子が少しでも楽に動けるようにしないとね。わたしは情報面でしかサポートできないから。


 コーヒーを飲みながらこの場所で研究されていた事を、概要だけ頭に叩き込む。それらが組み合わさると答えが浮かび上がってきたり、目的が分かったりするのだ。


 それから一時間ほど喰代は書類から読み取ったデータをまとめていた。ヒナタが入れてくれたコーヒーもすっかり冷めて、最後の一口を名残惜しそうに喉に流し込む。


 今見てるのは感染が始まったごく初期のデータだ。どこで最初に発見されたとか、最初の被害者の様子とか意外と詳細なデータが残っている。

 

 都市部に多く発現しているね……。単に人口密度の差なのか、意図的なものなのか。資料では、最初の個体は、都市部にほとんど同時と言っていいくらいの差で現れている。もしこのパニックが人為的なものであれば、国家が主導したとしても無理な話だ。

 

「誰が何のために?いや、そんなの分かりきってるか。もし誰かが狙って起こした事態なら、そいつは自分を含めた滅亡を望んでいるとしか思えない。このデータでもこのパニックから逃れている地域はないからね。とすれば自然発生的なものになるんだけど……うーん」


 感染者、特に両面宿儺のデータを調べていたはずの喰代が、なぜいまさらそんな事を考えているのか。逃避ではない。ここに残ったデータによると実験は成功していないはずだった。

 しかし宿儺は存在した。なぜかというとここで佐久間が関わってくる。それまではどんな実験を繰り返しても成功しなかった試みは、佐久間がここにやってきてから、二日ほどで成功させている。

 もちろんそれまでの土台ができていたからこそだろうが、決定的な部分は佐久間が行ったとされていて、そのデータはのこっていなかった。


「データを取っていなかったか、佐久間が持ち去ったか……。あの男誰も信用してなさそうだったからねぇ。くそう」


 テーブルの上に山となっていた書類を机から払い落とした。決定的な部分がないなら意味がない。


「これじゃあ、何のためにここにいるんだか……。」


 ぽつりとつぶやいた言葉は、重く沈んでいく。戦闘ではお荷物でしかない自分が、守られながら同行したのは、こういう時に答えを導き出すためではないか。両面宿儺……。まだ若い少女だった。ハルカくんたちの話によれば仲のいい姉妹で、姉の方が先天的に感染しない体質だったらしい。おそらく佐久間は、そこをうまく利用したに違いないのだ。そこまではわかる。だけど何をどうしたのかがわからないしデータもない。


 喰代は机の上に置いた手をぎゅっと握りしめる。今のままではハルカ達にも、犠牲になった少女達にも悲しい結末しか残されていない。


「はあ……なんとか解決法を探してあげたかったんだけどなあ」


 もうタイムリミットだ。外からは小鳥の鳴き声が聞こえだして、部屋の中もどんどん明るくなっている。


 床に散らばった資料に目を落とす。概要しか見ていないけど重要な見落としなどはないはずだ。……もう一度見返しても結果はかわらないだろうし、もうその時間もない。


「うん?」


 データの入っていた引き出しの奥にくたびれたノートがある。わずかな期待をこめて開いてみて、すぐに失望した。データとも言えない、ただの妄想を書いた推論をまとめたものだった。

 

「はあ……」


 もう一度深いため息をついて、喰代は立ち上がった。資料と共に感染体のサンプルがあったので、それを使って感染の逆作用をする薬品を作りはした。ただ、相当量を体内に入れないと効果がないし、動いている感染者に注射器を指すことなど無理な話だ。


「これはまたゆずくん行きだな……」


 以前マザーの細胞を使って即興で組織を崩壊させる弾頭を作った事がある。あのときはまぐれが大きかったが……。


「ゆずくんの持ってるごつい弾に仕込んだら効果があるかもしれないね」


 せめてそれくらいは作ろうと、だいぶ眠気が襲ってきている頭を振って、実験室になっている部屋に重い足を引きずりながら移動するのだった。


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