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8-8

8-8

カナタとヒナタがそれぞれ構える。ヒナタが少しだけ前に出た。

 カナタの後ろにリョータがいるからだろう。


さっきまで阿賀部を見ていた表情はとても険しかったが、カナタと並んでいる今はどこか楽しそうにすら見える。

 なんとなく、ウキウキしていると言ってもいいくらいだ。


 それとなくヒナタを見てそう思っていたカナタだったが、不意にヒナタがこっちを向いたので少し慌ててしまった。


 それを見てヒナタは「ふふ……」と刀を持ったまま口を押さえて笑う。

 刀という凶器を持っているのにどこか品を感じてしまうのは、兄としての欲目だろうか……

 血生臭い戦場にいるのに、ヒナタの周りは華やかに見える。まさしく戦場に咲く可憐な花と言ったか所だろうか。


 そんなカナタの考えを察したのか、ヒナタは少し照れたように笑う。


「ね、お兄ちゃん。お兄ちゃんとこうして並んで戦えるの、私嬉しい」


「……そうか」


「うん……昔道場で稽古してた時、師匠に二人がかりでかかってたよね」


「……懐かしい事言うな。そうだったな……」


 このパニックが起こる前、カナタが道場に行かなくなる前は、師匠に二人でかかってこい。と挑発されて向かっていってボコボコにされていた。

 かっかっか。と笑う師匠にいつか勝ってみせる!なんて言ってたっけ。


「あの頃と……いろんなことが変わったけど……私達が世間が羨む程仲がいい兄妹だって事は変わらないし…………絶対に諦めないから……」


「なんか変な修飾語があったけど……まぁそうだな。お前がそう言うなら兄としてどこまでも付き合うしかないなぁ……」


 カナタがそう言うと、ヒナタはにっこりと微笑んだ。


 ……その辺の男どもに見せたくない顔だなぁ。

 そう思ってしまうくらいの笑顔だった。


「そんじゃ、いっくよー」


 ヒナタがグッとバネを貯めて飛び掛かろうとする。そこに斜め上から弾丸の雨が降り注いだ。


「間に合った。美味しいとこばかり持って行かせない」


 そう言いながら2階の渡り廊下から身を乗り出すようにして、支給のM-4を乱射している。そんなゆずを由良が必死の表情で落ちないように支えている。


「はわわ……ゆずさん、落ちる……落ちますってば!」


「そんな事どうでもいい!由良、予備のマガジンを!」


 ゆずが落ちないように必死に支える由良に、支えがあるゆえにさらに身を乗り出し、弾を撃ち切ったゆずはおかわりを要求する。


「も、もうないです……」


「え?」


「さっきゆずさんに渡したのが、私の予備のマガジンなので……私のライフルはとっくに弾切れですし……」


そんなやり取りをしている下で弾丸の雨を受けた大男は体中から鮮血を吹き出していたが、特に気にする事もなくカナタ達に向かって歩いてくる。


「くっ……」


 それを見たゆずがカチンときたのか、歯噛みしている様子にカナタは嫌な予感がしてきた。


 ゆずは大男を睨むと、持っていたライフルを投げつけた。そしてそのまま由良に抱きついた。


「ふえっ!」


 抱きつかれて固まる由良は、驚きのあまり手を離していた。そしてゆずは目的のものを掴むと、踊り場から身を乗り出して飛んだ。


「ゆずさん!」


 叫ぶ由良と落ちるゆず。手には由良が差していた支給刀を持っている。

 そのまま落下の勢いを利用して大男に斬り掛かる。


「」ぐおおおぁ……」


 手以外の見た目は普通の人間と変わらないが、言語を操る事はできないのか、大男は唸り声を上げる。


 落下の勢い、ゆずの体重。それを乗せて斬りつけたゆずの刀は、肩から腰にかけて深く切り裂いていた。


 着地と同時に地面を転がり、勢いを殺しながらカナタ達の元に来たゆずは、大は立ち上がるとヒナタと並んで立つ。


「ごおおおぉ……おお、お」


 大男は、斬り裂かれた傷もそのままに、フラフラと数歩歩くと膝をついた。

 巨大な手がその形を崩させる。


「まさか!感染体にあたったのか!」


 それまで余裕気だった男に焦りがうかび、慌てて懐から拳銃を取り出してカナタ達の方に向ける。


「おい、しっかりしろ化け物が!救世主様を見習わんか!」


 カナタ達に拳銃を向けて牽制しながら、男は膝立ちになっている大男の背中を何度も蹴り付ける。


「くそ、くそ!」


 蹴って蹴って……それでも気が済まなかったのか、より強く蹴ろうと足を引いた。


 ドゴン!


 重い発砲音が響く。

 同時に男の腹が破裂したように弾けた。


 ふらつきながら振り返った男が見たのは……


 散弾銃を構えたハルカとハルカに肩を貸して支えているアスカの姿だった。


「お、まえらは……」


「先日ぶりね、遠山。今度は外さないわよ」


 そう言ったハルカがもう一回引き金を引く。


 ドゴン!と重い音がして、遠山とハルカが呼んだ男の背中が弾けた。


 もう弾切れなのか、散弾銃を投げ捨てたハルカの姿はボロボロで、あちこちに血の染みがある。それはハルカを支えるアスカも同様だ。


「ハルカ!よかった、生きていた」


 姿を見たカナタが声を上げると、ハルカは微笑んでチラリとカナタの方を見て、固まった。


「カ、ナタ?何よ、その姿……」


「あー……その、な。色々あった。後で説明するよ」


 苦笑いでそう言ったカナタを、ハルカがキッと睨む。

 その顔は絶対に説明してもらいますからねと語っている。


「アスカ!」


「由良、よかった」


 ハルカの向こうでは新人二人も再会できて喜びあっている。


 大男は動きを止めた。遠山は致命傷だろう。あとは鉄格子の向こうを調べるだけだ。


 だが、撃たれた遠山はフラフラと移動して、鉄格子の近くまで来ると振り返った。


「少し……段取りがかわったが……ゴフ……問題、ない……私は……救世主様の、宿儺さまの血肉にゴボ……血肉になる栄誉を授かった……すこし、早いだけ、だ。さ、ぁすくな、さま……私の、血肉を……」


 途切れ途切れにそこまで言った遠山は力尽きて倒れた。


「なんだ?ハルカ?あいつ何を……」


 カナタが遠山の言動についてハルカに聞くがハルカも首を振るばかりだ。

 そんな時だった。


「手前!まさか、うおっ!」


 二階の渡り廊下でスバルの声が聞こえる。そしてすぐ後にまるで誰かに投げ飛ばされたように由良を抱いたスバルが空中に身を躍らせた。


「のやろ!」


 うまく姿勢を保ったスバルはなんとか足から着地して由良を下ろす。由良にはアスカが走り寄って抱きしめた、


「カナタ!二階だ、あいつ……生きてやがった!」


 二階から落とされ、着地したものの足をどうにかしたのか、その場に膝立ちになったままスバルは支給刀を抜いて、先ほどまで自分がいた、二階の渡り廊下を睨む。


「どうしたんだスバル!あいつって……」


 スバルのそばに行き、手を貸しながらカナタは問いかける。起こしてみた感じ、着地した時に軽く痛めたが捻挫や骨折はしていないようだ。


 スバルの視線を追って渡り廊下を見た時、その男は姿を見せた。


「お前!」


 ゆずがいきりたつ。ヒナタは口を押さえて声もでない。

確かに死んだはずだ。ここにいない夏芽も……そばにいた夏芽もそう言っていたはずだ。


 そして、その男のそばにもう一人見知った顔がいた。


「キザさん!いや……烏丸か」


 カナタの声を聞いたそれは、カナタを見下ろしてニヤリと笑った。


「今の世の中は地獄と繋がってんのか?佐久間。」


 殺気を隠しきれず、視線に乗せて呼びかける。


 カナタの視線を受けても微塵も表情を変えない男、佐久間は面白くなさそうに言った。


「またお前らか。つくづく縁があるようだな。私がここにいることがおかしいか?本当にそう思うのか?夏芽を見て、この烏丸も見てきて、それほど不思議かね?」


 まるでバカにするような口調で佐久間はそう言った。

 

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