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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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7-8

花音と少女達が運ばれてから数十分。それから一切外には出てこないし、外から見て何か動いている様子もなければ物音もしない。


「徹底してるな……規律のある集団ってことか……」


 カナタが呟く。接近して学校がより見える場所を探して、何かの会社だった所に隠れて監視している。


「起立でも礼でも好きにさせとけばいい。花音がいるんならさっさと突っ込んで助けるべき。あの子はこんな所にいたらダメ。カナタくん、花音がいなかったら毎日誰が起こしてくれると思ってる」


 どこを突っ込むべきか悩む発言をしてくるゆずを半目で睨みながら考える。


 花音がいた集団が学校に入る間、その時しか見ていないが誰も勝手な行動をとらず、粛々と動いていた。外からいっさい様子を窺えない様に徹底しているところといい、かなり規律と統率が取れた集団だと見てとれる。


 略奪を目的に群れた集団ならそんな行動はしない。最低限の決まりは守るが好き勝手に動くし、騒ぐ。


 むしろその方が良かったんだが……


 相手の事が全くわからないのに潜入するのは危険すぎるが、花音がどういう状態かわからないし、ゆずはともかくヒナタも口には出さないがかなり焦っている。

 焦れて爆発すると何も考えず突っ込んでいくだろう。


 ……嬉々としてゆずも一緒に。


 「仕方ない……これだけ監視していても何も掴めないなら、これ以上は時間の無駄だろう。……ヒナタ、相手はどんな奴らだと思う?」


 ここであえてカナタはヒナタに問いかけた。ヒナタには悪いが、常に考えていてもらう必要がある。カナタにはずっと正気でいられる保証はないのだ。


「えっ?うーん……情報がほとんどないからわかんないけど……あそこにいる人達は、まず普通の避難民じゃない思う。」


「ちなみにそれはなぜだ?」


「だって避難しているなら、当然外からの助けを期待するでしょ?ならもっとヘルプ!とかここに人がいますよ!って主張すると思う。あんないるかいないか分かんないなら、もし救助隊が来ても素通りしちゃうよ」


 ヒナタが出した答えにカナタは頷いた。もちろんそれが正答かどうかはわからない。必ずしもカナタが正しい答えを持っている訳ではないのだ。

 ただ自分と同じ程度には観察して判断していた。そういう意味での頷きだ。


「あとは、あそこに何か大事な物、それか知られたくないものを隠しているかな?だから話し合いとか、交渉には応じないと思う。私たちが欲しいのが花音ちゃんだったとしても、大事な物を隠している方はそう思わないだろうし」


 おとがいにかわいい手を添えて考えながらヒナタはそう言った。それにもカナタは満足そうな顔をしている。


「合格だ。じゃあその上でどう動く?」


 ヒナタの隣ではゆずが焦れた表情をしている。きっとこうした問答をしている暇があるならさっさと行動に移したんだろう。それでも何も言わないという事はこれが必要な事だと理解はしているらしい。

 ただ、ゆずのそわそわしている様子が、散歩にいくぞ。と飼い主にリードをつけられて、飼い主の準備ができるのを今か今かと待っている犬に見えて、笑いそうになってくる。

 きっとそのリードが外れたら、矢のように走って行くんだろうなとも思うが……


 これまでと違い長考していたヒナタが考えをまとめたようなので、ゆずから視線を移す。


「二手に分かれて校舎の両側から、少しずつ制圧していく。ううん……まずは体育館!体育館を制圧して、そこを拠点に校舎を攻める。一階はたぶん何もいないと思うから二階から……校舎は四階建てだから大事な物は上の方に隠すと思う。ちょうどインカムも手に入ったし、学校の敷地内くらいなら電波も届くから、突出しないように一階ずつ。そしたら相手も戦力を二分しないといけなくなるし、これだけ外から動きが見えないなら数はそれほどいないと思うんだよね」


 考えながら答えを出したヒナタに、うれしくなったカナタは思わずヒナタの頭を撫でた。


「ちょ、お兄ちゃん?……もう、子供じゃないんだから!」


 軽く頬を膨らませ、不満そうにそう言ったがカナタの手を振り払うことはしない。それどころか目を閉じて受け入れている。


 それを周りで話をきいていた仲間たちは温かいまなざしで見つめていた。そんな中、ゆずだけがスッと立ち上がった。

 何をするつもりかとその動きを追えば、何も言わずにヒナタの後ろに座って黙っている。


「なあゆず、その動きについて聞きたいんだが」


 なんとなく予想がついたカナタが、半目で聞いてみる。


「ん。順番」


 想像通りの答えが返ってきて思わず噴き出した。


「両手があったら、二人まとめて行けたんだけどな……」


「カナタくん、それは言わない約束。私はヒナタの後でいい」


 そんな約束いったい、いつしたんだろうか。そう思ったが口には出さない。ゆずが言うんだからきっとしたんだろう……


 そんなゆずに「はいはい、次はゆずちゃんの番ね」と言って、にっこりと笑ったヒナタが場所を譲って、ゆずの頭を満足するまで撫でさせられたあと、なぜかゆずが由良を引っ張ってきて撫でる事を強要された。


「い、いえ私は……ひぇっ⁉」


 と変な声をあげて真っ赤になっている由良をカナタが首をかしげながら撫でるという、よくわからない光景が繰り広げられた後、改めてヒナタに人員の配置を任せた。ヒナタは最初に全員で体育館を強襲、占拠したらダイゴと非戦闘員でそこに立てこもり、カナタとヒナタで南側階段から、スバルとゆず、由良で北側階段から攻め上る。というものだった。


「体育館は出入口は鉄製のドアがあるし、窓には鉄格子がはまってる。一つを残して他は全部施錠すればダイゴさんと残った喰代博士、詩織ちゃんと夏芽さんで十分凌げると思う。私はお兄ちゃんから戦い方も吸収しないといけないから外せない。ゆずちゃんは悪いけど……」


「大丈夫、ひなた。そりゃ私もカナタくんやヒナタと一緒がいいけど、そうしたら戦力が偏る事はわかる。そこに文句は言わない」


 不安そうにヒナタはゆずを見ていたが、ゆずは軽く笑みすら浮かべてそう言いきった。


「うん、この作戦が終わったらしばらくお兄ちゃんを自由にしていいから。ごめんねゆずちゃん。でもしばらくしたらちゃんと交代だからね?」


 ゆずの手を握ってヒナタはそう言っている。


「待て、俺の意志はどこにいった?」


 勝手にゆずに献上されそうなカナタが苦情を言うが、ヒナタもゆずもにっこり笑うだけで受け付けない。それどころか作戦前にようやく外した安全帯をチラつかせてきた。

 それを見て、がっくりとカナタが落とした肩を、スバルがポンポンと叩いて慰めていた。


夜を待ち、侵入すると決めた門のところで、塀に隠れて中の様子を窺うが、やはり何も音は聞こえない。

 ヒナタは振り返って小さな声で話し出す。


 「喰代博士たちはひとまとめになって動いてください、絶対に離れないで。……行きます」


 配置について、博士たち非戦闘員組にそう注意を残したヒナタとゆずが身軽に塀の出っ張りに足を掛けながら乗り越え、敷地内に入って、重そうな鉄の門のロックを外して開けた。


 ぎぎぎぎ……


 錆びているためか、小さくない音を出して動く門を最低限動かして次々と敷地内に侵入する。

 こういった作戦の場合、どこまでばれずに行けるかで難易度が大きくかわるものだ。鉄の門が開く音では、敷地内から物音はしてこない。

 向こうも外から見えないようにしているみたいなので、聞こえなかったか、あえて反応しなかったか……


 全員が敷地内に入ったのを確認したヒナタは軽やかに走って、体育館を目指した。もちろん明かりは使えない。幸い月が出ていて月明かりがあるので、何も見えないということはない。


 薄闇の中、月明かりが素早く移動する影を見え隠れさせている。

 

 体育館の壁に背中をつけたひなたとゆずが、扉に耳をあててしばらく中を窺う。


「いる……でも数は少ない、せいぜい二人か三人……警戒している感じはしない。そして、感染者はいない」


 扉に耳を当てたまま、そう分析したヒナタがゆずと目があう。

 ゆずはヒナタの分析を聞いて、真剣な顔で頷いてくれた。ヒナタは隠れているカナタ達に向かって、複雑な手の動きで合図合図を送った。


 十一番隊内でのみ使うハンドサインで、中に気配あり、少数。というものだった。


 

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