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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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7-4

曲がり角から突然姿を現した感染者に咄嗟の対応が出来ずに、ハルカはその感染者の手が届く位置から、飛び退いた。そのあと間をおかずに轟音が響く。


ハルカの動きを見たアスカが散弾銃を撃ったのだ。撃たれた感染者はたたらを踏むように後ずさり、後ろにいた別の感染者も巻きこんで倒れた。

すかさず走り寄った花音が、ハルカから借りている支給刀を使い、慣れない手つきながら感染者の首に突き立てた。


「ハァハァ……」


花音は全く余裕のない表情をして、大きく肩で息をしている。花音だけではない。今も迫ってくる感染者の首を飛ばしているハルカも、散弾銃と支給刀を使いわけながらハルカのサポートに集中しているアスカも、肺がやぶれてしまったんじゃないかと思うくらいに荒い息をついている。


「ううう……」

「お姉ちゃん」


それらにかばわれるように、二人の女の子。美鈴と絢香が身を寄せ合っている。


一行は一夜を明かした建物からかなりの距離を進んでいた。人を斬る覚悟を決めたハルカを前に美鈴たちを追っていた信者達は手も足も出ず、一時は包囲網を抜けて西進していたのだが、途中から方針をかえた信者たちは感染者を誘導してハルカ達にぶつけてくるようになった。


人を斬るよりも躊躇しない分、ハルカとアスカの二人だけでも対処ができていたのだが……


信者たちは信じられない手段を用いてきた。


「わああ!こっちだあ!っははは……」


そんな声が聞こえて、ハルカもアスカも険しい顔をさらに深くしている。それまでドローンや時には信者が音を出したりして感染者を集めていたが覚悟を決めたハルカ達の勢いを止めることはできなかった。

すると信者の一人が感染者のいる方に走って行き、引き寄せるとそれらを誘導するようにハルカ達に向かって走ってくるという手段をとるようになった。


みずから感染者に寄って行き、騒いで集めるのだ。当然そんな事をして、逃げ切る事などできない。例外なくハルカ達の近くまでやってくる頃には感染者に捕まり、寄ってたかって噛みつかれる。

今も一人の信者が笑いながら感染者の群れに飲み込まれていった。


「くそ!」


苛立たしげにアスカが近くの感染者を斬り付ける。

目論見は果たしている。彼らはハルカ達が見える所まで感染者を誘導してくればいいのだ。そこまでくれば戦っている音や動きで、信者が倒れた後はハルカ達のほうに移動する。


「……狂ってる」


ハルカは、感染者に噛まれ血まみれになったあげく、しばらくしてフラフラと立ち上がる元人間の信者を見て吐き捨てるように言った。

直接見ながらなるべく多くなるように調整してくるので、誘導という事に限って言えば最適な役割を果たしている。最後は誘導してきた信者も追う側に加わるので、使い捨てとも言えない。


もうどこかに逃げ込む余裕すらなく、ハルカ達は朝からずっと移動し続けている。しまいには花音も刀を握らなければ対処できないほどになっていた。


「ハルカお姉さん!私が時間をかせぐので、息を整えてください!」


自分も肩で息をしながら花音が支給刀を大振りに振り回して感染者をけん制する。花音がそう申し出るくらいにはハルカの疲弊は頂点に達している。

もはや気合と根性だけで立っているようなものだ。それでも自分から感染者を離すように刀を振り回す花音を見ると唇が破れるくらい歯噛みしてしまう。


途中から刀だけではさばききれないと判断したアスカは散弾銃を併用している。ドゴンという音が響いてすぐにカラカラと軽い薬きょうの落ちる音がする。

散弾銃は広い範囲に弾をばらまくように射出するので、射撃の技術がなくてもそれなりに当てられる。ただ、散弾は一発一発が小さいので、感染者をしとめられるかというと厳しい。

偶然感染体に当たって倒れる事もあるが、基本的に動きを阻害するというくらいにしか効果がないのだ。


「ヒハハハ!いたぞ、あっちだ。同志たちよ、祝福を彼らにぃ!」


また一人叫びながら男がハルカ達めがけて走ってくる。当然ながらその後ろにはそれなりの数の感染者を引き連れ、その男の胸から上も真っ赤に染まっている。


「はは……は……」


走りながらその男は倒れ、誘導してきた感染者たちはハルカ達に目標を移すのだ。


もうだめだ……


すぐにそう思ってしまうくらいの数が押し寄せて来ていた。ハルカもアスカも疲労困憊、花音もひそかに訓練をしていたとはいえ、実戦レベルで戦えるというわけではない。


ぐっと拳を握ったのが絢香にもわかった。見ると美鈴は唇の端から血を流しながらハルカ達を見ている。


「お姉ちゃん……」


思わず声に出してしまった絢香の方を美鈴は柔らかい目つきになって見た。


「いい人達だよね」


「うん。」


「今まであんな人いなかったよね?」


「うん。初めて……」


「死なせたくないよね?」


「…………うん。」


「ごめんね絢香」


「なんでお姉ちゃんが謝るの?」


「絢香だってつらい思いするじゃない。」


「……でもお姉ちゃんが」


「あの人たちが死んじゃったら、あいつらが来て私たちは捕まる。でも、あの人たちを死なせてしまったって後悔が残る。それなら……」


もう絢香は返事をしなかった。そのかわりに美鈴の手をきつく握った。二度と話さない、そんな声が聞こえてきそうなくらい。



ハルカが手をのばしてくる感染者にバックステップすると同時に刀を振るった。いまだ切れ味に衰えをみせない「晴香」は素晴らしい切れ味を見せてハルカに向かって伸ばされていた手を両方とも肘から叩き切った。


後ろではアスカが散弾銃に弾をこめている。こんな乱戦状態で弾が二発しか入らないのが痛すぎる。弾込めを終わった瞬間、狙いもつけずにアスカは引き金を引いた。


ドゴンという音が響き、近くにいた感染者が踊るようにして数歩下がる。そこでできたわずかな時間を使って何とか呼吸をしたハルカが一番近い感染者の首をはねて、返す刀でその後ろ感染者を袈裟懸けに斬り付ける。もちろん延髄を切り裂くような切り方で。


二体の感染者が膝から崩れ落ち、視界が開ける。


「あっ!…………」


「うそ……」


その先に見えた光景は二つの方向から感染者を誘導してくる信者と正面にあるカフェの二階席にいる信者らしき姿だ。一人は優雅にテーブルについて飲み物を飲んでいて、その周りに信者が囲むように立っていた。見える範囲で20人は下らない。もちろん全員が何かしらの武器を所持しており、銃火器をハルカ達に向けていた。


「くっ!」


 悔しさに歯噛みするハルカ。なんとか逃げる道を探すが、見えるルートは信者が感染者を連れてきている。もうはやこれまでか……そう考えたハルカはカフェの二階にいる一人座って何かを飲んでいる男を睨みつける。明らかに重要人物であろうその男が倒れれば、あるいは突破できる道が見えるかもしれない。


 ……ごめん、カナタ。


 心の中で幼馴染であり、現在の部隊の隊長である男に謝りの言葉をこぼす。


 ……でも、見ててね。刺し違えても花音ちゃん達だけは逃がすから……あとはお願いね。


 カナタに届いてほしいと念じながらハルカはそう考えて、背負っていた荷物と刀の鞘を捨てた。


「ハルカ、さん?」


 後ろからアスカの声が聞こえるが振り向きはしない。心の中で謝っておくに留める。


「仁科遥香……参ります」


 呟いたハルカはもう前しか見ずに走り出した。



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