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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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7-3

顔を真っ赤にして座り込んだヒナタにゆずが歩き寄る。


「ヒナタ、赤面している暇はない。あれを見る」


ゆずがそう言ってヒナタに手を貸して立ち上がらせようとする。


「そんな事言って、お前も赤いからな」


カナタがポロリと口を滑らせて、また二人からにらまれる。ゆずもさっきの肩車の時から赤みがひいていない。さっきから全く話が進まないので、周りも呆れて見ている。


「あーあ、余計なこと言うから怒られるのに……」


苦笑しながらダイゴが言えば、スバルも腕を組んで頷いている。いつもの光景だった。



気を取り直したゆずがヒナタにある方向を指した。


「あれがどうしたの?」


ゆずが指す方を見たヒナタは首を傾げた。公民館から出てきた感染者の集団を退けた一行は近くにあった有名なコーヒーチェーンの店に一時避難している。

二階建ての建物の二階にあるそれは、階段でしか行けない造りになっていたので、階段を封鎖すれば一時的な安全地帯になっていた。


「学校か何か?誰も、何もいないみたいだけど?」


店内の窓からよく見える学校の校庭らしきスペースに動く者は見当たらない。避難場所になっていたのか、テントや机など、の残骸が残っていて鉄製の頑丈な門が閉まっている。


「そう何もいない。そして門はきれいに閉まっている。もし誰もいないなら門は開いているはず。つまり校舎に誰か潜んでいる可能性がある。さらに、校舎の二階の壁を見て」


ゆずがそう言って指を指した。そこには教室らしき部屋が並んでいるが、その一部の部屋から大きい布が下げられていた。まるで血で書いたような気味の悪いマークが描かれている。


「うえ……何あれ、気持ち悪い」


それを見たヒナタが嫌な顔をする。パッと見てそう思うくらい不気味で趣味の悪い、まるで紋章のようなマークが書いてあるのだ。


「あれ、いや……うん?なんか見た事あるな……」


近くで見ていたスバルが急にそう言って考え込んだ。


「あんな気味の悪いもん、どこで見たんだよ」


呆れたようにカナタは言うが、スバルは真剣に考えている。普通に暮らしていたら絶対に見かけないようなマークだ。気のせいに違いない。


「それよりだ、もしあの学校に誰かいるとして、そいつらがまともならいいが平気で略奪とかするような奴らだと少しまずいわけだ」


カナタがそういうとダイゴもなるほどと頷く。


「この道を進んでいれば、あそこからまともに見えるもんね。しかもこっちにはかわいらしい女の子が三人もいるし……」


人も物を奪う事に慣れた集団なら間違いなく襲ってくるだろう。別の道を進めばいいじゃないかという意見は誰からも出ない。なにしろ今進んでいる道は海沿いの道を進んでいる。もうすこし内陸の方に入る道はというと……


「結構な群れがいるんだよなぁ……」


少し前から分かるくらい感染者が列を作っていた。普通なら戦闘音やカナタ達に気付いて寄って来るはずなのに、こっちには見向きもせずに前だけを見ている。


「あれ……コロニーだよな、マザーの」


マザーのコロニー。マザーを中心とした感染者の集団は、他の感染者とは違いある程度規則的な動き方をする。マザーが移動をすればその周りを囲むように一緒に移動をする。

つまり、こっちに見向きもしないその感染者の集団の中心にはマザーがいる可能性が高い。


「現認したわけじゃないけどな。あの動きを見れば間違いないとおもう。もう少し近づいたら一気に襲い掛かって来るんだぜ、あれ。」


マザーの形成するコロニーは、通常の感染者と違いテリトリーを持つ。その中を定期的に周回するのもマザーの習性の一つだ。


「左に海、右側にはマザーのコロニー。正面には怪しい建物。どうすんだカナタ?」


「どれも嫌なんだけど……」


 カナタが苦虫を噛み潰したような顔をしているが、どこかを通らないと先に進めない。進めない事はないがすごく遠回りになってしまう。


「よかった。ヒナタ、悩まないといけないとこだった」


「ほんとだね、こんなの選べないよね!自分だけならまだしも、全員の命がかかってるわけだし……」


 肩を寄せ合ってヒナタとゆずが言うのを、カナタが渋い顔で見ている。


「なあ、地味にプレッシャーかけるの、やめてもらえるか?俺が選択しないといけないんだが?」


 半目になってゆずとヒナタを見るが、二人にこたえた様子はない。むしろどう考えて、どう選択するのか注視してくるまである。


「まったく……」


 しょうがないな、と視線を振り切ったカナタだったが、今では、自分が得た経験や知識。できうるなら全てをヒナタに譲り渡したいと思っている。

 適当な選択はしないしできない。


 ……左は論外。海を行く乗り物なんてないし、右もまた論外だろう。感染者で埋まってる上に、その先にマザーがいる可能性が高い。そんな所に行くのはまごう事なく自殺行為だ。


「やっぱり……あそこしかないんだよなぁ」


 そう呟きながら自分の荷物から双眼鏡を取り出す。双眼鏡ごしに、怪しげな雰囲気が漂っているように見えてきた学校を見る。


 相変わらず人がいるのかすらわからない……いや?


 校庭、正門は閉まっているから裏門的な所から入ってきたのだろう。

 様々な武器を構えた集団が横切っている。その中に見えてはいけないものが見えた。


「おいおい…………、荷物をまとめろ、移動する!」


 急にそんな事を言い出したカナタを全員が見る。ゆずとヒナタはさっきまでのやり取りからのいきなりだったので、怪訝そうな表情さえ浮かべている。


「おい、移動って……どのルート進むか考えてたんだろ?いきなりだな?」


 スバルが携帯食を齧りながら寄ってくる。ダイゴは何も言わないがスバルと共に近寄ってくる。

 そのほかの者もめいめいに休憩しながらも注目している。


 それらに目をやることもかなく、カナタは双眼鏡から目を離さない。


「……なんか見えたのか」


 スバルの声が緊張を帯びる。


「ああ……あそこの学校に人が入っていくのが見えた。二十人くらいの集団だ。内側からバリケードが何か作ってるのか、それを内側から開けてる奴も見えた。」


 やはり何者かの拠点になっていたのか。外から見るかぎり人の姿が見えなかったのは、見えないように工夫していたんだろう。

 全員が無言になりカナタの声に耳を傾けている。


「花音がいた……。」


「え?」


誰かがこぼれるような声を出した。


「その集団に囲まれるように……しながら校舎に入って行った。同じくらいの女の子二人と一緒に……」


カナタが言った言葉にだれもすぐに言葉を返せなかった。明石大橋の崩壊以来花音ともはぐれている。口にはしないが全員が心配していた事だろう。


それがいた。


ジャキっと金属の重なった音がした。思わず全員の視線が集まる。


そこでは、己の武器を取り出して点検するゆずとヒナタの姿があった。

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