6-10
遅くなってしまった‥‥
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「どう言う事でしょうか……」
朝を迎えて、交代で休んでいたハルカが目を覚ますのをまって、アスカは口を開いた。
隣ではカーテンに身を隠しながらハルカが外の様子を窺っている。
潜伏している場所はわかっているのだから、襲撃があると思っていたのだが、予想に反して何もなかった。逃げ込んだ場所をはっきり確認できなかったか、攻めるだけの人数がいないのか?などと考えながら外を見ると、あちらこちらに人が立っている。……もう少し明るくなって、起きた絢香達にも見てもらった。返ってきたのは間違いなく見た事がある奴がいると言う事だった。
「ここから見える限り、見つからずに逃げる事は難しいですね……」
「うーん……ここに入る時に使った裏口とか、ここの本来の出入り口。それがよく見える場所にたくさんいるから、ここがバレていないっていう事はなさそうなんだけど……」
あれだけ周囲を囲んで監視できる人数があるのに、襲いかかってこないのかがわからない。
もちろん守るほうが有利なのはあるだろうが、それはきちんとした防備が取れる場合だ。銃砲店という特別防犯に気を使った建物だけに、他よりは頑丈だけど籠城できるようにはなっていない。
「いたぶっているつもりでしょうか……」
苛立たしげにアスカが言うが、それもあまり意味がないと思う。
ハルカ達は当然知らないのだが、現在ハルカ達を取り囲んでいる者達には、無理に動けない理由があった。それは絢香と美鈴の存在である。感染しない美鈴を利用して信者を集め、もはや象徴としていたために、どうしても無傷で連れて帰りたい、もしくは連れて帰ってこいという司令がでているからだ。
いくら感染しないといっても、それ以外はただの女の子であるため、死んでしまっては意味がないのだ。
そういった思惑がわからないハルカ達にとって、十分な戦力がありながら、襲いかかってこない事を不気味に思うのは仕方がない事だ。
襲いかかってはこないが、監視はしっかりされていて、見つからずに逃げるのは不可能。ひょっこり姿を見せればあっという間に取り囲まれるだろう。あるいは感染者をけしかけられるかもしれない。
ハルカはアスカと額を突き合わせるようにしながら、どう動くべきかを話すが、いい案は出なかった。
その頃一階では、ハルカ達の悩みもわからず少女達が交流していた。
「ええ……怖かったよね?」
涙を浮かべながら花音が言っている。絢香、美鈴とこっちも三人固まって、声を潜めて話をしていた。
今は美鈴が受けてきた仕打ちを話していたのだ。
「うん……化け物に噛まれたりするのもそうだけど、そんな事を平気でしてくる大人の人達が一番怖くて……なんか目がね、怖いの……」
「そうそう、普通じゃないもんね。気持ち悪くいつも笑っているしさぁ……。でも花音ちゃんも十分怖かったでしょ?無理やり捕まえられて、縛られたまま一人で車に残されて」
花音は自分がカナタ達に助けてもらった時の事も話していた。こう言った場合打ち解けるには親近感を持つ事が一番手っ取り早い。無意識にではあったが花音はそれをしていた。
年が近いのもあって、ハルカ達と話す時のような硬さは美鈴と絢香からなくなっていた。
二人にとっては優しく接していてもハルカ達はまだ怖いらしい。
「うん、そだね。一緒に暮らしていた人達は私が捕まるのを見ても、何もしてくれなかったし……私もその時の一人だったから、なんかどうでもよくなっちゃってたけどね」
えへへと笑っているが内容は重い。
「うう……私はまだ絢香がいるから耐えてるけど……」
「でも……今は楽しいから!カナタさん達に助けてもらって、安全なとこに連れて行ってもらって……みんな優しいし、私が普通に暮らせるように考えてくれてるのがよくわかって……」
「それで一緒に手伝いたいって、安全などこから出てきたんでしょ?そこがすごいよ」
心から感心するように絢香が言うと花音は照れるように俯いた。
本当は無理についてきたのは別の気持ちがあったからだ。もちろん花音の事を最大限配慮してくれる十一番隊のみんなの役に少しでも立ちたいと思ってるのは事実だ。
でも花音の胸のうちには、どうしてもついて行きたかった熱い想いがある。
誰にも言ってはいけない事だと思っているし、本人になど伝えるつもりはない事だが……
「私達もそこに連れて行ってくれたら、そんな暮らしができるのかなぁ……」
ポツリと美鈴が呟いた。
その言葉を聞いた花音は優しく微笑んで美鈴を見る。
「もう、簡単には離してくれませんよ?」
少しイタズラ気を含んだ笑みを浮かべて花音は言う。
そう聞いたわけじゃないけど、ハルカは絶対見放すような事はしないと信じている。
それは十一番隊の誰であっても同じ判断をするだろう。
花音が自信たっぷりに言うものだから、美鈴も絢香もポカンとしている。
二人にしてみれば、今の世界では誰も信じる事などできない。そんな事をすれば自分の足元を掬われるだけだとすら思っている。
花音もその感覚はなくしていないので、二人の気持ちは分かる。十一番隊のみんなが特別なのだ。そしてそんなみんなを花音は誇りに思っている。だから自信たっぷりに言うのだ。
「そうなら……いいな」
俯いて美鈴がポツリと言った。
「ね、それならさ!」
絢香は花音に耳打ちした。
一階から少女達の和やかな声が聞こえてきて、ハルカはアスカと顔を見合わせて微笑む。
こんな世界で子供が笑っていられる、それはなんとも言えず幸せな気持ちになれるというものだ。
「仲がよくなったようでよかったです」
アスカがそう言うと、その顔をハルカが覗き込むように見た。
「な、なんですか?私の顔に何か……」
「ふふ……ごめんね。アスカはだいぶ表情が柔らかくなったなって思って見てた。最初見た時なんで、こんな顔してたからね」
そう言うと、ハルカは両目の端を斜めに持ち上げて見せた。
「そ!そこまでは……確かに無愛想だった自覚はあります……でもあの頃は……」
「うん、大丈夫。わかってるから、ごめんね、からかうような事言って」
ハルカがそう言って微笑む。アスカもそれ以上は何も言わなかった。
「さて、ここをどう乗り切るかが問題ね」
表情をあらためてハルカ言う。現在周りを包囲されているのだ。
「こっそり出るのが無理としたら……斬り込む、と言ってもあの子達を抱えてというのは……」
戦う人数よりも、守るべき人数の方が多いのだ。
「……ね、アスカ」
「ダメですよ」
何かを思い詰めた顔でハルカが口を開くと、秒で否定された。
「……まだ何も言ってないんだけど?」
「なんか自分が犠牲になって的な事を考えてたでしょう?」
そう言われて、ハルカは口を閉ざす。自分が斬り込むから、そのうちに反対側から逃げろと言おうとしてた。
「でも、今の所どうしようもないじゃない」
「それなら全員で突っ込むべきです。私はともかく、あの子達がハルカさんを犠牲にして生き延びる事を許容するとでも?」
それを言われると、さすがにつらい。今の言葉を花音達の前で言えば、美鈴や絢香はわからないが、花音は泣きながら責めてくるだろう。
「籠城して、徹底的にやる。という手もありますが……」
「それは、時間さえあれば味方が助けにきてくれる場合の作戦でしょ?ここは敵地なんだから籠城してます相手に有利なだけじゃない」
「それはそうですが……」
二人で方策を練るが、良いアイデアは出てこない。そんな時だった。
階段を登ってくる音が聞こえ、すぐに花音達が姿を見せた。
「どうしたの?」
ハルカが声をかけると、花音はニッコリと笑って言った。
「少しお話しいいですか?」
ハルカとアスカは何だろうと思いながら、顔を見合わせて首を傾げた。
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