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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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6-9

ストレスが溜まっていたのか、綾香が止める隙も無いほどの勢いで話す。若干支離滅裂な部分もあるが……


二人は避難民のキャンプで感染を疑われて隔離された。そこで美鈴が感染しないという事に気付いた遠山という男はそれを利用してキャンプ内で主導権を握った。美鈴ちゃんは実験や見せつけるために何度も感染者に噛まれる事を強要された。

遠山という男は宗教かぶれしていて、感染しない美鈴を利用して宗教的な活動もやっていたが、隙をみて二人は逃げてきた。


ざっとまとめればこういう事だろう。


「はい、そんな感じです。」


シュンとしている絢香が、ハルカがまとめた内容を聞いて頷いた。よほどうっぷんが溜まっていたのか、話し出したのはいいが、勢いだけ先行して内容を理解してもらえなかった。


「ごめんなさい、綾香は私の事になると周りが見えなくなることがあって……」


並んで一緒にシュンとしている美鈴が頭を下げる。なぜか花音まで一緒になって並んで座っている。


「ふふ……仲がいいのね、あなた達。」


ハルカが優しい顔で微笑む。そんな事を言われると思っていなかったのか、綾香と美鈴はお互いに顔を見合わせて顔を赤くしている。


「状況は大体わかったわ。あなた達はこれからどうしたいの?」


ハルカがそう聞くと、美鈴が身を乗り出すようにして言った。


「あ、私は何をされてもいいです。病気だから……でも絢香は助けてほしいです」


「お姉ちゃん!」


「いいから!あいつが言ってました。私は貴重だって……噛まれても化け物にならないから。だから……あの、信じられないなら化け物に噛まれてもいいですから!」


恐らくこの二人は逃げた先々で似たような事をされてきてる。いくら感染しないといっても感染者に襲われる恐怖、噛まれる痛み。それは大人であっても耐えられない。

それを十歳くらいの女の子がして見せるから妹を助けてほしいと言い切るようになるまでに、いったいどんな目にあってきたのか……


「あ、あの……」


「おねえさん?」


たまらなくなったハルカは思わず二人を抱きしめていた。この小さい体でこれまで生き抜くために、いったいどれだけの苦しい目にあってきたか。


「ごめんなさい。大丈夫、美鈴ちゃんも怖い目に合わせたりしない。絢香ちゃんと一緒に頑張って生きましょうね」


「え?……」


「……お姉ちゃん」


涙交じりにハルカが言うと、張り詰めていたものが切れたのか、美鈴の両目から涙が流れだす。それを見た絢香が安堵した顔で見つめていた。


隣でそれを見ている花音も涙ぐんでいた。


「ハルカお姉さん」


「なあに?花音ちゃん」


「きょうだいっていいですね。カナタさん達を見ていても思ってたんですけど、なんだか、胸が温かくなります」


目の端に涙をにじませる花音に、それは人による。と教えないといけないのだが、もう少し後でいいかとハルカは黙って微笑んだ。



「本当にあの子達を連れていくつもりですか?」


時刻は夜。ハルカとアスカは毛布をかぶりながら見張りをしていた。感染者たちの動きに明らかに人為的な物があったことは確かなので、夜襲を仕掛けてくることは十分に考えられた。

もし仕掛けてきた場合に備えて警戒をしている。


それまで無言で二階の窓から外を見張っていたアスカが小声で聞いてきた。


「もちろんよ。このまま放り出すわけにはいかないし、美鈴ちゃんの体質は本人も言う通り、かなり貴重な存在。感染者の研究が大きく進歩するかもしれない。それに……」


「それに?」


「子供は大人が守るものでしょう?」


そう言い切ったハルカに、もうアスカは何も言わなかった。ため息をついたのは聞こえなかった事にする。


「本当なのでしょうか……」


「美鈴ちゃんの事?」


時折雲間から差してくる月明りがアスカの顔を薄っすらと照らした。アスカは眉根を寄せて懐疑的な表情をしている。


「私には……信じられません」


そう言うとアスカは姿勢を変えて、外に集中する。それはこれ以上の問答はする気がありませんという無言のアピール。そう受け取ったハルカは小さく息をついて、自分も外に集中しだした。


とりあえず逃げ込んだこの建物はハルカがにらんだとおり、銃砲店だった。日本では基本的に銃の所持は警察などの一部の機関を除き認められていない。

ただきちんとした手続きを踏めば、狩猟やスポーツ射撃の名目で銃を所持できる。そういう人がどこで銃や弾丸を手に入れるかというと、ここのような銃砲店である。

わかりにくいように看板もないし、大っぴらに営業しているわけではないが、それなりの数存在している。


知る人ぞ知るといった店なので、暴徒の襲撃から逃れたのだろう。この建物に襲撃された様子はなかった。住人の姿はなかったが、厳重に保管されていた銃器を回収している。


深夜になり、交代で休んでいるアスカもここで手に入れた国産の散弾銃を抱いて眠っている。なんでも憧れの散弾銃だったらしく、あまり感情を表に出さないアスカが眠るまで上機嫌だった。


海に落ちた時に刀以外の装備を落としていたハルカと、スリングが引っかかって支給のM-4とそれに装弾していたマガジン一つ分の弾丸。それだけが手持ちの武器だったが、ここに来るまでにアスカは全弾撃ち尽くしていたし、弾が切れた後はライフルで殴っていたから、M-4はもう使えない。

そこに来てここで武器を補充できたのは僥倖だった。


この銃砲店に保管されていたのは、よくある散弾銃が二丁とアスカが抱いているA-Boltという少し変わった弾を使う分類上は散弾銃の計三丁。銃弾が12ゲージが100発ほどとA-Boltの弾が60発ほどあった。

ハルカが使うのはミロクのよくあるやつ、とアスカが評する散弾銃で、根本が折れて弾を二発入れる事が出来る。もう一丁の方は弾が一発しか入れられないので、こっちにした。


アスカが見つけて興奮していた散弾銃は、散弾銃なのに散弾じゃないという。サボット弾という弾丸専用で弾は一発しか出ない散弾銃らしい。

見た目もゆずが使うライフルに近くて、コッキングレバーのあるボルトアクション式になっている。


正直なところ、射撃が得意ではないハルカには散弾銃はうれしい。射程距離は短いが、どうせ遠いと当てる自信がないし、接近すれば散弾が拡散するのでめっちゃ当たりやすいという、ハルカにとってうれしい仕様になっている。


音がでかいのはどの銃も一緒なので気にしない。ゆずが使うへカートよりはマシだろう。アスカが興奮気味に色々語ってくれたので、ハルカもそれなりに散弾銃について詳しくなれたのだ。


「天気が良くなってよかった。おかげでよく見えるもの」


眠気を飛ばすために独り言を言ったり定期的に体を動かしたりしながら見張りを続けた。この後アスカと交代して見張っていたが、予想に反して夜の襲撃はなかった。

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