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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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6-8

本人の希望で、絢香のほうから確認をする。といっても専門的な調査ができるわけではないので、下着姿になって貰って目視と体温くらいだ。


「はい。ごめんなさい恥ずかしかったわよね。もう大丈夫よ?次は……」


次、と美鈴の方を見ると美鈴はさっきよりましておびえている。自分の両肩を抱いて哀れになるくらい震えている。これは何を恐れているのか。同性とはいえ肌を見せる事なのか、ハルカ達が信じられず何をされるかわからないとおびえているのか、あるいは傷がある事を知られる事を恐れているのか……


ハルカは服を着た絢香を見つめる。


絢香はバツが悪そうに視線を逸らすと美鈴のそばに座った。


「お姉ちゃん。どっちにしてももう逃げる事は無理だとおもう。……私はこの人たちはあいつらとは少し違うと思った。お姉ちゃんはつらいと思うけど……」


しかし、おびえる美鈴は目の焦点さえあっていない。


「あの、少しお姉ちゃんと話してもいいですか?」


困った顔をした絢香がハルカにすがるような目で聞いた。ハルカは静かに頷くと、少し距離を空けて座って待つことにする。


「大丈夫でしょうか?」


花音は心配そうに不破姉妹の様子を見ている。花音の視線の先では、綾香が美鈴の耳に口を近づけて周りに聞こえないように配慮しながら言い聞かせているように見える。

ハルカ達としては一刻も早い隊への復帰を目指さないといけない。しかし、夢中で掴んでしまったあの姉妹の手を無責任に離す事はしたくない。


思っていたよりも早く絢香はハルカを呼びに来た。確認をお願いします。少し思いつめた顔でそう言った。


美鈴に近づくと、さっきほどではないがまだ美鈴の体は強張っている。しかしハルカの方をしっかりと見ている。


「それじゃお願いね。恥ずかしいと思うけど服を……脱いでくれるかしら?」


なるべく穏やかにそう言うと、美鈴は小さく頷いて震える手でボタンを外し始める。するりと上着が肩を滑り落ちた瞬間ハルカは息を飲んだ。

美鈴の二の腕にはしっかりとした歯形が傷として残っている。ただ、ハルカはその傷に不自然さを感じた。


「あの、お姉ちゃんの傷は……だいぶ前のものだし、噛まれたというかは、その……」


言いよどむ絢香を見て、ハルカは違和感の正体に気付いた。これまでに何度も感染者による咬傷を見てきた。奴らは噛みつくだけではない、その人間離れした顎の力で噛みちぎる。だから感染者が美鈴の腕に跡が残るくらい噛みついたのなら、その部分の肉は残っているはずがないのだ。


美鈴の傷は強いて言うなら感染者のあごを固定して歯を押し付けた。そんな傷のつき方だ。


「その傷は……人為的につけられたものね?」


ハルカがそう言うと、分かりやすく美鈴の肩が跳ねた。


「でも感染……いえもしかしたら発症していないという状態なのかしら?」


静かに問いかけるハルカの言葉に絢香も美鈴も目を見開いた。これまで傷を見せてきた人たちは例外なく美鈴を化け物扱いして追い払おうとした。それまでどんなに優しく接してくれていた人でも例外なく……


それだけにハルカの反応は意外だったのだ。


「どうして……」


絞り出すように美鈴が声を出す。


「どうして私がそこに至ったかの前に、少し聞きたいんだけど。あなた何か薬を服用した?もしくは投与された?」


そう聞くと美鈴の顔が分かりやすく歪んだ。それを見てハルカは悪い方の予感が当たってしまったと内心で思った。


「まあいいわ。なんであなたの状況が理解できたかというと、私の知り合いにも感染しながら発症していない女の子がいるからよ」


ハルカの言葉を聞いた美鈴の顔は、とても複雑な物だった。恐怖と失望、期待と興味。そういったものが入り混じっているようにハルカは感じた。


「その……女の子は今どうしてるんですか?」


「感染者研究施設というところで研究に協力しているはずよ。あなたさえよければ紹介するけど……そこでは完全なワクチンを作る研究もしているから、もし完成したらあなたも元に戻れる可能性はあるかもね」


そのハルカの言葉に美鈴と絢香は顔を見合わせている。表情はだいぶ期待のほうに寄っている。


「あ、あの……お願いしたいです。出来る事は、なんでもします」


美鈴は控えめに、でもしっかりとそう言った。


その顔を見てハルカは頷いた。


「でもすぐには無理よ?まず仲間と合流して目的を果たして帰ってから、になるもの。その間ここで待つか、危険ではあるけれど着いてくるかの判断はあなた達に任せるわ」


「頑張ってついていきます。よろしくお願いします」


ほとんど即答で絢香が言った。まあこんなところに取り残されても困るか。実質選択の余地はなかったとハルカは苦笑いした。


「でも素性の知れない人を連れていけないから、話せる程度でいいわ。あなた達の事を教えて」


ハルカがそう言うと、また二人で顔を見合わせた後、ゆっくりと話し出した。


「私たちはいくつも避難民キャンプを渡り歩いてました。ちいさな女の子を受け入れるキャンプは少なかったし、受け入れてくれても変な目で見られたり、そんなところばかりでした。そしてある日たどり着いたキャンプで事件が起きたんです。キャンプで作業をしていたお姉ちゃんが感染者に襲われました。必死で逃げるときにどこかで傷を負ってしまったんです。」


そのせいでお姉ちゃんと付き合った私は隔離されました。しばらく我慢すれば解放されるはず、お姉ちゃんは感染なんかしてるはずない。そう思って。そして十日以上たっても解放されませんでした。そのキャンプの人で遠山っていたんですけど、そいつのせいでお姉ちゃんは大変な思いをしたんです。変な宗教を作ってお姉ちゃんを利用して……お姉ちゃんは何度も感染者に噛まれました。遠山のせいで。それで逃げて来たんです」



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