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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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6-6

「それでだね。カナタ君の今後の事なんだけど……」


詩織が落ち着くのを待って喰代博士がそう切り出した。


「お兄ちゃんの今後……というと?」


かわいらしく首をかしげるヒナタに博士はわずかに眉根を寄せた。これか言う事に思うところがあるようだ。


「う~ん……君たちが仲がいい事は良く知ってるし、隊としての活動も理解してる。それを全部理解したうえで言うんだけど、カナタ君はウチの研究所に来てもらいたいと思ってるんだ。これは№4の松柴代表にもまだ言ってないけど、多分了承されると思ってる。後は君たちに納得してもらうだけなんだけど……」


隣のテーブルに座っているダイゴとスバルは何も言わず様子を見ている。伊織や夏芽は関りがそもそもそんなに深くない。問題はカナタの両隣に座る二人の少女だけだ。

話を聞いた瞬間、ヒナタは悲しそうな顔になり、ゆずは表情をこわばらせている。


「それは……カナタ君を使って実験をしたいという事?」


やや剣呑な雰囲気を言葉に乗せたゆずが喰代博士をまっすぐに見つめて言った。変な事を言ったら即座に撃つ。そんな気配さえ見せている。


「いやいや、そんな事はしないとも。ただ……」


「ただ……?」


「カナタ君は半感染者だ。いまだ完全には解明されていない。詩織ちゃんもそうだけど、いつどんなことが起きるかわからない。それにね、カナタ君はまた少し特殊でね」


そう言うと二人の顔をじっと見て博士は言葉を続けた。


「二人はこれまでの話を聞いて疑問に思わなかったかな?詩織ちゃんが死んでいたカナタ君をよみがえらせたところとか」


博士がそう問うと、ヒナタもゆずも考えているが答えは出てこない。特に疑問が浮かばなかったか、そんな事を考える余裕がなかったのどちらかだろう。

しばらく待って博士が口を開いた。


「カナタ君は詩織ちゃんの血液を体内に入れて生き返った。それはいいんだけど、詩織ちゃんは半感染。薬で発症をしないようにしているにすぎない。つまり、詩織ちゃんの体を発症しない状態にしているだけで、ウイルスをどうにかしたわけじゃないんだ。そのうえで感染するような行為をした相手は普通どうなると思う?」


「どうなる?今のカナタ君が答えでは?」


ゆずがそう答え、博士は黙って首を振った。そして、それまで細いおとがいに手をあてて考えていたヒナタが、どこか恐れるような様子を見せながら言葉を発した。


「……感染、して発症……する?」


「正解。普通はそうなるはずなんだ。カナタ君に薬を投与したわけじゃない。薬は投与した個体にしか影響を及ぼさない」


それがどういう事か、これまで生き延びてきた者達がわからないはずはない。本来であれば、カナタがカナタのままで、ここにこうしている事がありえない事なのだから。


おそるおそるカナタを見るヒナタとゆず。カナタは困ったような笑顔で黙っている。


「本当なら私は立場的にカナタ君を、何の対策も講じずにこの場に連れてくるということは間違っている行為だ。いつカナタ君の身に変化がおきるかわからないのだからね」


そう言うと博士は目の前のコーヒーを一口含んだ。


「じ、じゃあなぜカナタ君は普通にしてる?感染者なら私たちに襲い掛かるはず!」


テーブルを叩いて立ち上がりながらそう言ったのはゆずだ。父親を始め、救い損ねた一般人など、幾度となく目の前で感染者に噛まれ、発症するのを見てきたゆずには、今のカナタがそれと同じとは到底思えなかった。


「だからだよ。君たちにとっては辛いだろうし、受け入れがたいと思うけどカナタ君はこれまで通り君たちと行動を共にするべきじゃない。もちろんいつか感染者の事が解明されて、ちゃんとしたワクチンができて体内からウイルスを一掃できる日が来れば元通りに暮らせる日もくるかもしれない。でも、現状それは未知数なんだ……」


「なあ、ゆず、ヒナタ。俺もできればお前たちと一緒にいたいし、一緒に暮らしたいと思う。でも、自分が自分でなくなることは怖いんだ。万が一、俺が自我をなくしてお前たちを傷つけたと後で知ったら……俺は自分で自分を許せなくなる。この気持ちはわかってくれるな?」


カナタは真摯にゆずやヒナタに向けて諭した。自分の気持ちや感情も隠さずに吐露した。そうしないと納得してくれないだろうと思ったからだ。


「じゃあ……お兄ちゃんはこの後、博士と一緒に帰るの?せっかく再会できたのに?また私は頑張らないといけないの?」


ヒナタが俯いたまま震える声で聞いてくる。カナタはそれを聞くだけで胸が締め付けられる思いを感じるが、そっと胸の奥の方にしまい込んだ。


「ヒナタはここまでちゃんとやれてきたじゃないか。それに一緒には活動できなくても二度と会えないわけじゃないし、何かあったら相談には乗れる。経過を見て、博士が問題ないって判断したら詩織ちゃんみたいにある程度自由に外出できるようになるって言ってくれてる。むしろあそこで死んでいたら二度と会う事もできなかったんだ、それに比べたらたまに会えるだけでもだいぶマシじゃないか」


ヒナタの頭をそっと撫でながらカナタは優しく諭すように言った。ぽとりと膝の上に揃えておかれたヒナタの手の甲にしずくが落ちたが、それは見なかったことにする。


「……わかった。カナタ君がそう言うなら、私は我慢する。でも……もしカナタ君が非道な扱いを受けるような事があったら、私は全部の都市を敵に回しても研究所を破壊してカナタ君をさらっていく。それだけは覚えておいてほしい」


そう言うとゆずはすっと立ち上がり、テーブルの間を縫って外に出て行った。


「ほら、ヒナタ。隊長としていまのゆずを放っておくべきじゃない。原因が俺にあるから申し訳ないのはあるんだが……行ってやれ」


カナタが優しくヒナタの背を押すと、顔を上げたヒナタはしっかりと覚悟を決めた顔をしていた。そしてゆずの後を追って店を出て行く。


「ふう……」


なんとか、納得を得られたかは微妙だが話をすることはできた。でも、動揺はするだろうがきっと乗り越えてくれるとカナタは信じている。


「なあ、ダイゴ、スバル。お前たちは今は別の隊の隊長になって、それぞれ忙しいのは分かってるんだが……」


「分かってる。ちゃんと見ておくし、必要なら手助けもする。僕にとって自分の部隊は大切だけど十一番隊として一緒に過ごした仲間も大切だからね」


「そうだぜ。そんな事は言われるまでもないっつーか……お前ほんとになんともないのかよ?」


カナタが皆まで言わずともダイゴは十全に理解してくれていたし、スバルはそのうえでカナタの心配までしてくれた。……いい仲間に恵まれているな。声にこそ出さなかったがカナタはそれを実感して感謝した。


「ああ。今の所な。まあ不自由ってのはあるが、別に体に異変は感じないな」


そりゃ、片腕無いんだから不自由だろうよ。と、スバルは口をとがらすがそれ以上は言わない。


「まあ、今後の話はそれまでにして……ああちょうど戻ってきたね」


喰代博士が話を進めようとしたところで、ヒナタに付き添われてゆずも戻ってきた。……その目が真っ赤になっている事には誰も触れない。


「今後はともかく、今はここからどう動くかだ。」


喰代博士がそう言って、後をカナタがついで話し出した。


「現状俺たちは目的地への半分強の行程の所にいる。俺や詩織ちゃん、喰代博士は用事を済ませ次第戻るべきなんだが……明石大橋は通れない。四国に渡る手段は三つしかなく、ここから一番近いのは瀬戸大橋。目的地の倉敷から渡るしかない。つまり、四国に戻ろうと思ったら嫌でも倉敷方面にいくしかないってことだ。」


それを聞いたゆずは真っ赤な目を丸くさせて、思わずといった様子で声を出した。


「え……それって……。」


「ああ、しばらくは一緒に行動するしかないって事だな」


苦笑いを浮かべてカナタはそう言った。

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