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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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6-4

コロコロと転がっているグレネードランチャーの弾頭を苛立たし気にゆずは蹴飛ばした。一回目の音響弾の事が頭にチラつき動けなかった。こうなる事を予想してあえて空の弾頭を使ったのだろう。それが分かるだけに余計に苛立たしい。


だが、今はそれよりもパーカーの男だ。次原が逃げる時間を稼ぐために撃ったのだろうが、パーカーの男は目の前の次原達よりもヒナタ達の方をかばう動きをしていた。

ゆずの腕の中にいるヒナタはいまだに力が入らないのか、ゆずに身を預けている。


「ヒナタ?まさか、どこかけがを……」


そこに考えが至ったゆずがヒナタの肩を掴み顔を覗き込んだ。


「ヒナタ?」


泣いている。まるで、子供のように……どちらかといえば冷静で気丈なヒナタがこれほどまでに感情をあらわにすることはほとんどない。あるとすれば……


バッとゆずが顔を上げる。パーカーの男はゆずの近くまで寄って来ていた。そして左手をフードにかけ、背中に落とした。


「あ…………」


ゆずも絶句してしまった。言葉にならないという感情をはじめて感じた。


「遅くなってすまない。まあ、ぎりぎりだったけど間に合ってよかったよ」


そう言って大きな傷の入ってしまった顔で優し気に微笑む。


「……カナ、タくん」


自分が思っているよりも情けない声が口からこぼれる。それだけだはなく、両目からもこぼれようとしている。


「ゆず、ヒナタ。ただいま」


カナタがそう言うと、たまらなくなったのかヒナタが勢いよくカナタの胸に飛び込んだ。


「お兄ちゃん!」


カナタは片腕でそれを優しく受け止める。


「私頑張った……お兄ちゃんのかわりをしようって……」


「うん、そうみたいだな。よく頑張ったよ」


微笑んだままカナタが言うと、顔をうずめたままヒナタは激しく首を振った。


「違うの!私じゃうまくやれなかった……みんなを守る事ができなかった。さっきも……お兄ちゃんが来なかったらきっとダイゴさんは……やっぱりだめだよ。私じゃうまくできない……お兄ちゃんじゃないと、だめだよ……」


途中から涙声になったヒナタが首を振りながら言う。カナタはそんなヒナタの頭をそっと撫でている。

カナタの分までなんとかする。それを胸にヒナタはここにたどり着くまで気丈に振舞っていた。ゆず達もヒナタが指揮を執る事に違和感なく従ってきたのだが……


思っていた以上にヒナタの心に負担をかけてしまっていたようだ。

音響弾の効果から復帰したダイゴとスバルも近くまで来ていたが、誰も泣きじゃくるヒナタに声をかけることができなかった。


ひとしきりカナタの胸で泣いていたヒナタはふいに顔を上げて振り向いた。右手はしっかりとカナタを掴んでいるため、そこから動く気はなさそうだが、ゆずを見てこっちに来いと手招きする。


「どうしたの、ヒナタ?」


負担を強いていた事に負い目を感じていたゆずは少し距離を離して二人の再開の邪魔をする気はなかったのだが、呼ばれたのでヒナタに近づく。

何か言いたいのかと思って顔を近づけたゆずの胸元を掴んでヒナタは思い切り引き寄せた。


「ちょ、ヒナタ?」


引き寄せられたゆずはカナタにぶつかりそうになりながらヒナタにどうしたのかたずねるが、ヒナタは何も言わず掴んでいる手をカナタにぐいぐいと押し付ける。

間近にカナタの温かさやにおいを感じ、ゆずの我慢していた感情もぐらぐらと揺さぶられる。


「ゆずちゃんも……一杯心配したんだから。甘える権利はあると思う……」


顔はカナタの胸にうずめたままそう言ったヒナタの真意を知って、ゆずの顔がくしゃりと歪む。


「ゆずも。心配かけたんだろうな、悪かった。ヒナタみたいに抱きしめたいんだが、手が足りないんだ……悪いけどセルフで」


冗談めかしてカナタがそう言ったところで、ゆずの涙腺も決壊した。


「カナタくん!」


かばっとカナタの胸にしがみつく。右手が無くなってしまっているカナタがそれを抱きしめる事はできないが、しっかりと胸で受け止める。


「私は信じてた……だからそこまで感動してるわけじゃない」


強がりの言葉を吐きながらも声はしっかり涙声になっているゆずの頭もヒナタと交互に撫でる。


「そうだな。ゆずは強いからな。だけど、俺はゆずの生意気な言葉が聞けなくてさみしかった。だからしばらくそうしていてくれると俺がうれしいかな」


優しく、ささやくようにカナタが言うと、ゆずは頭をぐりぐりとカナタの胸に押し付ける。


「仕方ない。これはカナタ君のねがい。私は心が広いから言う事を聞いてあげる」


こもった声でゆずが言うと、ダイゴとスバルも笑いながらそれを見守っている。ここにいる全員が聞きたいことは山ほどあるはずだ。しかし誰も声を出す者はいないし、そこまでの関係はまだ気づいていない由良や夏芽でさえ遠巻きに見て邪魔をするつもりはなさそうだ。


次原たちは引いたようだけど、通りに出れば感染者がうろついている。

それでも今この時を止めさせようとする者はいなかった。



ヒナタとゆずが落ち着くのを待って、近くにあった使われていない元喫茶店らしき建物に一時避難した。今はめいめいに食べ物や飲み物を楽しんでいる。

なぜならば物資を運んできた人がいる。


「ほら、ダンゴさん。こっちも食べてみて?№3ではな、今屋台が流行してんねん。一番人気のある所に押しかけて買い占め……買い求めてきてん」


二人掛けのテーブルに座り、ダイゴにパックに入っている食べ物を押し付けるように渡しているのは、№3守備隊現隊長の藤堂伊織だ。

背負っていた山のような荷物のほとんどがダイゴのために持ってきたものらしく、次から次に出してはダイゴに渡している。


「ほんとだ、おいしい。ありがとう伊織ちゃん。僕のためにわざわざ無理を言って買ってきてくれたんだね」


柔らかく微笑んだダイゴがそう言うと伊織は顔を真っ赤にして大げさに手を振る。


「ちゃ、ちゃう。違うで?無理してないからな?普通に、ふつーに買っていただけだから」


ダイゴは慌てて否定する伊織を温かい目で見ている。その隣ではスバルと夏芽が座っていて生暖かい視線を向けているが……


少し離れた四人掛けのテーブルではカナタを中心にヒナタとゆずが挟むように座り、カナタの苦笑いを誘っている。その向かいには喰代博士と藤堂詩織が座っている。


「よかったねぇ。君たちを眺めていると犠牲が無くて本当に良かったとしみじみ思うよ。」


テーブルに肘をついてカナタやダイゴの事を眺めている喰代博士がそう言うと、隣に座っている詩織もうんうんと頷く。

今回ばかりは離れろと言いにくいカナタは。ヒナタやゆずがくっついてくるのを好きにさせて受け入れている。


「皆さんがいてくれたから、お兄ちゃんにこうして会う事ができて……本当に感謝してます」


カナタの腕にしがみついたままだが、何度目かになるお礼をヒナタが口にする。


「いやあ、間に合ってよかったよ。目の前で橋が崩壊した時にはどうしようかと思ったけどね。それに……興味深い情報も知ることができたしね」


ただ……。と、喰代博士が顔を曇らせる。


その先は言う必要がないとゆずが手を上げて喰代博士がそれ以上言うのを止めた。


「博士。博士の言う事は理解してる。私たちとしてはさっきヒナタが言った言葉が全て。こうしてカナタ君と会う事ができている。それが一番」


ゆずがそう言うのを聞いて喰代博士は小さく息を吐いた。


「わかったよ。そうだね、いまが全てだ。もちろん今後の事も考えていかないといけないだろうしね」


あえてだろう。少し明るめの声を出して喰代博士がテーブルの上に置いてバッグから荷物を拡げた。そこには大量の菓子パンがある。


「№4に寄った時に、君たちの宿舎に寄ったんだ。もちろん留守だったんだけど、ちょうど君たちを訪ねてきた女の子と会ってね。言付かってきた。」


そう言って喰代博士は片目を閉じた。

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