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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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5-9

ダイゴに後ろから羽交い絞めにされているゆずは大粒の涙を流しながらヒナタを睨んでいる。


「……じゃあ言ってよ」


そんなゆずから目線を下にそらして小さい声でヒナタはそう言った。声は小さかったものの、ゆずには届いたようでピクリと肩を跳ねさせた。


「私は何?ゆずちゃんにとって私は相談するにも値しない存在だったの?」


声の調子を落として、目に一杯の涙を貯めたままヒナタがそう言うと、ゆずはバツが悪そうに眼をそらした。


「お兄ちゃんのかわりにはならないけどさ、私だってゆずちゃんの力になりたいよ。親友だもん。ゆずちゃんは私の事をそう思ってくれてなかったの?」


ヒナタの悲痛な声を聞いて、だんだんと怒りのボルテージを下げたゆずはしまいには目じりを下げて小さく謝りの言葉を口にした。


ようやくおちついたか……誰もがそう思った時、それまで騒ぎの外にいた夏芽が鋭い声を出した。


「感染者や!さっきのやりとりに寄ってきおった」


ゆずとヒナタに気を取られていたせいで少し周りに対する警戒がおざなりになっていたのかもしれない。慌てて駆け寄り、指をさす夏芽の隣に立ってみると広い道路からこっちに、姫路城への入り口に向かって集団が近づいている。


「どうする?」


「迎え撃つには数が多すぎるよ。僕は逃げるべきだと思う」


ぼくはこの調子だしね。と言ってダイゴは骨折している手を軽く揺らす。スバルはそれを見て苦い顔をしていたが振り返ってヒナタを見た。

今ではダイゴもスバルもそれぞれ隊を率いる隊長である。それでも判断をヒナタにゆだねようとしているということは、この部隊が十一番隊であるということ、カナタが隊長であるという事を忘れずにいて、かつカナタが不在である現状、その妹であるヒナタが指揮をとるべきと思っているのだろう。


任せてもらった。確かにその意思を感じたヒナタは自然表情が引き締まり、無意識に背筋も伸びている。


「了解しました。僭越ながらこれから隊長であるおに……カナタが戻るまでこの剣崎ヒナタが指揮を預かります!」


やや硬すぎる口調ではあるが、ここにいる全員が肯定の表情や雰囲気を出している。


キッと睨むようにヒナタは感染者の集団が迫る入り口の方を睨むように見つめる。気づくまでにかなりの数がお城の敷地内に入ってきているようで、このまま逃げようとしても逃げ道がふさがれてしまう危険性が高いと思われた。

ヒナタにとって指揮、といっても経験があるわけじゃない。ただこれまでカナタの近くにいてそれを見てきただけにすぎない。

だからヒナタはまず自分の考えを抑え込んで、カナタならどうするであろうかを考えた。ヒナタに指揮の経験がなく、ここが十一番隊である事、それらを考えた時そうするべきだとすぐに考えが至ったのだ。


(お兄ちゃんなら……まずはみんなの安全を優先すると思う。避ける事ができるなら戦いを避け、どうしても避けられない

なら、可能な限り安全に迎え撃てる位置や配置を考えるはず……)


そう考えヒナタは口を開いた。


「ゆずちゃん、由良ちゃん」


呼ばれた二人はかたや待ってましたとばかりに、かたやびくりと肩を跳ねさせながらヒナタの方を見る。


「観光場所になったといっても、ここはお城。攻められることは想定した造りになっています。それらを利用しながら足止めをしてください。使える武器は何でも使っていいです。」


そう言うとゆずは不敵な表情を見せる。さっきまでの消沈しきっていた表情とは大違いだ。やはりゆずはこうでないと、とヒナタは思ってしまい、頬が緩むのを感じた。


「了解した。ちょうど少しストレスが溜まっていたとこ。いつもよりいい働きを期待していい」


そう言うとゆずは早速迎え撃つ準備を始めた。


「危険な位置まで近づかないでね?撤退の指示が出たら安全に動ける程度の安全マージンは忘れないでね?」


一応そう声をかけると、ゆずはもうこちらを見ようともしないでただ親指をあげて了解の意を伝えてくる。

それに苦笑いしながら由良のほうをみると、由良はわかりやすく動揺していて、両手を胸の前で握っておびえている。


「由良ちゃん?何も盾にしようとか足止めに使い捨てにしようとか言うわけじゃないの。他のみんなが安全に撤退できる隙を作るのと、万が一逃げられなくても可能な限り有利な位置で迎え撃てるよう動ける時間を作ってほしいの。もちろん由良ちゃんの安全を最優先したうえで……お願いできるかな?」


おびえる由良の両肩を掴んで、しっかりと目を合わせながら自分の考えを言ったヒナタの視線に、最初はうろうろと動きまくっていた由良の目線がしっかりとぶつかりあう。由良にとって相棒であるアスカがいない事が大きな不安を生んでいる事は承知している。だからと言って使える駒を使わないで乗り越えられる状況とも思えないのだ。


由良はぐっと息を飲むとヒナタの目を見ながらしっかりと頷いてくれた。それにヒナタも満足そうに微笑んで頷くと、準備をしているゆずの方に由良をそっと押し出した。あとはゆずがうまく誘導してくれるだろう。


「私たち前衛はこれから退路の確保に向かいます。どこまで感染者が入り込んでいるか分からない以上遭遇戦になります。油断だけはしないようにしましょう。夏芽さんは私たちの少し後ろから着いてきてもらって、私たちの後ろのカバーと余裕があれば牽制をお願いします。」


いつも一緒に戦っている十一番隊はお互い何も言わずとも最適なポジションに動いて息の合ったコンビネーションも披露する事ができるだろうが、ある意味よそ者である夏芽に息を合わせろと言うのも無理な話だろう。それならば援護や遊撃という位置にいてもらい、好きに動いてもらった方が戦力になると判断しての事だ。

スバルもダイゴも何も言わないところをみるに間違った判断ではないだろう。あとは……


「ところでダイゴさん、怪我の方は……」


「ん?ああ、もちろん左腕は動かせないけど、ひどく傷むわけでもないし右手は使えるから気にしないで。僕が盾だけの男だと思ったら大間違いだからね?」


あえてひょうきんな言い方をして元気にみせているが、痛みがないはずがない事は診察をしたヒナタが一番分かっている。部隊の備品にある痛み止めだけでは絶対抑える事が出来ていないはずなのにダイゴはあえて飄々とした様子を見せている。それが分かっているがヒナタがそれをおくびにでも出すわけにはいかない。それはダイゴに対してとても無礼な事だと思っている。だからいつもどおりに動いてもらおうと思った。


「分かりました。無理だけはしないでください。私やきっとスバルさんもいつでもカバーに入る気持ちはありますので」


そう言うとダイゴは安心させるように微笑んで頷いた。


「じゃあスバルさんは私と最前線です。よかったですね、女の子と二人で歩けますよ。ある意味デートといってもいいかもそれませんね」


にこりと微笑んでスバルの前に立ち、そう言うとスバルはたじろいて数歩下がった。


「い、いやあ……そういうのはもう少しいい感じのシチュエーションの時がいいなぁ……あ、もちろんヒナタちゃんが嫌なんじゃないよ?ていうか、もしそんな事になったら俺はカナタにどんな目にあわされるか分かんないなぁ」


そうなった時を考えたのかスバルは少し遠い目をした。

たしかにカナタはヒナタの事を大事にしてくれているのは実感しているが、そんなことまでいちいち口を突っ込んでくるかなぁとヒナタは首をかしげているが、スバルからしたら絶対介入されると思っているようだ。


そうなった時を少し想像して、その微笑ましい平和な光景にヒナタは思わず嬉しくなり微笑んだ。ちょうどその時、日が差しヒナタに太陽の光が当たって、ヒナタの微笑みに幻想的なものを加えてまるで絵画のような光景を作り出す。


近くで見ていたダイゴとスバルが思わず口をあけたまま呆けたように見つめてしまうくらい、それは美しかった。


「うん、やっぱりカナタに刺されるかもしれないなぁ」


スバルは苦笑いとともにもう一度呟くのだった。

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