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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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5-7

その後難しい顔のまま由良の傷にも処置を終えた頃には全員の意識が戻っていた。しかし無事を喜ぶこともなくただ悄然としている。

ヒナタ達がいる砂浜は開けた場所にあり、遠くからでも視認しやすくなっている。それは危険でもあるのだが、それよりも離れ離れになってしまっている仲間が合流できる可能性に賭けこの場にとどまっている。

はたしてそれが正しい判断であるかどうかは分からない。それを判断する立場にあるカナタがこの場にいないからだ。


「お兄ちゃん……」


思わずヒナタの口からその言葉がこぼれた。今までは口に出せば弱気になるような気がして意識して口にしないようししていたし、考えないようにしていたのだ。口にした途端不安が胸いっぱいに広がり、まるで迷子の子供のような顔になってしまっている。

これからどうするべきなんて事はまったく分からない。普段なら自分もたっぷり悩みながらでもカナタは道を示してくれたであろう。


誰も言葉を発しない空間に波の打ち寄せる音だけが定期的に聞こえるばかりだ。普段軽口ばかり叩いている夏芽すら何も口にしない。もともと口数のすくない由良は黙って地面を見続けているしダイゴも難しい顔をして考え込んでいる様子だ。


大丈夫。きっと大丈夫……お兄ちゃんはきっと生きてる。追い込まれてからが強いんだから……


胸の内に不安を閉じ込め、ヒナタはぎゅっと手を握りこむ。


「あと30分待って変化がないようでしたら移動しましょう。いつまでもここにいてよからぬ人たちに見つかっても厄介です。今の私たちはほとんどが女性で唯一の男性のダイゴさんは明らかに怪我をしている事が見ただけでわかりますから……」


カナタの代わりであるとばかりにヒナタが真剣に言うと、由良と夏芽はぼんやりとした表情でダイゴはケガの件で負い目があるのか申し訳なさそうな顔をしながらも頷く。それらを見ながらヒナタはうつむいて三角座りをしているゆずの隣に座る。

普段は気丈なゆずだがこの場にカナタがいない。それだけで大きな衝撃をうけているようで声を出すどころかうつむいたまま顔すら上げない。


「ゆずちゃん……準備しとこうね」


言いながらそばに置いてあるゆずのライフルをライフルケースにしまおうとするがそれにも反応を見せない。射撃には並々ならぬ想いを持っているゆずが自分の愛銃と言っても差し支えないへカートを他人の手にゆだねる事はない。いくらそれが親友であるヒナタであっても自分の手でやろうとする。

それがちらりと視線を向けただけで再びうつむいてしまう。ゆずの中でカナタという存在がどれだけ大きい柱になっていたのかを実感してヒナタもそれ以上声をかける事ができなくなった。


……お兄ちゃんが戻ってくるまでは…自信はないけど私が代理をするから。早く戻って来てね。


心の中でここにはいないカナタにそう告げるヒナタは不安げな胸中とはうらはらにきりっとした顔で周りを見て言った。


「いつでも移動できるように準備はしておいてください。夏芽さん、悪いですがあなたも戦力の一人として数えさせてもらいます」


ヒナタが表情を変えずそう言い放つとゆっくりと顔を上げた夏芽は苦笑いをしている。


「まあしょうがないな。ウチも死にたないし。武器は貸してもらうで?」


ほんとうに仕方がなさそうに言う夏芽にヒナタは自分の荷物から予備として携帯していた小銃を渡した。支給品であるがゆず達が使っているようなアサルトライフルではなくもっと小ぶりの形をしている。


「ん?よく見る奴と違うな?ま、いいけど」


特に気にすることなく夏芽は受け取った。本来であれば確実に仲間とは言えない夏芽に武器を渡すのはリスキーな行為だ。特に前線で斬りこんで行くヒナタのようなポジションでは後ろが信用できないと満足に動くこともできない。いきなり後ろから撃たれたらたまらない。


それでも今の状況を鑑みてヒナタは武器を渡した。裏切られるリスクよりも戦力が少しでも上がるメリットの方をとったのだ。

軽快な動きを動きを身上とするヒナタが携帯していたのは短機関銃というジャンルのMP-5という銃のレプリカだ。拳銃弾として使われている9mmパラベラム弾を使用する。威力や射程距離ではゆず達が使うアサルトライフルより劣るが軽快で反動が少なく命中精度が高い使いやすい銃らしい。

らしい、というのはヒナタは使った事がないからだ。

別に射撃が得意というわけではないしヒナタ的には斬りこんで行く方が性に合っているというのもある。


「使った事はないから使い方を教える事はできません。ゆずちゃんならコツを教える事もできるかもしれませんが……」


そう言ってゆずの方に視線をやったが、さっきと変わらない姿勢のまま地面を見つめている。はたして今の話も耳に入ったのかもわからない。


「ま、適当にがんばるわ。……期待したらあかんで?」


「大丈夫です。期待はしていません。味方さえ撃たなかったら十分ですので」


固い口調のままヒナタはそう言うと時計を見た。出発を告げた時から10分ほどが経過していた。




「やっぱりダイゴだ。お前遠くからでも目立ってんぞ」


間もなく出発の時間となったころ、そんな事を言いながら姿を見せたのはスバルだった。彼はそこまで流されなかったらしく、橋のたもとで目を覚ましたそうだ。そこから周りを見ていた時にダイゴらしき人影が見えた気がしてこっち目指していどうしてきたらしい。


「スバルさん、ここまで歩いてきたんですよね。ここがどこか分かりますか?」


ヒナタ達は流されてきた砂浜から動いていない。まだなんとか明石大橋が肉眼で見えることからそれほど遠くまで流されたわけではないと思っているが現状の把握は大事だ。

なんとなくいつもと雰囲気の違うヒナタにいぶかしげな顔をしながらもスバルは答えた。


「あー……兵庫?」


すごいざっくりした返事をしたスバルに全員が何とも言えない目で見ている。


「い、いや俺も一人だからずっとコソコソしてここまで来たからさ。ところでカナタは?」


見つからないように隠れながらここまで来たらしいスバルが最後に言った言葉に空気が凍り付いた。


「あ、あれ?」


あまり空気を読めないタイプではあるが、今の空気は察したのかスバルは焦って何かまずいことを言ったのだろうかと自問する。


「お兄ちゃんはいません……その、…………はぐれてしまったみたいで。お兄ちゃんとアスカちゃんが合流できていません」


「あ、そ、そうか」


ある可能性を含ませないような言葉を選んで言いよどむヒナタに、スバルも聞いたことを後悔せざるをえなかった。

そして何とも言えない沈黙が場を支配してしまった。ヒナタもスバルも何かを言おうとして失敗している。それを見かねたのか、ダイゴが立ち上がりながら声をあげた。


「まあ、ばらける可能性は考えていたわけだからさ。合流ポイントを目指すしかないんじゃないかな?この先なら姫路城だったっけ?」


あえて明るく言ったダイゴにヒナタもスバルもホッとしたような顔をしている。どうなっているのか全くわからない場所に行こうとしているのだから、もしばらばらになってしまった時に合流できるようにわかりやすい場所を合流ポイントとしてあらかじめ決めている。

明石大橋もその一つだったのだが、その次は姫路城を合流ポイントとしていた。もしカナタやアスカが違うところまで流されているとしたらそこを目指すはずだ。


「そうですね。ちょうど時間も経過しましたし出発しましょうか」





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