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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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5-5

「まいったね、思ったより範囲も広いんだね」


埃を払いながらダイゴは持っていた盾を投げた。ガランと大きめの音を出して地面に転がった複層の盾は下から三分の一ほどのところでおおきくひしゃげていた。

スバルはそれを見て大いに顔を引きつらせているし、カナタも背筋に寒い物を感じた。


「カナタ君、あの触手がやはりかなり厄介。撃ってみる」


そう言ってゆずがカナタの顔を窺う。許可を求めているのだ、ということに一瞬遅れて気付いたカナタは少し考えて頷いた。あれだけの大きさのものならばウネウネと動いていてもゆずは当てるだろう。問題はあれがどういった反応をするかだが……動きが鈍るだけでもいい。そう思ったカナタはゆずに許可を出した。


ゆずは素早く屈み、荷物を引き寄せると手早く取り出したものを組んでいく。意外だったのはゆずがそれをやりだしたらすぐにアスカと由良が傍に立って付近の警戒をしだした。

……思ったより息があっているのかもしれない。カナタがそう考えているうちにもゆずは手際よく部品をはめ込んで、ばらして収納していたへカートをくみ上げてしまった。


明後日の方向に一発撃ってゼロインをとると、へカートをマザーに向けて自分はその場に伏せた。


「全員警戒。さっきの所まで触手が届いたのがすでに予想外だったが、もしかしたらまだ隠している事があるかもしれんし伸びる事も頭に入れておいた方がいい。油断だけはするな」


そう言うと付近を警戒しながらゆずにいつでも発砲していいと合図を出した。


すぐさまこれまでと一線を画した発砲音が響いて、一本の触手に当たった。緑色の液体を散らしながらうねる触手が力なく垂れ下がった。


「やった!」


「!」


アスカと由良が喜んで手を叩き合っているが……まだわからない。


「あ……」


そのままだらりと垂れ下がるかに思えた触手は、再びうねると元の位置まで持ち上げられた。ゆずが撃った弾は触手の半分ほどをえぐるように貫通していたが、見る見るうちにその傷もふさがっていく。


「うそ、そんなのどうやって……」


それを見て愕然とするようなアスカの声がやけに大きく聞こえる、何しろ他の者は言葉を発する事も出来ずにいたからだ。


これまでの経験から傷は復活するだろうという事は想定していた。ただその速度が想定を大きく違っていたからだ。


「かなり早い。あの速度で復活されたら今の装備でも動きを抑えられるかどうか……」


呻くように言うカナタの言葉が全員の胸に重くのしかかる。もはやこの橋を通る事は不可能なのでは……とさえ浮かんでくる。今の装備は現状で準備できる最高と言ってもいいし、これまでそこまっで大きな戦闘をこなしていないので消耗も少ない。それでもゆずのへカートは威力で言えば隊で一番強い。それであれなのだから他の武器で攻撃したとしても動きをとめっられるかどうか……


「あとは……」


そう呟いて己の腰の部分を見下ろす。


「だめだよ。敵の情報が少ない今はまだ接近戦はだめ」


以前の別のマザー戦でも一定の効果を発揮したカナタの佩刀「桜花」ならどうなるだろうか。そう考えたのだが、ハルカがきつめに制止の言葉を投げてきた。


「でもな……」


「カナタ君。人にはうるさいくらいに危険を冒すなって言うくせに自分は割と軽んじる。その癖はなおしたほうがいい」


渋るカナタにゆずまでもが真剣な表情で告げてくる。そこまで言われるとカナタも黙るしかなかった。しかしこのままでは進むことはできない。

知らぬうちに歯を食いしばったカナタが口の中に鉄の味を感じた時、マザーがひときわ大きく奇声をあげた。


「ギャアアァァァァァッ!!」


思わず耳を塞ぐほどの声だ。ただ声を出しただけとは思えない何かしらの意志を感じる叫びにカナタの背筋に寒気が走った。いったい何だと耳をふさいだままマザーを凝視するが叫び声をあげている以外に変わった様子はない。しかし……


「カナタさん!」


後方にいるアスカの焦ったような声がマザーの叫び声に交じって聞こえる。それに慌てて振り返ると、アスカはさらにその後ろを見ている。


「どうし…………」


いったいどうしたのだと、アスカの隣まで移動しておそらく見ているであろう方向を見たカナタが絶句する。どこから出てきたのか後ろから感染者の群れが橋に差し掛かろうとしていたのだ。


「あいつ、仲間を呼んだのか?……」


コロニーを形成するマザーは自分の支配下にある感染者に対して指示を出すことができるのだろうとはこれまでの経験でわかっていた。だが支配下にない感染者は指示を聞くどころか下手をしたら敵対するはずだ。少なくともこれまで知りえた情報ではそうだった。そして今目の前にいるマザーはどうしてか知らないが嚢腫格が海中に在り配下を増やせないはずだ。


それゆえにマザーにのみ集中すればいいとこの可能性を考慮していなかった。前方にマザー、後方から感染者の群れ。そしてカナタ達は今、橋の上にいる。


「まずい……挟み撃ちにされる!カナタ、どうする?」


焦ったように言うスバルの言葉を聞きながらカナタは思考を巡らせていた。そもそも有効な手段がまだわからないマザーの方に突撃するのは愚の骨頂だろう。しかしぱっと見100近い感染者の群れに突撃するのもどうか……


橋の上という限定されたステージで乱戦はきびしい。放置車両くらいしか利用できるものがない場所で乱戦になったら、あるいはカナタ達十一番隊の生え抜きはうまく立ち回れば切り抜ける事が出来るかもしれない。しかし半感染でなくなり普通の人と変わらなくなっているという夏芽や経験の少ないアスカと由良はどうだろうか……


引くことも進むことも決めかねているカナタをあざ笑うかのようにマザーがまた叫び声をあげた。今度は先ほどとは違い思わず耳を塞ぐほどの音量ではない。それでも叫び声をあげるマザーの方を見ると、一本の触手が大きく振り上げられていた。


「気をつけろ!何かが来るぞ」


カナタが言うよりも早く全員が警戒の姿勢になっていた。大きく振り上げられた電柱よりもやや太い触手は、ややうねりながら何かをうかがうように揺れている。ただカナタ達がいる所までは届きそうもない。それに少しだけカナタがホッとしていると、再度マザーが叫び声を上げる。今度はなにか気合が入っているような、力を込めているような声……


嫌な予感が際限なく膨れ上がってくるのを感じながらカナタは全員に後退の合図を出した。後方からは感染者の群れが迫っているが、それを鑑みてもこの嫌な予感は無視できなかった。


それを受けて、何度も後ろを気にしながらも後退を始めた時それが訪れた。最初何が起きたのか分からなかった。急に重力がなくなったかのように体が浮き、周りは砂ぼこりで視界が遮られている。直後激しい衝撃と落下する感覚が襲って来た。


「うそだろ……」


何が起きたのか理解できたのは水面に叩きつけられた衝撃と固く重い物がカナタの体を水中に押し込んできた時だった……

ちょっと私生活が忙しいのと軽くスランプに陥っているような気がする今日この頃。

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