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【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られた都市~  作者: こばん
2-1.再会

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5-4

「来るぞ!」


言うが早いか桜花の鞘を払いカナタが構える。隣では重そうな音を立てながらダイゴが特別に作成された盾を構えている。スバルもそしてハルカも迎え撃つ準備をしている。

一歩下がってハルカが中衛として立つ。接近戦になってしまえばなかなか全体を見通せないカナタに変わり大局を見ての指示を出すためと後衛のゆずたちの護衛も兼ねている。


その後衛の三人はゆずとアスカは支給品のアサルトライフルを構え、由良はきれいな姿勢で弓を引く。


うめき声をあげながらカナタ達に向かってくる感染者の集団の中には走る感染者もいて、すでに少し引き離している。フォームもルートもなんなら障害物も関係なくただ生きている人間めがけて。


「ああぁぁ……」


のどから洩れるような低い唸り声が近づいてきて……後衛の一斉射撃が始まった。耳を突き破るような銃声が背中に響いてくるのを無視して見ていると、ほとんどの銃弾は弱点である延髄を正面から撃ち抜くように集中しているのが分かる。さらに近づいてきた個体には由良からの矢が飛んできて喉に刺さって延髄まで貫通させている。


走ってくる感染者が膝から崩れ落ちるように倒れれば後ろから来た別の感染者がそれを踏みながら前に出てこようとして激しい銃弾の雨に突っ伏すように倒れた。カシュッという音がして、誰かがマガジン一つ分撃ちきったようでカナタの耳にも「リロード」というか言葉が聞こえる。

装弾数は同じのはずなのにアスカが早いという事はやはり技術の差か、それでもすぐにゆずも撃ち尽くしマガジンを交換する音が聞こえる。


走ってくる感染者はゆず達の射撃で半分以上が倒れ、さらに倒れた感染者が邪魔になり勢いは大きく削がれた形になる。それを乗り越えてきた分はカナタ達の相手になる。


「オオッ!」


気合の声と同時にダイゴが盾を構えたまま突進する。盾の裏側に肩を添えて勢いと体重の乗った突進は正面から突っ込むことしか知らない感染者を三体ほどまとめて吹き飛ばしている。


「おおまるで除雪車だな!」


軽口を叩きながらスバルが巧妙に放置車両を利用し、小盾で相手の手をいなしながら確実に剣を突き立てていた。


それらを横目で見て、カナタが歩を進めようと一歩踏み出した時、肩に軽い重みがかかる。


「ごめんねおにいちゃん!」


後ろから助走をつけてカナタの肩を踏み台に大きく跳躍したヒナタがくるりと舞うように放置車両に着地した。それと同時に腰から抜かれた二振りの短刀はカナタの目でも負えないほどの速度で手近な感染者の弱点を切り裂いている。武器のリーチがないヒナタはその場にとどまりながら戦うのは分が悪い。当然ヒナタもそれを分かっているので目まぐるしく位置を変えながら武器を振るっている。時には感染者さえ踏み台にひらりひらりと舞うように。


カナタは一瞬勢いを削がれた物の大きく息を吸って刀を構えなおす。ここではさっきまでの弱気な考えは頭の中から追い出している。


「ふっ!」


息を吐くとともに間合いぎりぎりに所まで近づいた感染者の喉を薙ぐ。さしたる抵抗もなく桜花の切っ先が目の前の感染者の喉の先にある延髄までを切り裂いた。

電池が切れたように崩れ落ちる感染者を見ながら、一気に踏み込んだカナタがその感染者の額を思い切り蹴った。すでに力が抜けているそれは後ろから来る感染者の前に倒れこみ阻害する。それでもかまわず突っ込もうとすれば……


当然それにつまづいて転ぶという事だ。実際足元に倒れこまれた感染者が見事に躓き倒れこむ。


そこに待っているのは……桜花を振り上げたカナタだ。

顔面から地面に突っ込みかねない転び方をした感染者は無防備に弱点をカナタにさらしている。カナタは狙いを外さないように振り下ろすだけだ。


肉を切り裂く、いまだになれない感触を手に感じながら振り抜いた。しっかりと通過点にはその感染者のうなじを捉えて。

勢いよく倒れた感染者はそのままピクリとも動かない。


「カナタ君」


次を探そうと視線を戻したと同時にゆずが叫ぶ。その声を聞いた前衛の四人は同時に低くしゃがみこんだ。そのすぐ後に再び射撃音が響き、さっきより短い間隔で止まる。カナタが顔を上げると周りに動いている感染者はいなかった。


「次が来る、油断するなよ!」


それだけいうと、短く了解の意が返された。

こういった集団で襲い掛かって来るときには、どうしても走る感染者は突出してしまう。それさえうまくさばいてしまえばわずかに息をつけるくらいの猶予はできるのだ。


迫ってくる感染者は残り20体ほど……


いつもならここで一気に突撃して暴れまわる所だ。だが、カナタの頭にさっきまでの弱気な部分がひっかかり突撃の言葉を出す事の邪魔をする。


無意識だろう、突っ込み姿勢をしていたヒナタがちらりとカナタに視線を送る。


(くそ……こんな時におれは)


心の中で自分を叱責するが、もうタイミングを逃している。歩いてくるといってものんびりくるわけじゃない。それなりの速度はあるので中途半端な距離になってしまった。


「…………一度引いて、後衛に援護をもらう。」


こういった場でほんの一瞬の迷いは命取りになりかねない。カナタは初期位置までの撤退を指示した。


先ほどと同じことを二セット行い、20体ほどの感染者は残らず地面に伏している。


「おいカナタ……」


スバルが声をかけてこようとしたが、カナタはあえて気付かない振りをした。おおよそ一キロ先にいるマザーに目を向ける。


「……これからが本番だからな」


一人呟いたあと、マザーに向かって接近する合図を出す。何か言おうと近寄ってきていたスバルもそれを見て眉をひそめながら指示には従ってくれた。




「でけぇ……」


のこりをおおよそ200mほど残してカナタ達足を止める。明石大橋を支えているだけあって太い柱が空に向かって伸びているのだが、それに巻き付くマザーの胴体も同じくらいの太さがある。近づいてみるとその異様さも際立って見える。


あの奇声こそ発しないものの、マザーの視線はカナタ達に固定されている。それを見返していると、ふいに日が陰った。

カナタの背筋に一気に寒気が走る。


「散開!!」


もう周りも見る余裕もなく、後ろに向かって走りながら大きく飛びのいた。


ドゴオオォォォン


腹に響くような音と衝撃。一気に立ち上った砂煙で遮られる視界に勢いよく落ちてくるワイヤー。


ガン ガガガン


鉄同士が当たってこすれ合う音を響かせながら、かなりの質量と威力を感じさせる音。橋が大きく揺れて落ちるのではないかと思えるほどの衝撃だった。

砂煙がゆっくりと晴れていき取り戻した視界がとらえたものは橋を支えているワイヤーがちぎれて端にあった車を巻き込んで橋の向こうに消えていた。

幸い中央近くにいたカナタ達にはケガらしいケガはなかったが、もし巻き込まれていたら確実に命はなかっただろう。


「……むちゃむちゃしやがんな……」


思わずつぶやいて正面を見ると、先ほどまではなかった触手が二本揺らぐようにマザーの頭上にあった。遠くから見た時とここまで接近してくるまでの間、触手の位置と本数は確認したつもりだったが、把握できなかった触手があったらしい。


そしておそらくその二本の触手で橋を叩いただけで全体を揺らすような衝撃とこれだけの橋を支えているワイヤーを引きちぎる威力があるという事になる。


……如月さんの言う事はもっともだということか。むしろあれを受けて生きているほうがすごい。


改めて嘆息していると、目の端に次々と立ち上がる仲間たちが映る。怪我がない事はよかったが、ますますここを通り抜ける事が難しくなった。


仲間たちに悟られぬようにひっそりと息を吐くカナタだった。


読んでいただきありがとうございます。作品について何か思う事があったら、ぜひ教えてくれるとうれしいです。

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